4 甲原のコンプレックス

 甲原は昔から自分の容姿に強いコンプレックスを持っていた。

 小学校時代はブサイク野郎とあだ名され、女子たちからは害虫のごとく嫌われていた。


 自分を虐げる者たちを憎みつつも、我欲は人一倍強かった。

 だから特殊な力を得られるという学園の話を聞いた時は迷わず入学を決意した。


 だが結局、このL.N.T.でも彼はコンプレックスを解消できなかった。

 彼は良い能力に恵まれず、優れた者との間には絶対的な越えられない壁があるのを知った。


 どこに行っても虐げられるだけという現実。

 それは長年に渡って甲原の心を強く蝕み続けていた。


 最強クラスの能力さえ手に入れれば……

 他の能力者のいない外の世界ならば……


 自分はきっと、人から羨まれる存在になれる。


「で、腹いせに仲間を巻き込んで、こんなバカげたことをしでかしてんのか」

「人聞きの悪いことを言うな。この作戦が成功した暁には、誰もが自由に外の世界に戻れるようになる。解放を願うのは建前ではない。同志たちもそれを成し遂げることを強く望んでいるだろう」

「けど、お前が行動を起こした理由は自由それじゃないだろ?」

「個人的な事情は関係ない。理由は各々異なっても目指す所は一緒なのだ」


 何度も考え、悩み抜いた末の結論だ。

 今さら他人の言葉などで揺らぐことはない。


「それに俺の個人的な理由も同志たちは知っている。知った上で俺をリーダーと認めてくれている。多かれ少なかれ、誰もが同じような悩みを抱えているのだからな」

「学園テロリストの正体は劣等感にまみれたただのいじめられっ子集団かよ」

「何とでも言え」


 やはり清次とは解り合えそうにない。

 それでも中学時代を共にしたこの友人を同志に迎えたい。

 時を経ても、思想が違っても、変わらない友情があると甲原は信じたかった。


 と、その時。


「リ、リーダー、大変です!」


 ドアを強く叩く音と共に外の同志の慌てた声が飛び込んできた。


「何事だ!?」

「いま、運営の奴らから連絡があって、こちらの条件を一部受け入れるそうです!」


 甲原は椅子から立ち上がった。

 どのような経緯があったか知らないが、まさかこんなに早く反応があるとは。

 清次の方を振り向くと、彼も驚いた様子で情報を持ってきた同志の顔を眺めていた。




   ※


 第一校舎にたった一人で近づいてくる人物がいる。

 アニメキャラのような水色の髪、中学生くらいに見える童顔の女。

 甲原と正面玄関を守る三人の同志たちは油断なく銃を構え、彼女が傍に来るのを待った。


「とりあえず、用意できたのは十個だけだよ」


 両手を挙げて降服の意思を示す女はエイミー学園長。

 こちらの条件を一部飲むと言って運営側が譲歩したのは第三の条件だった。


 能力付与済みのジョイストーンの提供。


 三つ目の条件だけ、それも要求の十分の一しか用意できなかった運営の態度には、本来なら怒りを持って答えるべきだろう。


 だが、奴らはこちらの要求とは異なる懐柔策を用いてきた。

 ジョイストーンと同時に重要人物を差し出してきたのだ。


 学園創立者の一人、エイミー=レイン。

 彼女の人質としての価値は一般生徒数百人にも相当するだろう。


 ジョイストーンの譲歩に加え、彼女は自ら望んで人質に加わると言う。

 これが単なる懐柔策なら受け入れても問題はないように思える。

 どうせこちらは譲歩する気など一切ないのだから。


 見た目は若くともエイミーの年齢は三十に届くはず。

 年齢的制限があるSHIP能力者やJOY使いであるはずはない。


 それでも、運営の人間を招き入れるのは不安があった。

 獅子身中の虫を飼うことにならないか?

 判断は慎重を求められる。


 それにしても……なんという美女だろう。


 非現実的すぎる鮮やかな水色の髪。

 幼い容貌に不釣り合いな服の上からでもわかる豊満な胸。

 身長は一五〇センチにも満たず、華奢だが甲原にとっては理想的な体をしている。


 帝王として侍らせるならこんな女がいい。

 自分と並んだ姿を客観的に想像すれば、まさしく美女と野獣に過ぎないが――


 無意識のうちにまた自虐的な思考をしてしまった。

 今の切迫した状況を思い出し、甲原は緊張感を取り戻す。


「頭の後ろで手を組むんだ。そのまま歩け」


 甲原はエイミーの後ろに周った。

 とりあえず、彼女を校舎の中に連れ込もう。

 まずは彼女から受け取ったカバンの中身を確認する。


 中身は確かにジョイストーンだったが、能力制御装置の働いている間は使って確かめることはできない。


「靴を履き替えたら階段を登って最初の角を曲がれ」


 エイミーは黙って甲原に従った。

 前を歩かせ、後ろから銃を突き付けて指示を出す。


 こんな美女が自分の言うとおりに動く

 ただ銃をちらつかせて誘導しているだけだが……

 甲原にとってはたまらなく気持ちの良いことであった。


「リーダー、その人は……?」


 三階の空き部屋の前、伝達役の同志とすれ違った。


「学園長だ。運営が人質として差し出してきた」

「大丈夫なんですか? スパイとかなんじゃ……」


 同志はだいぶ疑わし気な様子である。

 能力者ではないと思うのだが、やはり心配すべきだろうが?


