8 共闘! 技原&豪龍コンビVSアリス!

 技原と豪龍がそれぞれ左右に跳んだ。

 アリスの突進からの速攻を避けるためである。


 敵の踏み込みスピードは恐ろしく速い。

 だが、攻撃をかわすには十分な距離があった。


「見せてもらおうか技原ぁ! わずか半年で爆高第二位にのし上がったその力ぁ!」

「言われなくとも!」


 豪龍は気に喰わないが、ここに来て出し惜しみをするつもりはない。

 技原は横っ面を見せるアリスに飛びかかり、握りしめた拳を思いっきり突き出した。


 アリスは最小限の動きで技原のパンチをかわす。

 カウンターのナイフが技原の脇腹を狙う。


「オラァ!」


 体を逸らし、左ひじを落として敵の攻撃を防ぐ。

 Dリングで強度を増した胴体と腕でアリスのナイフをがっちりと挟み込む。


 技原は左腕を振動させた。


「≪振動する拳バイブレーションフィスト≫!」


 アリスがもう少し早く腕を引いていれば、腹の肉をざっくりと引き裂かれていた。

 まさしくギリギリのタイミングを狙ったカウンターである。


「く……」


 ナイフ越しとはいえ、この振動は常人が耐えきれるものではない。

 技原の振動を食らったアリスは苦悶の表情を見せた。


 アリスはナイフを手放し、それ以上のダメージを防いだ。

 それと同時に反対の手をそっと開く。

 JOYが来る。


「ちっ!」


 技原は反射的に後ろに跳ぎ、そのまま廊下を転がった。

 技原の頭上を電撃が通り過ぎていく。


 あれが噂の≪雷皇の楽園サンダーランド≫か……!


「ヒョウ! 間一髪だったぜ」


 勢いをつけ、膝を曲げて立ち上がる。 

 口調こそ軽いが技原の額には冷や汗が滲んでいた。


 一瞬でもタイミングを誤れば串刺し、あるいは黒こげになっていただろう。

 技原の左腕はわずかにナイフが掠っただけなのにザックリ裂けている。

 電撃が直撃した壁面は火で炙ったような焦げ跡を残していた。


 なんという機転と速度、そして攻撃力だ。

 Dリングの防御の上からでこれである。

 流石は旧校舎の主、半端な敵じゃない。


「よくやった技原ぁ! 次は俺の力を見せる番じゃあ!」


 技原の横をすり抜けながら豪龍が叫ぶ。

 体の周囲が陽炎のような揺らめきを見せる。


 青い炎、というのが一番近いだろうか。

 それは次第に彼の右腕へ集中する。

 炎はとある形を作っていく。


 龍だ。

 豪龍の右腕は青く揺らめく龍の形の炎に包まれた。


「これが俺の、≪豪龍拳ドラゴンパンチ≫じゃあ!」


 豪龍はアリスに向かって青龍の炎を纏った拳を打ち下ろす。

 圧倒的な体格差がある故に可能な、あまりにも強烈な一撃。


 アリスはその攻撃をを横に跳んで避けた。

 直後に響く大爆音。

 立っていた場所は大きく抉られ、廊下に巨大な穴が穿たれる。


「すっ、げぇ……」


 技原は思わず呟いていた。

 普段なら絶対に褒めたりしたくない相手だ。

 だが、豪龍の使った技の破壊力には素直に驚嘆せざるを得ない。


 爆撃高校の頂点に立つ男は伊達ではなかったのだ。

 しかも、これだけの攻撃を繰り出しながら腕の龍は消えていない。


 単なる一撃必殺の大技ではないのだ。

 あれは恒常的な攻撃力強化の能力なのか。


「技原、挟み撃ちじゃあ! 二対一だからって手加減なんかしよるんじゃないぞう!」

「お、おう!」


 勝てる。

 こいつと一緒なら。


 爆高最強の女は、爆高最強の男たちによって倒される。


 三帝アリスの伝説も今日で終わりだ。

 技原は強く拳を握りしめ、再びアリスに向かって行った。




   ※


 しかし、戦いは思うように進まなかった。


 豪龍の≪豪龍拳ドラゴンパンチ≫も、技原の≪振動する拳バイブレーションフィスト≫も、当たれば確実に一撃で相手を沈められる破壊力を持っている。


 だが、どちらにも欠点はあった。


豪龍拳ドラゴンパンチ≫は一撃の隙が大きく、動いている敵には非常に当てづらい。

振動する拳バイブレーションフィスト≫は相手の体に触れてから振動を伝えるまでに一瞬のラグが生じるため、アリスほどの俊敏さがあれば当たってから逃れることもできる。


 アリスはこちらの攻撃を避けつつ、牽制の電撃を撃ちながら隙を見てナイフ攻撃を繰り出してくる。

 技原と豪龍は互いの隙を庇いながら戦っていたが、次第に劣勢に追い込まれていった。


 これが三帝の実力か。

 動きも能力も超一流だ。


 果たして、本当に勝てるのか?

