Last  始まりに続くエピローグ

 闇が世界を侵食していた。


 星野空人を中心に真っ黒な闇が街を包み込む。

 暴れる者、震える者、逃げ惑う者、倒れている者。


 何ひとつ区別なく生き残った全てに闇が襲い掛かった。


 空人の手には真っ赤なジョイストーンが握られている。

 ヒビの入ったそれを力いっぱい握りしめ、空人は手に入れたばかりの力を解放する。


「大丈夫、お前の悪行は俺がすべて塗りつぶしてやる」


 闇に飲まれた人間は一人の例外もなく動かなくなった。

 この街はたった一人の人間の手で終わろうとしている。


 これは星野空人のケジメ。

 ラバース社という大悪の後始末。


「だから気に病むな。あっちで大切な人と幸せに暮らしてくれ」


 L.N.T.から逃げた者たちと同じ。

 空人もまた戦うことを選んだ。


 今の自分が本来の自分ではなく、何者かによって作られた意思に束縛されていることは自覚している。


 それでも記憶は消えない。

 すべての怒り、憎しみ、悲しみを背負う。

 綺に向けられるべき恨みは、残らず自分が肩代わりして生きる。


 空人は手の中の真っ赤なジョイストーンに目を落として呟いた。


「おやすみ、綺」




   ※


 激しい振動とけたたましく回転するローター音。

 小石川香織と神田和代は身を寄せ合って座り込んでいた。


 実に六年ぶりとなるL.N.T.の外の空気は油と埃にまみれていた。

 彼女たちを救出したヘリから出てきたのは軍服姿の外人たち。

 彼らによってまるで荷物のように機内に押し込められた。


 作り物ではない夕日の眩しさが疲れた体に心地よい。

 窓の向こうに広がる空と海のオレンジ色はどこまでも澄んでいる。


 このヘリに詰め込まれた香織と和代、そして六人の子どもたち。

 ようやく手にした自由を味わう間もなく深い眠りに落ちた。


 とにかく今は休みたい。

 別のヘリに乗せられたちえりと翔樹。

 そして残り五人の子どもたちも同じように思っているだろう。


 たった今、脱出したばかりのL.N.T.のある喜宝島が不自然な闇色に包まれている。

 救出してくれたはずの軍人たちは油断なく和代たちに銃を向けている。

 ちえりたちを乗せたヘリはなぜか進路を変えて離れていく。

 二つのヘリの側面にはそれぞれ別の国旗がある。


 そんなことも今は意識に入らなかった。

 ただ、今は休みたい。


 やがて始まる、新たな戦いの前に。

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