 ふと、甲原の頭の中に欲望が過る。


「そこの部屋に入れ」


 甲原はエイミーに命令した。


「今からこいつを尋問する。四階の同志たちにそう伝えておいてくれ」

「わかりました」


 三階には人質も見張りも置いていない。

 少し大声を出したところで、誰にも気づかれることはないだろう。


「も、もしかしたら運営のスパイかもしれないからな。潔癖が証明されるまでは他の人質と同じ部屋に連れ込むのは危険だろう」


 内心を見抜かれるのが嫌で適当なことを早口でまくし立てる。

 だが、口に出してみればその可能性は十分にあると思えてきた。


「何かあったらすぐ呼んでください」

「ああ」


 伝達役が走り去っていく後姿を見送って、甲原はエイミーを空き部屋へと連れ込んだ。


「まさか、あんたが人質を買って出るとは思ってなかったぜ」


 甲原はニヤケ顔を浮かべてエイミーをジロリと眺めた。


 間近で見ると、本当に美しい。

 生徒会長の麻布美紗子も正統派の美女ではある。

 しかしエイミーには同年代では決して出せない妖しげな魅力があった。


 もちろん、見た目よりも年下という意味でだ。


「人質は無事なんですか?」


 恐る恐るエイミーが訊ねてくる。

 こうしていると、本当に幼い少女と向かい合っているようだ。

 怯えを必死に隠して敬語で喋る彼女の表情に、甲原の嗜虐心が刺激される。


「それを教えてやる義理はないな。取引に応じてやったとはいえ、こっちはまだあんたを疑ってるんだ」

「生徒たちが人質にされるくらいなら私がなった方がマシです。それじゃ理由になりませんか」

「どうだろうな。捕まったフリをして他の人質を逃がそうとしているんじゃないのか?」


 そうでないと確かめるまでは、彼女を他の人質と同じ部屋に移すわけにはいかない。


「どうすれば信じてもらえますか」

「まず、あんたが俺の指示には確実に従うと証明してほしい」

「具体的には何をすれば?」

「まずは服を脱げ」

「わかりました」

「え?」


 半ば冗談で言っただけである。

 拒否されたらそれを理由に両手両足を縛ろうと思っていた。

 ところが、なんとエイミーは言われるままに衣服を脱ぎはじめた。


「おい、まさか本当に……」


 纏っていたスーツを脱ぎ、あっという間に下着姿になる。

 銃を構えるのも忘れ、茫然とその体に見入ってしまった。


「これで満足ですか?」


 銃器で武装しているとはいえ、アカネの月の構成員はほとんどが戦いの素人である。

 リーダーである甲原の指示がなければまともに連携もできない。

 いつまでもこの女に構っている暇はないのだが……


「どうですか、何も持ってませんよ?」

「な、何?」

「武器を隠し持っていないか調べたかったんでしょう?」

「あ、ああ、そうだ……」


 思わず視線を逸らしてしまう。

 しかし、ここで引くわけにはいかない。

 本当に、彼女が何でも言うことを聞いてくれるか確かめなければ。


「じゃ、じゃあ次は……学園の代表として、これまで虐げられてきた者たちに謝ってもらう。床に手をついて謝罪の言葉を口にしろ」

「わかりました」


 エイミーは何の躊躇もなくその場で膝をついた。

 そして、地面に手をつけて謝罪の言葉を口にする。


「私が無能なせいで、あなた達を苦しめてしまいました。心から謝罪します。だから、どうか生徒たちや他の先生方に乱暴なことをしないでください」


 こんな美少女が、あられもなし姿で俺に土下座している。

 あのエイミー学園長が。


 どうしよう。

 どうしたらいい。

 この女は自分の言う事なら何でも聞くぞ。

 甲原は胸が早鐘のように高鳴っているのを自覚した。


「ま、まだ……わからないな。体の中に隠していないとも限らない」


 言うのか?

 本当にこんなことを?


「し、下着も脱いで、仰向けになって……足を開け。俺がこの手で確かめてやる」

「わかりました」


 エイミーは忠実に、それを実行する。

 たまらなかった。

 甲原は野獣のようにエイミーに襲い掛かった。

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