 技原は頭に過ぎった不安を拭うように拳を振り上げた。

 アリスはまたも攻撃を避けるが、反対側からは豪龍が迫っていた。


 完璧に逃げ道を塞いだ形……だが。


「ぐおおっ!?」


 振り向きざまに振ったナイフが豪龍の右腕を青い炎の龍ごと斬り裂いた。

 炎ははすぐに元の龍の形に戻ったが、本体の腕はざっくりと裂けてひどい出血を起こしている。


「豪龍っ!」


 さらに追い打ちをかけるつもりか、アリスはナイフを逆手に持ち替えた。

 技原は豪龍を守るためアリスの背中に向けて蹴りを放つ。


「ち」


 アリスも流石に攻撃を断念。

 技原は大きくジャンプして距離を開く。


「平気か、豪龍!?」


 技原はアリスを睨みつつ、背中に豪龍を庇った。


「平気じゃあ……このくらい何ともないわい」

「無理すんなよ、顔が真っ青だぜ」


 どう見ても浅い傷ではない。

 常人ならのたうち回るほどの激痛を感じているはずだ。

 やせ我慢とは言え耐えているのは、爆撃高校トップのプライドが成せる業か。


「問題は気力の方じゃあ。どんなに気を張っても≪豪龍拳ドラゴンパンチ≫を維持できるのは残り一分程度が限界なんでのぅ」


 あれだけの破壊力をもつ能力だ、具現化し続けるのはやはり並大抵の消耗ではないらしい。

 技原にしても≪振動する拳バイブレーションフィスト≫の連発で、そろそろ体力が限界に近付いている。


「よし、わかった。次で確実に決めるぞ」

「どうするつもりじゃあ?」

「俺が相手の懐に飛び込んで、わざと攻撃を受ける。その代わりあいつの体を掴んだら意地でも離さねえから、俺が動きを止めてる間にそいつを全力で叩きこんでやってくれ」

「死ぬぞぉ。やつのナイフの威力は見たじゃろう」

「防御に全力を集中する。一撃くらいなら凌いでやるさ」


 わずかな沈黙。

 技原はアリスに視線を向けたまま豪龍の答えを待った。


「……わかった、お前に賭けよう」


 豪龍が低い声で答える。

 その声音はどこか申し訳なさそうな響きがあった。


「任せてとけ。ただし絶対に外すなよ」

「ああ。作戦が成功した暁には、お前の怪我が癒えるまで抗争を再開せんと誓おう」


 技原はなんだかくすぐったいような気持ちだった。

 もちろん、速海や太田に対する信頼とは比べ物にならない。

 だが、戦いの中で友情が芽生えると言うのは、こういうことなのだろうか。


「それじゃ、行くぜ!」


 どうせこれが最後なのだ。

 痛いくらいに拳を強く握りしめて技原は駆けた。


 その瞬間。

 ジ……という小さな音が彼の耳に入った。


 何だ?

 懐に視線を落とす。

 ポケットに忍ばせておいた無線機から声が響いていた。


『……れは罠だ! 豪龍はやっぱりオレたちを裏切っ――!』

「≪爆・豪龍拳ビッグバンドラゴンパンチ≫!」


 それが速海の声だと気づいた瞬間、技原の背後で爆音が鳴り響いた。

 天井が崩れ落ち、彼と豪龍の間に瓦礫が降り注ぐ。


「豪龍!? いったい何をしてるんだ!」

「ふっはははははっ! もう数秒遅ければ最高のタイミングだったんじゃがのぅ!」


 舞上がる砂煙で豪龍の姿は見えない。

 だが、声が遠ざかっていくのははっきりとわかった。


 逃げた……?

 いや、裏切った!?

 技原がその事実に気づいた直後。


「ぐおっ!?」


 脇腹に激痛が走った。

 いつの間にか目の前にアリスがいる。

 彼女のナイフが油断した技原の脇腹に突き刺さった。

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