第3話 神田さんの優雅なる日々

1 神田さんの優雅なる日々

ラバースニュータウンL.N.T.には三つの高等学校がある。


 千田中央ちだちゅうおう駅からラバース社営電車で北へひと駅、学園駅前の駅舎を出てすぐの『水瀬学園みなせがくえん』が。

 街の中心部、千田中央駅前繁華街を抜け、東西に延びる千田街道を横切った先の香町かまち住宅街の中に『爆撃高校ばくげきこうこう』がある。


 そして、千田街道をずっと西に行った場所。

 L.N.T.の西端と千田中央駅のちょうど間あたり。

 いまだ多くの自然が残る御山みやま地区の入口あるのが『美隷女学院びれいじょがくいん』である。


 美隷女学院――通称、美女学びじょがく

 ここは他の二校と違って、女子生徒のみが通う完全な女子高である。

 まだ開発のあまり進んでいないL.N.T.西部には自然も多く残っており、より良い教育環境を求めて向上心のある女子が集まる、真のお嬢様学校である。


 三校でもっとも格調高い学び舎。

 ここでは深緑色のブレザーを身に纏った生粋のお嬢様たちが勉学に勤しんでいる。




   ※


 神田和代かんだかずよは美女学の二年生である。


 優雅なメロディーを奏でる目覚まし時計で優雅に朝を迎え、優雅な制服に着替えて優雅に髪を整え、優雅にハムエッグを食べることから和代の優雅な一日は始まる。


 朝の紅茶を優雅にすすりながら優雅に朝刊に目を通す。

 優雅に朝八時を迎えたところで、もう一度鏡を優雅にチェック。

 たっぷりと時間に優雅な余裕を持って優雅に家を出る。


 和代の家は美女学の裏手にある。

 他の生徒たちと比べるとやや大きめの一軒家だ。

 もちろん実家ではなく、同様に企業から借りている物件である。


 L.N.T.で暮らす学生たちには無料で住居が貸し与えられる。

 ただし、その生徒が就いている役職や功績によって、グレードに若干の差がつけられていた。

 和代がこのような立派な一戸建てを借りられる理由は、彼女が美女学の生徒会長という大任を務めているからである。


 支度を整え、いつものように歩いて登校。

 バスや電車などの窮屈な通学風景は和代とは無縁である。


「おはようございます。神田さん」

「ご機嫌麗しゅう。神田さん」


 学院に近づくにつれ他の生徒たちの姿を目にするようになる。

 美女学には遠くから通う生徒も多い。

 街道を走る街営バスや、少し離れた川沿いにある美隷女学院生専用の列車駅から出ているシャトルバスで通学する生徒が大半を占める。


 もちろん、近隣に住む生徒には徒歩通学が推奨されている。

 お嬢様学校といっても箱入り娘の集まりではないのだ。


 優雅に、可憐に、そして美しく健康的に。完璧なレディーを育て上げるという信念のもと、如村弾妃じょそんだんひ学園長が作り上げた美隷女学院に妥協の悪しき二文字はない。


「みなさん、おはようございますわ」


 和代も一人一人に手を振って挨拶を返す。

 返事をもらえた女生徒たちは嬉しそうにきゃーきゃー騒いでいた。

 遠巻きに羨望の眼差しを向けてくる女生徒たちもそれ以上に多く見られる。


 成績優秀、容姿端麗。

 そしてトップクラスの『JOY使い』である神田和代。

 彼女は表も裏も美女学生徒たちの憧れの的であった。


 もちろん和代も彼女たちの理想を崩さないよう、日々己を磨くことを怠らない。

 その分の役得は十分にもらっているのだから。


 学校の敷地内に入ったところで、和代は周囲を見回した。

 始業ベルまであと二十分ある。

 それまでに、朝一番の『お相手』を選ぼうと考えたのだ。


「そこのあなた」

「はっ、はいっ」


 声をかけられた生徒が姿勢を正す。

 中学生のような童顔と、短めに切りそろえられたショートカット。

 リボンの色は赤なので一年生である。


「少しお時間をいただけるかしら?」

「はっ、はははいっ、よろこんでっ」


