2 金髪碧眼の男の子
「はじめまして、マーク=シグーです。これから一ヶ月間よろしくお願いします」
丁寧な仕草で日本式のお辞儀をする金髪碧眼の少年。
そのあまりの可愛らしさに生徒会役員たちはそろって黄色い声を上げた。
「かわいーっ!」
「日本語上手だね。どこで習ったの?」
「父が日本びいきなもので、家には日本の本や映画がたくさんあるのです。それを一緒に見ているうちに自然と覚えました」
五歳児とは思えないハキハキとした受け答えに役員たちは喜色満面になる。
「頭いいんだねー」
「パパたちと離れてさびしくない?」
「寂しくないと言えばウソになりますが、父が仕事で忙しいことは納得していますから」
「小さいのにえらいね。何か困ったことがあったら、すぐにお姉ちゃんたちに相談してね!」
「はい。その際にはぜひよろしくお願いします」
再度ペコリとお辞儀をするマーク。
「かわいいーっ!」
「ほらほら、みんな。あんまりマークくんを困らせないの」
副会長の
役員たちはしぶしぶとマークを解放して聡美の話に耳を傾けた。
「遠くから来たばっかりで不安もあるだろうし、引き受け先が見つかるまでは私たちが面倒をみないとといけないんだから、興味本位でいろいろ問い詰めたらかわいそうでしょ」
「はーい」
聡美はちらりとマーク少年に目を向ける。
視線が合うと、愛嬌のある微笑みを返してきた。
思わず頬が紅潮するのを自覚する。
「お姉さん」
「な、なにかしら?」
マークはテクテクと近寄って来て聡美のスカートの裾を掴んだ。
聡美はしゃがみ込んで彼と目線の高さを合わせる。
周りから「自分ばっかりずるーい」という声が飛んできたが、とりあえず無視。
「ぼく、学園の中を見学したいです」
胸がキュンてした。
いくらなんでも可愛すぎである。
しかし聡美は願いを聞いてあげたい気持ちを必死に堪えた。
「ごめんなさい。申し訳ないけど、夜まではこの部屋にいて欲しいの」
「ダメですか……」
外国人らしく感情を強く顔に表してガッカリするマーク。
その姿を見ていると心が強く痛むが、こればっかりは仕方ない。
この少年に万が一のことがあれば本当に大変なことになるのだから。
※
昼休みのチャイムが鳴ると同時に聡美たち生徒会役員は専用通信端末で呼び出された。
生徒会室には美紗子が待っており、彼女と一緒にこのマーク少年もいたのだ。
マークはラバース社長の知り合いの息子だという。
とある理由で彼をしばらくL.N.T.で面倒を見ることになった。
引き受け先の施設は夕方までには見つかるので、今日の下校時刻までは生徒会で預かって欲しいと頼まれたそうだ。
ちなみに、当の美紗子は後からやってきた深川花子と一緒にどこかに行ってしまった。
なんでもあのミイ=ヘルサードから依頼を受けてL.N.T.の外へ行くらしい。
数日は戻らないので代わりにマークをよろしく頼むと言っていた。
最後に、大変な言葉を残して。
「この子にもしもの事があったら学園どころかL.N.T.そのものが潰れる可能性あるから、本当に気を付けてよろしくね」
ハッキリ言っていろいろと謎である。
が、生徒会役員たちにとってはそんなことはどうでもいい。
学園内には危険などないし、夜間と一部の学校を除けば街は平和そのものなのだから。
とはいえ、夜までは生徒会室に残って面倒を見るべきだ。
ちゃんと許可を取った上で五時限目と六時限目も交代で半数ずつこの部屋に残って彼を観察……
もとい監視する。
下手に自由に出歩かせて、生徒たちに囲まれでもしたら思わぬ怪我をするかもしれない。
なにせ、こんなに可愛いんだから――
「あれ?」
ふと気付くと、マークの姿がどこにもない。
なぜか入口のドアがわずかに開いてぎしぎしと揺れていた。
聡美が青ざめていると、そのドアから遅れてやってきた一年生役員の赤坂綺が顔を出す。
「こんにちは……あの、今そこで外国人っぽい男の子とすれ違ったんですけど……」
生徒会役員たちは慌てて廊下になだれ出た。
すでに金髪碧眼の少年の姿はどこにも見られなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。