6 分かれた道
エンプレスの本拠地を目指して走っていた速海は前方から近づいてくる気配に気づいて足を止めた。
急いで街路樹の陰に隠れるが、向こうから発見されたかどうかはわからない。
敵か、味方か。
考えている暇はない。
相手は変わらぬ速度で歩いている。
もう少し身を隠して、顔が見えたら素早く攻撃を仕掛けよう。
敵だろうが無関係な人間だろうが、任務の障害になるのなら殺してしまうのが一番だ。
一歩一歩と近づいてくる何者か。
しかし、どうも歩調が遅い。
どうやら相手は二人いる。
片方は眠っていて、もう一人が肩に背負っているようだ。
先手を打って攻撃を仕掛けるには絶好のチャンス。
あと三歩、一足跳びで仕留められる間合いに入った瞬間に仕掛ける。
速海は内ポケットに隠したナイフを握りしめた。
そして、まさに飛び出そうとしたその瞬間、
「出てこいよ、速海」
前方から歩いてきた人物が自分の名を読んだ。
ギョッとしたが、すぐに聞き慣れた声であることに気づく。
速海はゆっくりと茂みから出た。
「やっぱりな。あんなスピードで走る奴なんて、こいつ以外ではお前くらいだぜ」
声の主は技原力彦。
速海と同郷の青年である。
L.N.T.に来てからは陰に日向に行動を共にしていた一番の親友。
支社ビル奪還作戦で豪龍が死んでからは、それぞれ別々の道を選んだ男。
まさかこんなところで再開するとは。
「久しぶりだな」
「ああ。水学の生徒会に入ったんだって? 噂で聞いた時は驚いたぜ。いや、案外お前らしいかもな」
「そういう技原は戦い続けることを選んだみたいだな」
速海は技原が肩を貸している人物を見た。
彼らと同じくらいの年ごろの少女がスヤスヤと寝息を立てている。
きっと良い夢でも見ているのだろう。
「そんなつもりはないんだけどな、単に居心地のいい場所に流れ着いたってだけだよ」
「居心地がいい場所がフェアリーキャッツか」
眠っている少女の名は深川花子。
生徒会にとっても因縁深き、かつての最大チームのリーダーである。
と言っても、たしかフェアリーキャッツは先日のエンプレスとの抗争で壊滅したはずだが……
「お前と敵同士になるのは辛いけど、それが俺の選んだ道だ。それと今はフェアリーキャッツじゃなくてフリーダムゲイナーズだからな」
「フリーダムゲイナーズ……?」
聞いたことのない名前だ。
新興グループだろうか。
「悪いけど立ち話してる暇はないんだ。こいつを休める場所に連れて行ってやらなきゃいけないんでな」
「ま、待て」
かつての親友とはいえ、生徒会役員としては彼らを見逃せない。
手負いの深川花子を目の前にしてすんなりと行かせてやるわけにはいかないのだ。
「頼むから行かせてくれ。じゃなきゃ本気でお前とやり合わないといけなくなる。それに、お前も時間を無駄にはできないんだろ?」
「なんだって?」
ふと、速海は生徒会で聞いた話を思い出した。
未確認の情報だが、古大路の率いる新グループに深川花子が属している可能性がある。
もし技原の言うフリーダムゲイナーズというのがその古大路が新設したグループのことなら、本拠地を捨てた彼らがこんなところを歩いている理由がわからない。
「今ごろ水学じゃクーデターが起こっているはずだ。うちの新しいリーダーも動ける奴を引き連れて向かってる。早く行かないと手遅れになるぜ」
「……!」
さっきから速海が感じていた嫌な予感は親友の言葉で完全に裏付けられた。
何も言わずにかつての親友に背を向ける。
速海は聡美たち監視班本隊のいる所に戻るべく全力で走った。
※
恋歌と綺の戦いは続いていた。
「えいやぁっ!」
赤く輝く≪
≪
得意の勢いに任せた投げ技だ。
だが前のように簡単にはやらせない。
「甘い!」
L字に伸ばした恋歌の人差し指の先からガスバーナーのような炎が巻き起こる。
綺は手をひっこめ、曲芸のような動きで回転しながら後方へと逃げた。
「新技!?」
地面に片手をついて着地した綺の表情には驚きの色が浮かんでいた。
あいかわらず勘はいいようだ。
恋歌も簡単に決着がつくとは思っていない。
新しく手に入れたJOY≪
「止まっている暇はないわよ!」
綺の左右、そして後方から三つの≪
オールレンジ攻撃と同時に恋歌は走りながら指先から炎を迸らせる。
フェアリーキャッツのサブリーダー大森真利子を殺して奪った≪
この能力は現在、恋歌のセカンドJOYになっていた。
二つのジョイストーンを同時に使いこなすのは高度な集中力を必要とするが、この能力は接近されると弱いという≪
綺は四つの攻撃全てを避けようとはせず、右側から迫る光球に自分からぶつかって行った。
真っ赤な翼にぶち当たった光球はボールが壁にバウンドするように弾かれてしまう。
やはり≪
だが、当たった一瞬だけは確実に動きが停止した。
残った四つの光球がペアになって進行方向と頭上から綺を襲う。
確実に捉えたと思ったが、綺は恋歌の予想をはるかに超えた動きで回避した。
地面を蹴り、体を宙に投げ出すと、空中で回転しながら紙一重ですべての攻撃を逸らす。
前回に戦った時よりも動きにキレが良くなっている。
しかし攻撃手段は相変わらず掴んで投げるしかないようだ。
以前のように早期決着を狙って懐に飛び込めば≪
この無敵の連携をいつまでかわし続けられるか、赤坂綺!
もとより長期戦は覚悟の上。
動きが鈍った時がお前の最後だ。
「さあ、どんどん行くわよ!」
恋歌の攻撃は止まらない。
L.N.T.最強を決する戦いは、まだしばらく続きそうだった。
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