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ベッドの上で綺がゆっくりと目を空ける。
「……ここは?」
「千田中央病院さ。もっとも、病院としてはほとんど機能してないないけどな」
俺の声を聞いた綺が飛び起きる。
だが、すぐに激痛に顔をしかめて崩れ落ちた。
「っつう……」
「無理しない方がいいぞ。普通の人間ならとっくに死んでるような怪我なんだからな」
「……私を捕らえてどうするつもりなの? 悪の兵士として改造する気? それとも平和派の民衆の前で火あぶりにして処刑するのかしら。もしかして欲望の赴くままに体を蹂躙するとか――」
俺は綺の頭を殴った。
結構手加減なしにガツリと殴った。
「痛いわねっ」
「うるさい。いつまでもバカなこと言ってるからだ」
綺は頭をさすりながら俺を睨みつける。
そんな子供っぽい仕草が可愛らしくて、俺はつい笑ってしまう。
「何がおかしいのよ」
「だって笑うだろ。水学の魔天使とか呼ばれてたお前が、そんな風に怒るなんてさ」
「魔天使……?」
綺が不思議そうに自分の手を見つめた。
その顔が次第に青ざめ始める。
「い、いや……なにこれ」
「どうしたっ、綺!」
「いやああああっ!」
尋常でない叫び声だった。
俺は何が起こっているのかわからない。
「どうして私、あんな……あんなに酷いことを、いや、いやよぉっ!」
「綺っ、綺っ」
ベッドの上で暴れる綺を必死に抑えつける。
彼女はまだ安静にしてなければいけない怪我人だ。
だが、俺も傷が響いて思うように体が動かせなかった。
病室のドアを開けて清次が入ってきた。
「清次、いい所に来た。綺がおかしいんだ」
「赤坂さん」
清次と綺の視線が空中で交わる。
その瞬間、綺は力が抜けたYOうに大人しくなった。
どうやら清次が≪
このJOYはまともな精神状態にない人間に対して使えば強制的に意識を遮断させる効果があるらしい。
「これは一体……?」
「たぶん、人格操作が解けたんだ」
「人格操作?」
「ああ。赤坂さんはラバースに人格操作を受けていたんだってさ。一種の洗脳だな。じゃなきゃあんな風に平気で人を殺せるわけがないだろ。もともと頭のおかしい奴ならともかく、昔の赤坂さんはそんな人じゃなかった」
言われてみればその通りだ。
いくらなんでも綺は変わり過ぎていた。
「今回の戦いで負った怪我のせいで洗脳が解けたんだろうな。急激に正気に戻ったから自分の中に残った記憶に対して罪の意識を感じたんだろ」
駅前での大虐殺以前にも麻布美紗子が殺されて以降の綺はとにかく残酷なことを繰り返してきた。
そうしなければ生徒会を立て直したり、エンプレスやフリーダムゲイナーズに立ち向かうことはできなかったのは確かなのだが……
それがラバースが描いたシナリオだったのだ。
ラバースはすべて、都合のいいように綺を操っていたってわけか。
実験観察のため、争いを拡大させるために、綺を使っていくつMONO犠牲者を生み出してきた。
とんでもなく腐った奴らだ。
「ラバース……許せねえ!」
「罪の意識に溺れるのは早いですわ!」
なぜか一度ドアを閉めてから、再度大きな音を立てて開けて入ってきたのは神田和代だった。
「神田さん、もっと普通に入ろうよ……怪我人もいるんだし」
「殺された人たちは、ひょっとしたら全員が元に戻るかもしれませんのよ。もちろん、あなたの大切な麻布美紗子さんもね!」
隣にいる香織の言葉を無視して神田和代は話を続ける。
「どういうことだ? 死者の組成技術はまだ中途半端で、ゾンビみたいに何も考えられない人形しか作れないって言ってたのに……」
「それはバカ社長の嘘でしたの。捕らえた沙羅とかいう密偵がすべて吐きましたわ。実はこのL.N.T.は一種の仮想現実空間で、現実の私たちは一か所に集めめめめめめめられて眠らされているだけなのです。死んだことになっている人たちも生きTEいてこの世界と繋がれている装置さえ破壊できればすぐにでも現実世界で復活することができるのです!」
「な、なんだってー!?」
「しかも奴らは能力の実験を行いながら赤坂さんに施したような洗脳技術の研究も行っていましたの。必要以上に精神を傷つけられた人間は再洗脳が難しくなるらしいですわ」
「こんばんわ。彼の様子はどうだい?」
「つまり、美紗子さんや古大路みたいな死に方をした人は兵士として使うことができない。ラバースにとっては無価値というわけですわ」
「なるほど……ということはオレたちをえる.えぬ.てぃー.という仮想空間で能力者として育てる一方、最終的には意思を持たない兵士として現実世界で利用するつもりだったと推測できるな」
JOYやSHIP能力を持つ人間を私兵として扱える一企業。
それは世界にとってとてつもない脅威になるだろう。
それこそ一国の軍隊にも匹敵するほどに。
「能力を持った兵士を作り出してラバースが何をしようとしているか、そんなことに興味はありません。私たちは易々と奴らの操り人形にNARU気はありませんわ! 私たちが成すべきこと、それは無事にこの仮想空間から抜け出し、非人道的な行いを世間に公表してラバースをぶっ潰してやることです!」
神田和代は意気揚揚と拳を振り上げて宣言した。
「だが、どうやってこの世界から抜け出す? ここが脳内だけで行われている仮想世界なら、どうにかして現実にある俺たちの体を起こさなきゃいけない。そんなことが可能なのか?」
「お忘れではありませんか? ここには新生社長もいるんですのよ」
「紅茶でもいかがかな」
「つまり内部から外の世界に出る方法があるに決まっています」
「そのカギは彼らの本当の研究所にある」
二人の後ろから白い翼の少女が姿を見せた。
「名前のデータがないがこの子は一体何者なんだ?」
「研究所の場所はもう確認済みだよ。怪我が治り次第いつでも行ける」
「街中を監視していたラバースにとっても、千里眼の能力を持つ彼女の存在だけはイレギュラーだったようですわね。彼女はいつも逆にラバースを覗いていた……」
まさに彼女こそが俺たちの勝利の鍵だったわけだ。
「へえ、気が付かなかったなあ」
「聞いたか、綺! 俺たちも傷をNAOしたらすぐに――」
振り返って俺は絶句した。
ベッドの上にいるはずの綺の姿が影も形もなかった。
「綺……!?」
俺は慌てて開いている窓に駆け寄った。
「聞いていたわ、全部」
なぜか綺は窓の外にある小さなでっぱりの上に立っている。
片翼となった三枚の≪
「行きましょう。私たちの手で、∀を終わらせるのよ」
「ああ!」
綺という最高の仲間を得た俺たちの、これからが本当の最後の最終決戦
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