8 救援の七星霊珠
香織は夜の間に安全なルートを通って千田中央方面に向かった。
その道程はほとんどが細い裏路地や森を切り開いた未舗装道路である。
全体図を知らなければ線で繋いで辿ることは不可能。
能力者同士の争いが起こりそうな開けたスペースも全くない。
ラバースにとっては監視から外して問題ないような道ばかりである。
その反面、かなりの遠回りを強いられることになった。
角を曲がるたびに人の気配がないか確認しながら進むため、夜の八時に出発したのに気づけばもう明け方近くになっている。
現在位置は爆撃高校近くの住宅街。
あと少しで目的地の梨野地区だ。
この辺まで来るとやはり歩いている人影がちらほら見え始める。
周りの民家の軒先に身を隠しつつ少しずつ前進する。
できれば日が昇り切る前には到着したい。
そう思っていたのだが……
「うう、なにあの人たち。すっごい邪魔だよ」
進行方向の一角に三人の男がたむろしている。
彼らは地べたに座り込んで、カップ麺を食べながら駄弁っていた。
あの角さえ曲がれば千田街道は目と鼻の先だが、いつまで経っても男たちは移動する気配を見せない。
このまま待つべきか?
あまり時間を消費するともっと多くの人が集まってくる可能性もある。
ここからすぐ近くの場所にある爆撃高校は今も多くの不良生徒たちの根城となっているのだ。
男たちを蹴散らして進むべきか?
香織はSHIP能力者ではないが、鍛えた動体視力と一撃必殺の技がある。
囲まれてピンチになる可能性は否定できないけれど、奇襲さえ成功すれば苦戦はないだろう。
「……よし、行こう」
香織は拳を握りしめた。
小さく声を出し、民家の門扉から飛び出した。
すると。
「おい」
家の中から野太い声が聞こえてきた。
振り返ると、ガラの悪い金髪の男がこちらを睨んでいた。
香織がアクションを起こすよりも早く、その男はものすごい大声で叫んだ。
「うちの庭先に小石川香織がいるぞーっ!」
男の声に呼び寄せられ、あちこちから爆撃高校の生徒らしき男たちが集まってくる。
「≪
「ぐはーっ!?」
とりあえず即座に金髪を仕留めておいた。
しかし、門扉を出た所で前後の路地から十名以上の男たちに取り囲まれる。
左右の塀は飛び越えられるような高さではなく、逃げ込めるような裏路地も存在しない。
「こいつ、今までどこに隠れていやがったんだ」
「んなことどうでもいいさ。捕まえれば報酬は俺たちのモンだ」
これはかなり厳しい状況である。
報酬をちらつかされた男たちに対して説得は通用しそうにない。
一人や二人は先制攻撃で倒せるだろうが、この狭い場所では逃げるのは難しいだろう。
フリーダムゲイナーズ本拠地で囲まれた時のように相手が油断してくれたら話はまた違うが……
「武器を持ってる奴が前に出ろ! 絶対にあいつの手が届く距離に近づくなよ!」
「相手は新三帝だからな、油断なんてするんじゃねえぞ!」
「能力者! 最初から全力でぶちかましてやれ!」
さすがに今回は油断もなかった。
男たちもみな必死である。
だからって諦められない。
みんなのためにも、やるしかない。
自分がここで倒れるわけにはいかないんだから。
「イチかバチか……」
香織は戦う決意をした。
その直後。
「ぎゃっ!」
「な、なんだっ」
一人の男がいきなり倒れた。
何があったのかと考える間もなくまた別の男が吹っ飛んだ。
その後も次々と何らかの攻撃を受けて香織を取り囲んでいた男たちが倒れていく。
彼らは誰も自分たちの身に何が起こっているのかわかっていないようだ。
だが、香織にはハッキリと見えていた。
彼らを攻撃しているもの。
見覚えがあるなんてものじゃない。
何度も何度も夢にまで見たその能力は――
「≪
超高速で宙を飛ぶ高エネルギーの光球。
間違いなくあの荏原恋歌のJOYである。
だが、荏原恋歌は死んだはずだ。
意思を持たないゾンビ兵士が追っ手として来たなら真っ先に香織を狙うはず
しかし目の前の≪
やがて、香織以外に立っている人間はいなくなった。
七つの光球は一斉に同じ方角に向かって戻っていく。
その先にあるのは民家の屋根
そこに光球を操っていた能力者の姿があった。
「よう小石川、無事か?」
「え、内藤君!?」
香織にとって昔からの友人で、星野空人の親友でもある男。
それは空人と一緒に平和派前線基地に向かったはずの内藤清次だった。
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