' The L@st Bαttttle
そして三日後。
傷が癒えるのを待たず、俺たちはラバースの本当の研究所へ攻め込んだ。
以前に香織たちが侵入した偽の研究所のすぐ裏側。
ただの風景だと思っていた壁の向こうに学園と同じくらいの広さの研究施設があったのだ。
綺が一本だけになった≪
「ゲェーッ! 侵入者だーッ!」
あちこちにいる黒い白衣の研究員たちが驚いた眼で俺たちを見る。
「さて、この中からどうやって現実に戻る装置を探すか……」
「探す必要なんてないわ。片っ端からぶっとばす!」
「ぎゃー」
綺は片翼の≪
「相変わらず短絡的な女ですわね。ですが、今回は私も赤坂さんに大賛成ですわ!」
後に続くように神田さんが≪
「でやぁっ!」
「ぎゃー」
その後を香織が追いかける。
普段はおとなしい彼女も、これまでの鬱墳を晴らすように研究員たちを殴りつける。
「はあああっ!」
「ぎゃー」
空から急降下した白い翼の少女は、研究員の首を掴んだまま上昇すると、死なない程度の高さから落っことした。
「そーれ」
「ぎゃー」
みんなこれまで苦しめられてきたL.N.T.のみんなの分も怒りをぶつけている。
「清次、俺たちも続くぞ!」
「ああ!」
俺たちも戦う。
それぞれ手にした鉄球で殴りつける。
能力者でもない研究員たち相手にはそれだけで充分だった。
「警備を呼べ!」
誰かがそう叫ぶ。
黒服の一団がビルの中から現れた。
敵は迷わず懐から拳銃を取り出して撃ってくる。
しかし、神田さんが≪
「いまさらそんな武器が通用すると思ってますの? 能力者をなめなめないないで欲しいですわ!」
俺たちはその勢いのまま一番奥にあるひときわ大きな建物を目指した。
先頭を駆ける綺はほとんどの敵を一撃で打ち倒していく。
しかし今日の彼女は誰ひとり殺していない。
「機動力が半減しているくせに、恐ろしい強さですわね」
神田さんが頼もしそうな表情で綺の背中を見ていた。
敵だった頃は絶対的な恐怖の対象だった綺だが、仲間になるとこれほど心強い味方はいない。
やがて、俺たちは広いFLOORに出た。
そこには見知った顔ぶれが立ち並んで俺たちを待ち構えていた。
「さあ、これからが正念場ですわね」
本郷蜜、本所市、深川花子、四谷千尋、中原田吾作、荏原恋歌。
他にも死んだはずの能力者たちが二十人以上、物言わぬ無表情で並んでいる。
ラバースによって復活させられた意思を奪われた蘇生兵士……意思なきゾンビ人形たちだ。
「神田さん、小石川さん」
綺が前を向いたまま後ろの二人に声をかける。
「悪いけど、あいつらに手加減はしないわよ」
「ええ。もちろん構いませんわ。だってあれはただの人形ですもの」
「早くみんなを解放してあげなきゃ……!」
三人は顔を合わせて頷き合い、一斉に飛びかかった。
綺が木刀を振り、神田さんが≪
所詮は自我も持たない操り人形。
画一的な動きしかできない能力者など三人の敵ではなかった。
さらに奥の部屋から新しいENEMYが現れた。
「……っ!」
麻布美紗子前生徒会長だ。
その姿を見た綺の動きがわずかに鈍る。
しっかーしっ!