 ずいぶんとウブな反応だ。

 憧れの生徒会長に声をかけられて緊張しているのだろう。

 いい反応だ、これでこそ食べ甲斐があるというものである。


「あなた、お名前は?」

「む、むむむ、武藤春花むとうはるかです」

「春花さんね。ふふ、緊張しなくていいのよ」


 和代は彼女を安心させるように微笑んだ。

 春花の腰に手を当て、エスコートしながら歩いていく。


「ああ、今日はあの娘が生徒会長のお相手をなさるのね」

「うらやましい。わたくしが代わってほしいですわ」


 周りの羨望の視線を受け流し、和代は春花を連れて第二校舎の脇に移動する。

 ここから先は二人の世界、後を追ってくるような無粋な生徒は美女学にはいない。


 花壇を横切り、人気のない場所を探して歩く。

 緊張のあまりロボットのようにぎこちない動きになっている春花がとても愛しい。


「春花」


 周りに誰もいなくなったのを確認し、和代は春花を呼び捨てにして、校舎の壁に押し付け唇を奪った。


「ん、む……」


 幼い唇を舌でこじ開け、なでるように口内を舐めまわす。

 歯の裏を舌でなぞり唾液を啜る。

 相手を虜にするキスのテクニックは中学の時はすでに完成されていた和代の特技だった。


「ふはっ」


 唇を離すと春花は蕩けきった顔で脱力した。

 足から力が抜けその場にへたり込む。


「ふふ……可愛い娘ね。そんなによかった……?」

「は、はい……」


 語りかけながら和代は春花の制服を脱がせ始めた。

 まずはブレザーを、それからワイシャツを。


「かわいらしい下着ね」


 露出した春花の胸元をそっと指先でなぞる。

 幼い喘ぎ声が和代の耳に入ってくると、次第にこちらも興奮が高まり始めた。


 和代はポケットから小さく折りたたんだビニールを取り出し横の地面に広げた。

 服や体を汚さないための即席ベッドである。

 準備ができると春花をそこに横たわらせる。

 指先で触れた少女の肌は熱を帯びていた。


 慈しむように撫でる。

 這わせた指を少しずつ下に降ろしていく。

 春花がわずかな抵抗を見せた。困惑気味の表情は決して嫌がっているわけではない。


「恥ずかしいのね、初めてなのかしら?」


 春花は無言で首を横に振った。

 さすがに三か月この学校に居て、経験がないということはないだろう。

 緊張しているのは仕方ない。皆の憧れの生徒会長が相手だというなら尚更だ。


「大丈夫よ、怖くないわ。それとも私は貴女を傷つけるような乱暴な女に見えるかしら?」


 春花はもう一度、今度は力強く首を横に振った。

 不安そうな瞳が和代を見つめてくる。

 嫌われることを恐れている可愛い子猫の目。

 ああ、ゾクゾクするわ。


「安心して私にすべてを任せなさい」


 そろそろ辛抱たまらなくなってきた。

 和代は春花の耳元に唇を近づけると、ふうっと息を吹きかけた。


「ひゃあ!?」


 春花の体がビクンとはねた。

 そのまま有無を云わさず首筋にキスをする。

 甘い少女の香りを和代は肺いっぱいに吸い込んだ。


「ぺろ、あむ、ちゅ」

「ひゃん! あっ、はっ、ああん、ああ……」


 くすぐったがっているような可愛らしい喘ぎ声が、次第に艶めかしい女の声へと変わっていく。

 頃合いとみた和代は、顔を起こして自らも制服に手をかけた。


「……いいわよね?」


 瞳にうっすらと涙を浮かべ、真っ赤に染まった顔で春花は小さくうなずいた。

 彼女が目を伏せた隙に和代は腕時計をちらりと見る。

 始業ベルまであと十五分。

 それだけあれば目の前のいい具合に料理された子猫ちゃんを美味しくいただくには十分だ。


「そう、私にすべてを任せて……」


 和代は朝一番のごちそうを堪能するべく、震える少女をそっと抱きしめた。

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