2 美隷女学院

 舐めるように春花を味わい尽くした和代は、素早く制服を着込んで何事もなかったかのように第一校舎へと向かった。


 グッタリしたままの春花に制服を着せて、しばらくそのまま休ませておく。

 和代の標的にされた娘は生徒会の実務に協力したことになる。

 あとで遅刻免除の書類書を発行しておこう。


 いろんな意味で忘れないために、彼女の名前と身体的特徴をメモに書き込んでおく。


 校内で行われるこのような『擬似恋愛行為』は違法でもなければ校則違反にもならない。

 遅刻免除は生徒会長の職権乱用だが、美女学ではこのような活動が普通に認められているのだ。


 和代はこの校則の穴を最大限利用し、毎朝気に入った娘を見繕っては美味しく頂いている。


 だからと言って学院内が乱れたり退廃した空気に満ちているわけではない。

 他の二校と違って生徒たちが各々の節度を持ち、美しくあるよう己を律しているからだ。


 その一方、裏を除けば美しくもみだらな愛の行為が至るところで行われている。

 人前では乙女を演じながら陰で秘密の愛を交わすという背徳。

 あくまで仲間内という範疇に限れば、美隷女学院の生徒の貞操観念はあまりに低い。


 こまめな欲求の解消があるからこそ、彼女たちはお嬢様を演じ続けられるのだ。


 それにしてもさっきの娘は可愛かった。

 朝からたっぷりと美味しい想いをできたことに満足しながら和代は教室へと向かう。




   ※


 二階と三階を繋ぐ階段を登る途中で和代はふと足を止めた。


「あら」


 階段を上から数人の生徒が下りてくる。


 その数は九人。

 前を歩いていた生徒たちはすれ違いざまに会釈する。

 しかし、誰もが明らかに大きく迂回してその集団を避けている。


 和代は集団の中心人物……ゆるやかな長いウェーブ髪の生徒と目が合った。


「ごきげんよう、恋歌れんかさん」

「ごきげんよう、生徒会長」


 作り物の笑顔を貼り付けて会釈をする。

 荏原恋歌えばられんかは薄く微笑みながらそれに応えた。


「朝からお盛んなようね。襟元が乱れているわよ」


 相手の方が高い位置にいるから仕方ないのだが、見下すような視線と言い方に和代は自らの顔が引きつるのを自覚した。


「これは失礼、私としたことが」


 襟元に手を当てて確認するが、別に乱れてなどいない。

 いつものことだ。


「では、授業が始まりますので」


 和代は早足に彼女たちの横を通り過ぎた。

 彼女たちの中の誰かがクスリと笑ったような気がしたが、これ以上相手をするつもりはない。

 恋歌たちはそのまま階段を降りて二階の教室へ向った。

 相変わらず周りの生徒たちからは避けられている。


 容姿端麗、成績優秀、運動能力抜群。

 そして最初期からのJOY使いである神田和代。

 彼女が学内に置いて唯一対等以上と認め恐れる生徒、それがあの荏原恋歌だ。


 恋歌もまた最初期――L.N.T.の入植が始まった四年前――からのJOY使いである。

 四年前に行われた学園対抗の試合で見せた荏原恋歌の圧倒的なまでの強さは、L.N.T.第一期生の伝説として語り継がれている。


 彼女の能力の高さは他の追随を許さない。

 間違いなくこの街で最強クラスの能力者だ。


 容姿はともかく、成績の面での難と、見ての通り彼女の他人を寄せ付けない雰囲気もあって、学内の人気は和代の方が圧倒的に高い。


 むしろ常に彼女を取り巻いている八人の側近を除けば人望は皆無に等しいだろう。

 ほとんど腫れ物扱いだが、それでも彼女はその圧倒的な存在感だけで学内の誰より有名だった。


 和代とは表立って敵対しているわけではない。

 しかし、お互いに気に入らない相手であることは間違いない。

 今のようなくだらないちょっかいをかけてくることもしばしばある。


 悔しいが和代は恋歌が敵でないことに安堵している。

 それほどまでに荏原恋歌という女は強大な力を持っているのだ。

 自分の教室に着く頃にはさっきまでの浮かれ気分は完全に消失していた。




   ※


 放課後、和代は生徒会室へと向かった。

 体育の授業の後と昼休みにそれぞれ一人ずつ女子生徒をおいしく頂いて、朝のイライラはすっかり解消している。


「和代さん。おはようございま……むっ!?」


 生徒会室に入るなり一人で帳票をまとめていた生徒会会計の藤沢翔子ふじさわしょうこの唇を奪った。

 文句を言われる前に素早く会長席に腰掛ける。


 しばらくして副会長の豊島愛理としまあいりがやってきた。

 定例会議の日ではないので、今日はこれ以外のメンバーは来ないかもしれない。


 どこのクラブや委員会もそうだが、ほとんどの生徒たちは部室や委員会の教室を私物化している。

 作業を続ける翔子と書類をまとめる作業を始めた愛理のため、和代は自ら紅茶を淹れて彼女たちに差し出した。


「あっ、そ、そんなこと私がやります!」

「いいのよ。お仕事を続けて頂戴」


 このような気配りも会長として必要なことだと和代は思っている。

 偉そうにふんぞり返っているだけでは仲間の信頼は得られない。

 まあ、実際のところ今は特にすることがないだけなのだが。


 また今朝のことを思い出しそうになった。

 和代は気分を落ち着けるため窓の外に視線を移す。

 生徒会室のある第三校舎四階の窓からは、校舎裏手にうっそうと生い茂った未開発の緑が見える。


 自然に囲まれた美しい学び舎。

 今の自分がいる場所を再確認して、和代は少し穏やかな気持ちを取り戻した。




   ※


 かつて和代は水瀬学園に在籍していた。

 と言っても中等部の最初の三ヶ月だけだ。

 当時はまだ街にも造成中の空き地が多く、今とは違った景色を見せていた頃である。


 学校も最初は水瀬学園中等部だけしか存在していなかった。

 あの頃は無邪気に毎日を楽しんでいた。

 今にして思えばかなり実験動物的な扱いをされていたが、それゆえに街では好き放題に振舞えた。


 クラスでも成績は二番目に良く、そんな自分に誇りを持っていた。


 ある日、ジョイストーンの実験が本格的に開始。

 それと同時に美隷女学院と爆撃高校の二校が設立された。

 和代は悩んだ末により自分が輝けると判断した美隷女学院に転入した。


 思えばあの時、和代に目をつけて美女学に誘ってくれたのは荏原恋歌であった。

 今でこそ相容れない相手であるが、そのことだけは感謝してやってもいい。


 美隷女学院と水瀬学園は当初こそ対立したものの、代表者数名を出しての学園対抗試合を経て、今ではそれなりに良好な関係を築いている。

 この四年の時の流れを思い返し、和代はらしからぬセンチメンタルな気分に浸っていた。


 和代はこの美隷女学院が大好きだ。

 好き放題に欲求を解消できるし、天国以外の何物でもない。

 恋歌の存在は若干の厄介事ではあるが、概ね今の生活には満足している。


 ……たった一つ、心に残ったシミを除けば。

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