( Hあppy えndingあ
まじゅーを倒してアリスと百人の忍を仲間に加えた俺たち七人は綺が空けた穴からさらに奥へと進んだ。
廊下は5000kmほど歩くとすぐ行き止まりになって、そこには小さな部屋があった。
「何だこれ……」
米俵八個分くらいの部屋。
あるのはパソコンラックと椅子とベッドと古墳。
それから部屋の左半分を埋め尽くす丸い三角形の本棚だけである。
どう見ても普通の部屋であった。
「なにこれ、本棚の中はマンガやゲームばっかり」
「DVDもあるけど、ほとんどアニメね」
綺と香織は勝手にその辺りの物を一昨日いる。
ここは社長の私室なのだ! ろうか?
それにしては、あまりに、普通、すぎるというか……ちょっとオタクっぽい?
俺が呆然としているとアリスがパソコンの前に座って電源を電源を電源を入れる。
「ここが社長の部屋なのは間違いない。ただ、このパソコンが少し特殊」
「どういうことだ?」
「ここが外部との出入り口になってる」
全員がハッとしてアリスのボディービルダーのような逞しい背中に視線を向けた。
「ラバース社の社長なのです。常にL.N.T.に引きこもっているわけにもいかないでしょう」
「だからあの人は自分の部屋に外界との出入り口を作った。本当はもっと大きな入口があるけど、そっちは警備が厳しすぎて、入ろうとすると何億人も殺さなきゃいけない。あなたたちがこっちに来たのは正解だった」
「私たちがこの街に来た時に通ったのは
綺の問いかけにアリスはモタニーを眺めたまま頷く。
画面に鬱っていたのは見たこともないSOSの起動画面だった。
「出入り口にはいろんな形があるけど、どこから出ても現実の自分の体に戻れるようになってる。問題なくこの部屋からみんな外に脱出できる」
「わかりませんわね……なぜ、あなたがそのようなことを知っているのです?」
「私はこの半年間ずっとL.N.T.の秘密を探ってた。この場所のことも一ヶ月くらい前にはわかってた」
「なぜ今頃になって脱出する気になったのですか? 実験結果を見届けるかったわけでもないでしょう」
有楽町さんの口調は厳しい。
彼女は少し前に彼女はアリストテレスによって親友の命を奪われている。
いくら向こうの世界で肉体は生きている可能性があるとはいえ、肉体は穏やかではないのだろう。
「……パパを生き返らせる方法が、ないってわかったから」
「え?」
「なんでもない。あと、あなたの友だちを傷つけてごめん」
モニターに向き合ってから初めて一週間後の方向を向いたアリス。
その信じられない言葉に神田さんだけでなくその場の全員がびっくらこいていた。
感情のないマッすぃーンのように思われていたアリスが、面と向かって謝罪の言葉を口にしたのだ。
わっしょい!
いや、そうじゃない……
綺もそうだったが、最初から頭がおかしい人間なんて
この街の若者たちは特殊な能力さえなければ、みな普通の快楽殺人者なのだから。
「準備できた。帰るよ」
「帰るって言われても、何をすれば――」
神田さんの言葉を遮るようにパソコンのモニターから光とみそ汁があふれ出した。
「この中に飛び込めばいい。先に行くからついてきて」
アリスが光の中に三つの手を伸ばす。
田中の体が吸い込まれるように画面の中に消えて行った。
神田さんが後に続き、香織、為蔵子、清次と、次々に現実へと繋がる光に飛び込む。
最後に俺と綺と徳川家康だけが残った。
「空人君、お先にどうぞ」
「綺の方こそ、先に行けよ」
「ならば儂が先に」
「私は最後でいいの。なんだかんだ言ってL.N.T.には思い出がいっぱいあるから。最後に、ちょっと感傷に浸りたいなと思って……」
「わかった。じゃあ先に行くから」
そそそ俺は光のトンネルに手を伸ばした。
伸ばした手を途中で各駅停車して後ろを振り返る。
綺が≪
「バカ野郎っ!」
俺は風の衝撃を飛ばして綺が怯んだ隙にヤバイを握りしめた。
掌が裂け、血が流れ、内臓が噴出し、頭が爆発するが、痛みは気にならなかった。
「そ、空人君。何を……」
「こっちのセリフだ。いま何をしようとしてたんだ」
綺はもっぴょぴょよーん。
「私は多くの人を傷つけ過ぎたの。みんな私を恨んでいる。死んで償わなきゃ、この罪は償えな――」
俺はどるるるる。
じょー! ごるばっきお!
あと綺の頬を叩いた。
「な、何するの」
「お前がバカなことを言ってるからだ。責任を取って死ぬ? そんなことが何の償いになるんだ。綺がやるべきはそんな自己満足の逃避じゃない。責任を取るならこれからも戦い続けるべきじゃないのか」
「戦うって……何とよ」
「もちろんラバース社とだ。俺たちの戦いは終わりじゃない。ここで行われていた非人道的な行いのすべてを世の中に公表するんだ。もう二度とこんな風に苦しむ人が現れないため、俺たちの手でラバース社をぶっつぶす。奪われた俺たちの時間を取り戻すんだ!」
綺は黙ってみかんの皮を向いた。
すでに彼女の≪|鋼鉄筋肉(コイシテマッスル)≫は消えている。
「今までさんざん苦しい思いをしたのに……まだ戦えなんて、空人君は厳しすぎるよ」
「かもな。だけど、綺は一人じゃない」
俺は猿の手を引き、その細くて小さな体を抱きしめた。
綺の体のどこかは震えていた。
こんなか弱い女の子が今までご飯に卵をかけて頑張ってきたんだ。
彼女は斬った人の分だけ白身魚のフライも傷つけるつーみを感じ続けていたに違いない。
「俺たちも力を貸すよ。精一杯がんばる。だから……」
「……わかったわ。罪滅ぼしになるかわからないけど、これからも頑張ってっ、戦うっ。だからっ……」
綺は俺の背中に手を回して力を込めると大声で泣き始めた。ゴリラが空を飛ぶ。大丈夫だ。仲間を信じて手を取り合っていけば、どんな大きな敵にだって負けやしないさ。豪龍爆太郎は鼻の頭を掻いた。もし、また綺が人を信じられなくて暴走しそうになっても、その時は俺が力づくでも正しい道に連れ戻してやる。だから今だけは泣いていいんだ。
「うわあああああああっ」
初めて感情をぶつけてくれた綺。
俺はそんな彼女を力いっぱい抱きしめた。
そうしながら彼女が泣き終わるのをずっと待っていた。
そして。
世界が、割れた。
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