13 老人たちの嘲弄

 大きなディスプレイがいくつも並ぶ薄暗い部屋。

 ラバース社長、新生浩満は怒りに顔を歪めていた。


「おのれ……!」


 そんな社長の様子を映像の中の老人たちが心から楽しそうに揶揄している。


『これは困ったことになりましたなぁ』

『まったくです。足かけ六年に渡る研究成果が次々と失われて行くのは見るに堪えませんな』


 勝手なことを言っているが、彼らがこの状況を楽しんでいるのは明白である。

 能力者同士の生き残りをかけた戦いを観覧して楽しむような奴らだ。

 他人の苦しみを分かち合う良心など持ち合わせてはいない。


 ディスプレイの中の老人たちは、小学生でも名を知っているような有名政治家から、裏社会の人間が名を聞けば竦み上がるような人物まで、各界の超大物が揃っている。


 みなラバース社から献金を受け取り見返りに様々な分野で便宜を図っている人物たちだ。

 ラバース社が潤沢な資金を持つ大企業とはいえ世の中すべてを思い通りにできるわけではない。

 L.N.T.のような大規模な実験施設の造営と運営は、彼らの協力が合って初めて実現できたことだった。


『で、どうするんだい新生さん。もちろん手は打ってあるんだろうね』

『今まで上手くやって来たのに最後にこれではマズイんじゃないのかい』

『うーむ。赤坂綺の死を読み違えた辺りから運の尽きが始まったのでは?』

『あれは本当に残念だったよ。実はあの時はまだ小石川香織とどちらが優勢か迷っていたんだが、あちらに賭けていたら大儲けだったね』

『いやはや。やはり悪いことはできないものだねえ』


 黙れ、と叫んで一方的に通信を切ってやりたかった。

 もちろん今後のことも考えればそんな軽率な行動はできない。


 内藤清次と正体不明の白い翼の少女、ミス・スプリング。

 そのふたりが巧妙に隠していた真の研究施設を次々と破壊して回っている。

 これはすなわち長い時間をかけて収集した実験データが失われていることを意味している。


 悔しいが老人どもの言うとおりだ。

 赤坂綺を事故死とも言える形で失った事も大きな失敗である。

 神器に準ずる強力なジョイストーン≪断罪の双剣カンビクター≫と≪魔天使の翼デビルウイング≫を持つ赤坂綺が、あんな風に事故に近い形で死ぬとはさすがの浩満も予見できなかった。


 今後、死者蘇生の技術が完成しても脳を完全に破壊された赤坂綺は決して蘇ることはない。


 赤坂綺を殺したのはヘルサードが発破をかけるため野に放った≪白命剣アメノツルギ≫を手に入れた星野空人。

 やはり破壊力だけの武器とは言え本物の神器と戦わせるのはリスクが大きすぎたのだ。


 幸いにも赤坂綺が使っていた二つのジョイストーンは無事に回収して保管してある。

 だがあれの使用に耐えうる人形を作るためのデータがなければ宝の持ち腐れになりかねない。


『しかし、あのミス・スプリングという少女は何者なんだろうね』

『あの白い翼は神器に次ぐレベルの能力だ。あれほどの者がこれまで姿を隠していたとは』

『いやはや今回の実験は思わぬ収穫がたくさんあったね』


 突然変異のひとつに他の全ての収穫を食い荒らされては救いがない。

 ミス・スプリングという存在は浩満にとっても想定外のイレギュラーだった。


 監視カメラに気づかれることや、偽の研究所が襲撃を受ける可能性はもちろん考慮してあった。

 末期の迫った能力者たちに希望を与えて活力を取り戻させるためのガジェット。

 それが見つかったこと自体に問題はない。

 だが、幾つものフェイクを完全に潜り抜けて、真の研究施設にたどり着くことまでは想定していない。


 彼女に関するデータはほとんど手の内にない。

 わかっているのは監視カメラの軌道を割り出す千里眼と呼ぶべき力を持っていること。

 そして赤坂綺との決戦で見せた≪魔天使の翼デビルウイング≫を超える防御力を持ったエンジェルタイプの能力であるということのみ。


 さすがに神器である≪神鏡翼ダイヤモンドウイング≫には及ばないだろうが、あの少女はこちらが守らなくてはいけない一線を軽々と越えてきた。


 そして内藤清次の≪自由自在の夢心地フューチャードリーム≫だ。

 あれは対象に選択権のある幻覚を見せる、お遊び能力という認識でしかなかった。


 結果としてあの能力が星野空人を一気に赤坂綺への対抗馬にまで引き上げた。

 そして報告では内藤清次と速海駿也はすでに捕らえて隔離施設へ送られているはずだった。


 ラバースの私兵が捕らえた人間を逃がして黙っているほどマヌケだとは思わない。

 最初に捕らえたと思っていた時点で偽りの幻覚を見せられていたのだろう。


 結果として内藤清次は荏原恋歌の複製体から、かつて最強と呼ばれたJOY≪七星霊珠セブンジュエル≫を奪い、非常に厄介な存在として残ってしまった。

 そして速海駿也も今は行方知れずである。


「……皆様方においてはご心配なきよう。まもなく賊らは捕らえてみせましょう」


 新生浩満は余裕を演じながら、老人たちに隠れて下唇を噛んだ。

 この二名を倒せるような能力者は野に残っていない。

 今までに作った人形を使っても厳しいだろう。


 私兵たちは問題外。

 ヘルサードの密偵もすべて死んだ。

 最後の一人だった双葉沙羅も星野空人に殺された。


 少し早いが、切り札を投入するしかない。


『あんたの言うことなら間違いはないと信じたいが、前例があるからな』

『白い翼の少女は脅威だぞ。まさかとは思うが、ジョイストーンの保管場所は露見していないだろうな』


 老人の問いかけに浩満はまっすぐカメラに視線を向けて答えた。


「その心配は絶対にありません。あの場所とこの部屋は完全に外部からの出入りを不可能にしてあります仮に場所を割り出したとしても賊が入り込む余地はないでしょう。皆様方はどうか最後までこのショーを楽しんでいって下さい」

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