27 赤坂綺の想い
正直にいえば、私もなんでこんなことになったのかよくわからないんだけどね。
とにかく、気がついたら私はここにいて、目の前に壊れたバスがあったわ。
その中には神田和代さんと知らない女生徒や子どもたちがいる。
ま、ちょっと考えれば状況はすぐにわかるけど。
彼女たちはどうやらL.N.T.から逃げ出そうとしていたみたい。
それから目の前のドアに阻まれて、これ以上進めなくなってたってことも。
だから、ちょっと新技のお披露目ついでに手伝ってあげたの。
生徒会にいた時はいろいろ迷惑かけちゃったしね。
あと、どうやら私のこの意識はいま、美紗子さんの体にあるみたい。
なんか異常に力がわいてくる。
胸元は見覚えあり過ぎる平面だった。
愛する先輩の体は隅々まで記憶してるわよ。
「あなたは、いったい……」
神田さんが尋ねてきたわ。
そんな風に聞かれても詳しくは答えられないのよ。
っていうか、美女学の生徒会長さんなら適当にそれっぽく察してよね。
「いいから行きなさい」
別にもう彼女たちがどうなろうと知ったことじゃないし。
ラバース社の悪事が世間にバレようが、L.N.T.が壊滅しようがどうでもいいのよ。
罪滅ぼしなんて言う気もない。
ただ、バカ社長の命令に従う義理はない。
ほらほら神田さん、そんなに警戒しないでってば。
別の女生徒に促されてバスから子どもたちが降りてくる。
その中に見覚えのある顔があったわ。
元気そうね、翔樹。
でもあいつってば、私とちらり目を合わせただけで、何も言わずに横を過ぎて行ったわ。
ま、仕方ないわね。
なんにもしてあげられないお姉ちゃんだったし。
本当はお姉ちゃんじゃなくてママだってことも言えずじまいだったし。
「あ、そこのあなた」
神田和代さんが私に警戒しながらも先頭を歩き、運転していた娘が子どもたちを連れてドアを潜ったところで、一番後ろを歩いていた女生徒に声をかけた。
彼女はびくっと体を震わせてゆっくりこちらを振り向く。
よく見たらこの子、見覚えがある気がするわ。
たしか小石川香織さんだっけ。
「美紗子さんを助けてくれてありがとね」
一応ね、彼女の能力がかすったおかげで仮面の支配が解かれたみたいだし。
お礼くらいは言っておくわ。
「美紗子さん……じゃないんだよね?」
「うん。残念だけどね」
私がこういうのもなんだけど、彼女がガッカリする気持ちはよくわかるわ。
聖女みたいな美紗子さんに比べたら私なんて単なる人殺しだもの。
「赤坂さん」
「何?」
「あなたは何のために戦ったの? たくさんの人を傷つけてまで……」
そんな風にオブラートに包まなくてもハッキリ言えばいいのに。
なんで罪もない人を殺しまくったのよーって。
「決まってるじゃない。美紗子さんの仇討ちよ」
ラバース社のバカ共は私が本気で美紗子さんを生き返らせられるって信じていたと思ってるみたい。
だけど、そんなのがウソだってことくらい最初っからわかってたわ。
「……美紗子さんを殺したのは、あなたが殺した人たちじゃないよ」
「そんなことわかってるわよ」
「じゃあなんでっ、あなたは私の友達を殺したの!?」
うーん。
それを言われると辛いわね。
っていうかね、こう見えて私も辛かったのよ。
別にわかってくれとは言わないけど。
私だって普通の女子高生なのよ。
大切な人を目の前で無残に殺されてすごくショックだったんだから。
二度とこんなことが起こらないよう正義のために闘うなんて、そんな立派なことは言えないの。
だからね、仇討ちっていうよりは腹いせかな。
とにかくこの世の全部が憎かった。
そんで自棄になって美紗子さんの残してくれた理想を曲解してたくさんの人を殺めたの。
本当に最低よね、私。
ああ、もうダメ。いたたまれないわ。
私は小石川香織さんに背中を向けた。
誰に対しても謝罪の言葉なんて持たない。
「勝手だけど、後はお願いね」
「なにを……っ!」
私を責める彼女の声をそれ以上聞きたくなくて、翼を広げて上空へ逃げた。
ラバース社という巨大すぎる企業組織。
そのたくらみがすべての元凶だってわかっているけれど……
私は彼女たちと肩を並べて巨悪と戦う資格を持たない。
悪い殺人鬼は最期にそれなりの報いを受けなきゃいけないから。
結局、私は
だからせめて、貴女たちに代わって思う存分腹いせをしてあげる。
「これで最後にするから……力を貸してね、美紗子さん」
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