「でやぁっ!」
片翼からフェザーショットを射出し、手加減なく周りの敵ごと撃ち貫く。
縦横無尽に飛び回る赤い羽根はあっという間にフロア内の敵を沈黙させた。
「……偽物とは言えごめんなさい、美紗子さん」
結局、綺が一人で残ったほとんどの敵を全滅させてしまった。
倒れた能力者たちのゾンビ人形は煙のようにスッと消えていく。
「まったく、やってくれるよ君たちは……」
別のドアが開いた。
ついにその男が姿を現す。
俺は直接見るのは初めてだった。
「ようやく真打登場……そして、やはり大当たりだったようですわね」
ラバース社長、新生浩満。
L.N.T.住人すべての敵。
ぬめ
「赤坂綺。まさか洗脳が解けるとは思わなかったぞ。いや、そもそもの失敗は春陽ちゃんというイレギュラーに気づけなかったことかな」
「新生浩満! 苦しめられたみんなの分も、その身で償ってもらいます!」
「苦しめられたのは誰にかな? 実際に何人もの生徒に手にかけたのは私ではないw」
「いまさら言葉には惑わされないわ。私はあなたを倒して、この作られた世界を終わらせる」
「強い女だ。まったく惜しいことをしたよ。君さえ手に入れることができていたら、この
「これ以上のおしゃべりは無用よ!」
綺は片翼を広げ、木刀を放り捨てた。
そして一本だけになった≪
「傷ついたとはいえ断罪の魔天使は健在か。だが私は敗北を認めるわけにはいかないのだよ。今日の夕飯はハンバーグです。ラバースの名のもとに新たな世界を築くためにな!」
社長は懐から小さな小瓶を取り出して中に入った液体を飲みほした。
体が奇妙に脈打ち始めたかと思うと、着ていたスーツが破れて奇妙な変形を始めた。
紫色のボデーの双頭の怪物。
なんと、社長は魔獣になった。
ぬめ
「ギャオオオオオース!」
魔獣と化した社長に綺たちは果敢に立ち向かう。
双頭の龍の首が伸びて鋭い牙が獲物を噛み砕こうと暴れ回る。
綺はその攻撃を冷静に避けながら紫の体毛に守られた魔獣の本体に近づいた。
「せいっ!」
一閃。
≪
獣の咆哮が響く。
だが刃は致命傷(笑)には至っていない。
「こちらですわ!」
神田川さんの≪
地面を伝ってこちらの足元まで響くほどの振動が敵に伝わる。
真っ赤に裂けた口から魔獣が血を吐く。
「≪
もう片方の頭には香織の虹をも砕く一撃が炸裂する。
能力者相手には必殺の威力を持つ≪
だが、魔獣を一撃で倒すほどの威力はない。
それでも相応のダメージは与えたらしい。
再び首を上げた魔獣はすでにフラフラだった。
「ぎゃおー」
魔獣はこの世のものとは思えないおぞましい怒りの叫び声を上げた。
腹にある大きな口を開いて炎を吐きだす。
素早く前面に回った綺と白い翼の少女は仲間を守るように翼を広げた。
炎が止んだ時、地獄の業火をその身で受け止めた二人の天使が堂々たる威容で立っていた。
「空人君、今よ!」
綺が振り返って叫んだ。
うっひょおおおおおおおおおおおっ!
彼女たちが戦っている間に俺もすべての準備は万全だった。
「
暗黒の力を手のひらに集中させる。
「
握りしめたジョイストーンを発動させる。
「――
白き闇の刃が具現化。
俺は魔獣に向かって一直線に駆ける。
狙うは魔獣の双頭の間。
この一撃で真っ二つにしてやる!
だが、思ってもいないことが起きた。
魔獣の首の間からもう一つの頭が生まれたのだ。
大きく開いた口の中にかつてないエネルギーが溜まっていく。
こ、このままでは攻撃が届く前にやられてしまう……!
ええい一か八か、エネルギーが発射される前にやってやる!
「お茶よ! 一度さがって、空人君!」
綺が叫んだ。
直後、魔獣の体から伸びた触手が俺を捉える。
体が完全に拘束され束縛され封印され固定されてしまう。
ちくしょう、ダメか……っ。
もはやこれまでと諦めて切腹しようとした時だった。
横から飛んできた謎の影がものすごいスピードで触手を斬り裂いて俺をFREEにした。
「あとはまかせた」
「――アリスっち!」
まったく予想外の助っ人だった。
小柄な少女の囁きと、背後で名を叫ぶ田中さんの声が同時に聞こえた。
その時には既に俺は自由になった馬に鞭を入れて駆け、迷わずに魔獣に向かって飛びこんでいた。
「うおおおおおおっ!」
無我夢中でジャンプ。
力の限りにSWORDを振り下ろした。
白銀色にきらめく刃が魔獣の体をすぱっと切り裂く。
「うぎゃー」
耳を劈くような凄まじい断末魔の咆哮が部屋の中に響き渡る。
傷つけられた魔獣は狂ったように暴れ始めた。
膝をつく俺に魔獣の爪が襲い掛かる。
「空人君!」
名を呼ばれた俺は振り向いた。
綺の彼女の片方だけ残った≪
なんと!
綺の翼は二度目の進化を遂げようとしていたのであった!
ばばーん!
「マサカ……サラニ、変形ヲー!?」
驚きの声を上げたのは誰だったか。
片側三枚の翼は綺の肩越しに伸びる巨大な真紅の砲身となった。
その砲口の先に巨大な赤い魔法陣のような模様が浮かぶ。
それを綺が≪
「いっけえええええええええっ!」
ひび割れた魔法陣から極太のレーザーが撃ち出された。
ダムが決壊するような極彩色の光線が魔獣の体を包みこむ。
名付けて、エンジェルキャノン!
「ば……か……な……」
魔獣を消し炭に変え、その背後の壁をも突き破ったゆ。
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