第24話 夢の終わりに
1 片道の再会
はあ、まったく嫌になっちゃうわね。
どうしてこう次から次へと邪魔者が湧くのかしら。
私はいいとしても、兵隊がこれ以上減ると困るのよね。
最後まで残ってた四天王の速海も死んじゃったし。
あれ、生きてる?
まあいいわ、どっちでも。
一度裏切った人はもう使えない。
あとでしっかりトドメさしておきしょう。
あと希望があるとすればスパイ活動中の紗枝だけど、フリーダムなんとかのアジトに潜入するとか報告があってから連絡がないから、もしかしたらそろそろ死んじゃってるかもね。
四天王の中では一番役に立たない子だったから別にいてもいなくてもいいんだけど。
美紗子さんの服を着せて抱き枕にするくらいしか使い道なかったし。
とりあえず目の前の敵でも排除しましょうか。
ジャンプ!
てやあ。
たとん。
「綺、久しぶりだな」
なんか侵入者が話しかけてきたわよ。
それより今の私の空中十二回転に対する感想はなし?
「こうして会うのは一年ぶりくらいか。お互いにいろいろあったな」
いや、一人で感傷に入られても困るんですけど……
っていうかそもそもあなたは誰なのよ。
どこかで見た覚えがある気がするんだけど。
はっはーん、さては私のファンの一人ね?
そうやって私の知り合いのフリして近づこうとしてるんでしょ。
え、違う?
「お前も辛かったんだろうな。理想を求めて戦うのも、そろそろ疲れたんじゃないか?」
いやいやいや、なに勝手に同情してくれちゃってるのよ。
別に私は今の生活に辛いことなんて何ひとつないし。
なにせ私は最強無敵の生徒会長様なんだからね!
「だからといって、お前のやっていることを許すわけにはいかない」
別に許してもらわなくてもいいし。
邪魔する奴は斬り殺すだけだし。
美紗子さんがL.N.T.の平和を守るため残してくれた、この≪
「話す言葉はないってことか……じゃあ、俺は力づくでお前を止めるよ」
何が言いたいかよくわからないけど、要は私を倒すつもりってことでしょ?
最初からそう言えばいいのよ、まどろっこしいのは抜きにしなさい。
悪役は悪役らしく戦って華々しく散るのがお似合いよ!
「さあ、かかって来なさい!」
私は≪
敵は拳を握りしめて拳法家みたいな構えをとった。
さっきの速海との戦いの様子は空から少しだけ見ていたわよ。
あの水の槍を受け止めるなんてなかなかやるじゃない。
誰か知らないけど全くの雑魚ではないみたいね。
けど、貴方に勝ち目はないわ。
私の前ではどんな敵でも無力なの。
なぜなら、私は正義の味方だからね!
さあ、戦闘開始!
私は悪を倒すため翼を広げて宙に舞い上がったわ!
※
中庭のバスケットコートで一人にされた香織。
彼女は近くの校舎の中に逃げつつ、追ってくる生徒を少しずつ撃退していた。
性格は大人しくても香織の戦闘能力は高い。
必殺の≪
三十人ほどを倒したところで追っ手がいなくなった。
さすがに疲れたので、適当なところで休息を取ろうと思う。
そういえば、戦闘のどさくさで眼鏡をどこかに落してしまった。
「あっ」
廊下に面した扉からメイド服の少女が出てきた。
彼女はひどく怯えた顔をしている。
「あの、私っ!」
騒がれる前に黙らせたい。
一撃で気絶させるべく、そっと拳を握りしめる。
だが、メイド服の少女はなぜかその場で崩れ落ちると、顔を覆って泣き始めてしまった。
「ど、どうしたの?」
「ごめんなさい。そんなつもりはなったんです、そんなつもりは……」
理由はわからないが、泣いている女の子を殴ることなど香織にはできない。
油断させるための演技の可能性も疑ったが、どうやら本当に悲しんでいるようだ。
彼女はなかなか泣き止まない。
香織はとりあえず姿を隠すことを優先した。
彼女が出てきた扉から、部屋の中へと退避する。
そして、中で信じられないものを目撃した。
教室の中には血まみれの死体があった。
血溜まりの中に突っ伏している人間――
頭部の破損が激しいが、間違いなく古大路偉樹だった。
「これは……どういうこと?」
まさか、外で泣いているメイド服の少女が彼を殺したのか?
一体なぜ?
疑問に思っていると、香織は少女の泣き声が聞こえなくなっていることに気がついた。
慌てて廊下に飛び出そうとすると、入れ違いに入ってくる人物とぶつかりそうになった。
「あっ、ごめんなさ――って、神田さん!」
「小石川さん! 無事でしたのね!」
有線式振動球≪
足元にはメイド服の少女が倒れている。
どうやら気絶させたらしい。
「たっ、大変なの。古大路君が!」
本拠地で療養中のはずの彼女が何故いるのか気になったが、それよりも情報の共有が先だ。
香織は和代を教室の中に導いて古大路の死体を見せた。
「仲間に裏切られて殺されたのですね。なんて哀れな人……」
古大路偉樹。
いくつもの戦乱を起こし、最終的にL.N.T.を二分した組織の勢力のトップに立った男。
戦闘能力は最強クラスの能力者たちと肩を並べるほどではなかったが、類まれな戦術眼とカリスマ性を持って多くの同志を獲得し、組織を拡大する手腕は比肩する者もいなかった。
その結末がこれである。
彼とは敵対する関係にあった和代。
かつては勢力を共にしたことのある香織。
二人はそれぞれ複雑な思いを抱えて古大路の躯を眺めた。
しかし、いつまでも感慨にふけっている場合ではない。
「ところで、どうして神田さんがここに? 千尋ちゃんたちは?」
一瞬、和代の表情が陰った。
だが彼女は何事もなかったように言って、
「まずは落ち着ける所に移動しましょう。お互い状況の確認も必要でしょうし」
部屋の角に視線を向けた。
「あなたも、一度合流しませんか?」
『さすが神田センパイ。気づかれてるとは思わなかったです』
「そんな派手な格好で気づかれないと思っている方がどうかしていますわ」
和代の視線の先には、翼の生えた女の子の人形があった。
ちえりの意識を憑依させた人形である。
香織は気づいていなかった。
「いよいよこの街はヤバいことになっているようです。互いの状況確認を終えたら、私たちもすぐに平和派の前線基地に向かいましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。