10 星野空人VS速海駿也

 ラバース社が争いを裏で操っていることは速海もわかっている。

 だが、生徒会で奴らと連絡が取れるのは直属の密偵を持つ赤坂綺だけだ。

 彼女をどうにかしない限りは、決してこちらから奴らに近づくことはできない。


 ずっと赤坂綺の傍にいた速海はそれが不可能だと言うことを悟ってしまった。

 もはや彼は自分が何のために戦っているのかもよくわかっていない。


 そこに現れた赤坂綺を止めるという男、星野空人。

 これは降って湧いた最後のチャンスなのかもしれない。

 だが、


「まだだっ!」


 速海は槍を構える。

 そして再び空人に槍先を向けた。


「なあ速海、もう……」

「黙れ内藤。お前がなんと言おうと、オレは自分で見たものしか信じない」


 これまで何の実績もないこの男が本当に赤坂綺を倒せると言われて、誰が信じるだろう。

 少なくとも先読みや微風使いという小手先の技で彼女を倒せるとは思わない。

 速海は槍の柄に埋め込まれたジョイストーンの上に手を重ねた。


「ハイブリッド能力者か」


 星野空人は相変わらず無表情で呟いた。

 ハイブリッド能力者とは、深川花子のようにJOYとSHIP能力の両方を使う者のことである。


「いくら次の動きを予測しようと、こいつは避けられるような技じゃない。オレの全身全霊の力を込めた一撃だ。それを受けてお前がまだ立っていられたら……」


 その時は、お前を信じてやる。

 速海は心の中で呟いて技を放った。


「≪大海嘯ワダツミ≫」


 ジョイストーンから多量の海水が発生。

 それは速海の手の中にある槍を包んで渦を巻く。

 巨大な水槍となった武器を手に速海は地面を蹴った。


「水龍一点突破!」


 超水圧の一撃。

 風で逸らすことはできない。

 これをどうやって防ぐか、星野空人!


「star field――」


 空人が手を伸ばす。

 手のひらを水槍に向ける。


 まさか、受け止める気か?

 そんなことをすればお前の腕ごと消し飛ぶぞ。


「――sky――」


 周囲がわずかに暗くなった気がした。

 直後、眩いばかりの青色が水に反射して速海の視界を奪う。

 水槍が敵を捕らえた感触がしたが、そこで速海の動きは止まってしまう。


「本当に……」


 受け止めた。

 腕一本で、攻撃を。


「うおおおおおっ!」


 だが終わらない。

 速海は体ごと押し込むようにぶつかって行く。

 水槍と身体が一体になり、防御を打ち破るべく突き込む。

 

「――白命剣!」


 水槍が真っ二つに斬り裂かれた。

 攻撃を受け止める空人の手に生まれた白い剣。

 それが斬られた感触すら残さず水の槍を上下に両断したのだ。


 剣?

