2 凄絶なる淫魔
「まだやる?」
「こっ、降参だっ。チームはお前にくれてやる、だからっ」
「だから?」
出血を続ける山方の手首を花子は靴裏でジリジリと踏みにじる。
「ぎゃああああっ!」
「くれてやるからぎゃああ? なにそれ、なに言ってるんだかわかんないなぁ」
さらに体重をかけ傷口をつま先でえぐる。
いよいよ山方はこの世のものとは思えない叫び声を響かせた。
「ねえ真利子」
花子はナンバー2である
「なんだかよくわかんなくなってきたから、最初の予定通りにやろっか」
「はい。準備は出来ております」
「おっけ。じゃあみんな、オーブのバカどもをボッコボコにしちゃって」
花子の号令がかかる。
それを待っていたフェアリーキャッツのメンバー六十名が一斉に敵グループへ襲い掛かった。
「そっ、そんな、話が違……うわああっ!?」
リーダーがなすすべなく蹂躙される様を見せつけられていたオーブのメンバーたち。
抵抗の気力は残っておらず、あっという間に三倍の戦力差に飲み込まれていった。
※
「第三段階にあるオーブの能力者は山方以外ではこの女だけのようです」
肉食獣による狩りのような一方的な戦闘はすぐに終了した。
途中から座って見物していた花子の下に、両腕を拘束された女が運ばれてくる。
「ん、わかった」
花子はたいした興味もなさそうに腰を上げた。
彼女が座っていたのは地面に這いつくばらされた山方の……
さきほどまでオーブのリーダーだった男の背中である。
左腕に増えている銃創は彼が再び抵抗した際につけてやったもの。
チームが蹂躙される様を見せつけられて逆上したのだが、それ以降は大人しいものであった。
他のオーブメンバーたちも、ある者は気を失うまで殴打され、ある者は自分をボコボコにした者の足を舐めながら許しを請い、一人として両の足で立っている者はいなかった。
「あんた、名前は?」
花子が問いかけても女は答えない。
うつむく彼女の左腕に花子は容赦なく≪
「うぎゃあっ!」
「質問にはきちんと答えなよ? あんたたちを殺すも生かすもあたしの気分次第なんだからね」
「たっ、助けてっ」
「もう一回聞くよ。あんたの名前は?」
「やっ、山井だよ、山井やまい、
女は半狂乱で自分の名前を何度も繰り返し叫んだ。
その声がうるさいと花子はもう片方の腕にも銃弾を撃ち込む。
あまりに暴虐な振る舞い。
オーブのメンバーで意識のはっきりしている者は、その様子を見て委縮してしまっていた。
自分たちは決して逆らってはいけない相手に歯向かってしまったのだと。
花子は真利子に山井の拘束を解くよう指示した。
支えを失った山井はその場に崩れ落ち、しばし痙攣したのち、失禁しながら意識を失った。
「ただ今をもってオーブは解散! メンバーはすべて自動的にフェアリーキャッツに組み込むこととする! 異論のある者は申し立てよ!」
残ったオーブのメンバーたちに向けて真利子が大声で宣言する。
当然ながら文句を言う者はひとりもいなかった。
花子の暴虐さを目の前で見せつけられ、次は自分の番かと恐れていたオーブメンバーたち。
このような状況で差しのべられた手を振り払える者などいないだろう。
グループに命を賭けてまで忠節を尽くすような人間はいない。
無法地帯を遊び場にしているとはいえ、彼らはただの高校生。
確固たる信念や後ろ盾があるわけでもない。
抗争ごっこ以上のスリルなど望んでいないのだ。
「異論のある者はないようです」
「おっけ。じゃあ、最後の仕上げといこうか」
花子は妖しく舌舐めずりをして倒れている山方を見下ろした。
「部屋の準備はさせてあります。ですがその前に、今回ばかりは……」
「わかってるって。リーダーとして、ちゃんとみんなとも触れ合っておかなきゃね」
菜森地区では最後の抵抗勢力であったオーブをついに降した。
これで千田中央駅より南東の地域はフェアリーキャッツが完全に支配したことになる。
ひとつのグループによる地方統一は、このL.N.T.初の快挙であった。
「あ、それから二人くらいうちのグループの男に声かけといて。このまえやっつけたとこに可愛いコがいたでしょ。あとは新入りの中からあたしが気に入りそうなのを適当に」
「わかりました、あの山井という女はどうします?」
「あんたたちで適当にイジメといて。女にゃ興味ないから……っと、呼ばれてるわ」
メンバーたちの歓声があがる。
次第にそれはリーダーを称える声に代わっていった。
「花子さん!」
「花子さん!」
自らを称える声が唱和される中、受け取った革ジャンを肩に羽織った深川花子は、リーダーとしての貫録を纏いながらメンバーの輪の中へ戻っていった。
※
菜森地区の外れには夜間でもネオンがまぶしい建物が一件だけある。
『ダイヤモンド』と看板の出ているその施設は、いわゆるラブホテルである。
仲間たちと一通り騒いだ後、花子は一人でこの場所までやってきた。
入口には先に来て待機していたグループの男二人と真利子の姿がある。
「四号室です。鎖に繋いであります」
真利子から鍵を渡される。
「ありがと。いつも悪いね」
「二度と逆らう気の起きないよう、しっかり体に叩きこんでやってください」
抗争後、みんなが騒いでいる時に面倒な仕事を任せても真利子は嫌な顔一つせず引き受けてくれる。
一応は敵対チームのリーダーに対するケジメという側面を持っているが、これから行われる事は完全に花子個人の趣味である。
「本日、お相手を務めさせていただきます
「
男二人が花子に挨拶をする。
さすがに経験がないということはないだろうが、初めて花子の相手ということもあって、少し緊張しているように見える。
「そういう固いのは抜きでいいよ。固くするのはあっちだけでいいから。今日はよろしくね……うふふ」
二人の肩を叩き、花子は妖しい笑みを浮かべてホテルへと入って行った。
※
「さあて、お待たせぇ」
ホテルの一室に鎖で繋がれた山方の姿があった。
一切の衣服をはぎ取られ、情けない格好でベッドの上に拘束されている。
「ひっ、たすけ……助けてくれっ」
「怖がることないんだよぉ。とーっても楽しいことをしてあげるからねぇ」
幼子をあやすような口調で山方を見下ろす。
事前に命じて盛らせておいた薬の効果は出ているようだ。
こんなに怯えているのに、あちらの方はしっかりと臨戦態勢になっている。
花子が黙って後ろに控える二人に手を伸ばすと、滝野川が黙って様々な道具の入ったカゴを差し出す。
その中から太く黒光りする一本の棒状の物体を選ぶと、愛おしむようにそれに舌を這わせた。
「それじゃイクよぉ。できる限り壊れちゃわないで、あたしを楽しませてねぇ」
抗争後の男遊びは花子の趣味である。
敵対したチームの男をいじめて二度と逆らう気が起きないようにさせたり、チームの男に夜の相手をさせたりと、戦いで燃え上がった熱はこうやって発散する。
「うっぎゃあああああああっ!」
花子の異名を『菜森のサキュバス』という。
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