 速海はこれを知っている。

 この白い闇の如き刃はヘルサードの≪白命剣アメノツルギ≫だ。


 ああ、そうか。

 こいつは≪白命剣アメノツルギ≫を継いだのか。

 ならそれを奪いに向かった技原もすでに倒されたのだろう。


 完膚なきまでに敗れた。

 速海はその場に膝を落とす。


「バカ野郎、空人。あれほど≪白命剣アメノツルギ≫は使うなって言っただろうが。≪流星落スターフィールド≫で攻撃を受け止めてカウンターを叩き込むだけで充分だったろ」

「長期戦になるよりマシだと判断したまでだ」


 すでに空人の手から≪白命剣アメノツルギ≫は消失している。

 やはり、あのJOYは手にしているだけでも大きな消耗があるのだろう。

 この男は速海に敗北感を味わわせることだけを目的に、あえて≪白命剣アメノツルギ≫を使ったのだ。


「オレの……負けだ」


 負けを認めた。

 認めるしかなかった。


 赤坂綺に勝てる可能性がある唯一の男。

 それはこの≪白命剣アメノツルギ≫を持つ星野空人しかいない。

 負けておいてみっともないと思うが、後はこの男に託すことに決めた。


 赤坂綺を止めるため。

 自分もこの男と一緒に戦おう。

 この街に本当の自由と平和を取り戻すために。


「星野――」


 だが、速海が協力を告げようとした直後。

 真っ赤に光る一筋の閃光が彼の体を貫いた。


「がはっ……」


 空人と清次は空を見上げた。

 たった今、負けを認めたはずの速海を撃った何か。

 それは城壁の屋上に立つ少女が背負っている翼とまったく同じ色をしていた。


「まったく、グリーンまでやられちゃうなんてどういうわけ? しかも最後は裏切ろうとするなんて……ほんと、やってらんないわ」


 速海を貫いた羽根は彼女の背中の六枚翼≪魔天使の翼デビルウイング≫に戻る。

 呆れ顔で地上を見下ろす翼の主は仲間を撃ったことなど気にも留めていない様子だった。


「ま、こういう絶体絶命のピンチを乗り切ってこそ、主人公の真価が問われるのよね!」

「相変わらず高い所から登場するのが好きなんだな……」


 はるか上空にいる少女が、次第に楽しげな表情に変わっていく。

 空人はジョイストーンを握りしめて見上げた。


 断罪の魔天使、赤坂綺を。




   ※


「さあ、いよいよ物語も大詰め。まもなく星野空人と赤坂綺の最終決戦が始まります」


 新生浩満が芝居かかった口調で語る。

 モニターの中の老人たちは思い思いに喋り始めた。


「大方予想通りの展開だね。古大路偉樹の最期だけは予想外だったが」

「奴は民衆を率いるだけの器がなかった。それだけの話だよ」

「意外と言えば麻布紗枝は面白かったな。まさかあの土壇場で仲間を裏切るとは」

「だが、赤坂綺や麻布美紗子のようにはいかなかった。伝説を作るにはあまりに弱すぎたな」

「あの程度の能力で四十人近くも倒したのはむしろ大健闘だと思うがね。その後で怒り狂った生徒たちになぶり殺しにされた残虐ショーはもっと楽しめたが」

「趣味の悪いことだ。わしはあんなものは見ていられなかった」

「強い信念を持つ者ほど惨たらしく死んでいくのは何かの皮肉なのだろうかね」

「姿を消したアリスのことが気になるな。私は最後に赤坂綺の前に立ち塞がるのは彼女だと思うよ。星野空人の≪白命剣アメノツルギ≫は赤坂綺に通用するかもしれんが、彼ではどう考えても役者が不足している」

「一理ある。しかしJOYを封じられているアリスでは赤坂綺には勝てんだろう。アリスが神田和代や小石川香織と手を結ぶ展開にでもなれば面白そうだが」

「それこそあり得ないでしょう。やはり事実上、この星野空人が最後の挑戦者だよ」

「さてさて皆様方」


 新生浩満が手を叩いて注目を集める。

 老人たちは会話を止めて彼に注目した。


「悪屈卿のおっしゃる通り、おそらくこれが最後の大きな戦いになるでしょう。事前に調べたところ、この星野空人という男、ぽっと出のイレギュラーかと思えば赤坂綺とはなにやら因縁がある様子」

「ほう、初耳だね」

「残る大星は七つ。赤坂綺、星野空人、内藤清次、神田和代、小石川香織、江戸川ちえり、そしてアリス。残念ながらお二方の予想は外れてしまいましたが、残ったのはいずれも優秀なキャラクターたちです。さあ、この中で誰が最後まで生き残るか……これを最後の賭けとしましょう」


 挑発的な視線を老人たちに向ける新生浩満。

 彼らは楽しそうに次々と口を開いた。


「わしの考えは変わらんぞ。赤坂綺の一人勝ちに一千万」

「生き残りを当てるだけでいいんじゃろう。だったら私も赤坂綺だ。掛け金は二千万」

「赤坂綺に三千万」

「赤坂綺が死ぬところなど想像もつかん。五千万だ」

「星野空人ごときじゃ彼女は止められんよ。赤坂綺に二千五百万。ここに来て和睦などないじゃろ」

「なんだなんだ、みんな同じ予想じゃないか。新生くん、こうなったら賭けが成立するかどうかはあんた次第じゃ。胴元のあんた自身はどうなると予想するんだね?」


 新生浩満は、にやりと笑って答えた。


「三億賭けましょう。無論、赤坂綺の勝利に」

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