3 エイミー学園長

「話は聞いたわ。むげに断ることはないと思うの、ちょっとその企画書を見せてもらえる?」

「え、エイミーさん……」


 少女は清次から書類を受け取ると、楽しそうな表情を崩さずにじっくりと目を通した。

 エイミーとは彼女の名前だろうか?

 髪は染めているだけかと思ったが、やはり外国人なのだろうか。

 いや、その名前はどこかで聞いたことがある気がするぞ。


「清次、この子のこと、知ってるのか?」

「知ってるのかって……学園長のエイミー=レインさんだよ」

「学園長!?」


 そう言えば前に清次が言っていたじゃないか。

 とびきりの美人の学園長がいるって。

 だが、この外見からは学園長という役職が全く連想できなかった。


 このロックな水色の髪の中学生みたいな子が学園長だって?


「童顔で悪かったね。これでも三十路は超えてるんだけど?」

「いや、あの……すいません」


 最低でも三十歳以上ってマジか。

 童顔とかそういうレベルではない。

 それどころか成人女性にすら見えない……


「エイ……学園長。いくらなんでもこの企画を通すのは無理があると思います」

「そうだね美紗子ちゃん。けど、こっちのと合わせたらどうかな?」


 エイミー学園長は会長の机に近づくと、放置されたままになっていた古大路のクラスの書類を手にし、にっこりと微笑んでみせた。


「クラス対抗おっぱいドロケイ。これならありだと思わない?」




   ※


 ちっともありだと思わない。

 おそらく空人だけでなく清次や美紗子会長も同じ意見だったと思う。

 なんで「ナイスアイディアでしょ?」みたいなドヤ顔してるんだろうこの人は。


 しかし、エイミー学園長の鶴の一声でグラウンドの使用許可が出されてしまった。


「それじゃ悪いけど、この企画書を古大路君の家まで届けてくれる?」

「あ、はい」


 しかもまた面倒なことを頼まれた。

 あの嫌なやつに会いに行くのは気が重い。

 それでなくても大地主の家なんて近寄りがたいイメージがあるのに。


「そうだ美紗子ちゃん。弾妃だんひが送ってきた空のジョイストーンだけど、ぜんぶ隣の部屋に置いておいたからね」

「え。あれって第三校舎の空き部屋に保管しておく予定じゃありませんでしたっけ」

「え」


 エイミー学園長はなぜか視線を空人たちに向ける。

 其の後で再び美紗子会長に向き直ると、照れ隠しなのか「にひひ」と笑いながら頬をかいた。

 こうして改めて見ると、どう見てもよくて女子中学生である。


「あの、実はこれから中央職員会議があってね」

「……わかりました。私が運んでおきますから。早く行ってください」

「ごめんね、美紗子ちゃん」


 手を合わせて謝罪するエイミー学園長と、子供の失敗を叱りつつも可愛がるような美紗子生徒会長。

 なんとも微笑ましい構図である。

 どっちかと言えば、教師と生徒の立場が逆な気がするが。


 空人と清次は互いに顔を見合わせ、無言で頷き合った。


「あの。よかったら僕たちも荷物運び手伝いましょうか」




   ※


「ごめんなさい、助かるわ」

「い、いえ……」


 空人の思った通り、荷物とは先ほどエイミー学園長が運んでいたダンボールだった。

 予想外だったのはその数が全部で十四個もあったということである。


 そして、そのうち十個を同時に美紗子会長が苦もなく運んでいるのだ。

 彼女が台車などを使うこともなく、身長の四倍ほどの高さに積み上げられた大荷物を、細腕で軽々と持ち上げた時は目を疑った。


 美紗子会長が仕事の残りを片付けている間に、空人たちは一箱ずつ七往復して下の階に運んでおいた。

 なので、箱に中身がぎっちり詰まってかなり重いことは知っている。

 一箱あたり一〇キロほどはあるだろうか?

 空人と清次も意地で二箱重ねて運んでいるが、それでも腕がしびれるほどだ。


「か、会長、重くないんですか?」

「ご心配なく、私は『剛力』のSHIP能力者ですから。これくらい腕っ節が強くないと夜の街の見回りなんてとてもやっていられないのよ」

「SHIP能力者?」


 空人が聞き返す。

 会長は首をかしげた。


「会長。こいつ先月からL.N.T.に暮らし始めたばっかりで、まだ非能力者ですから」

「えええっ!?」


 J授業でDリングを光らせてない人間には能力のことを教えてはいけないというルールがある。

 空人はとある事情から第二段階に進む前に知ってしまったが、本来なら教えた方も聞いた方も学園からペナルティを受けると聞いている。


「え、えっと、能力者? なんのことかしら。私、か弱いただの生徒会長だからわかんなーい。スペリオルヒューマンなんとかパワーとか聞いたこともなーい。荷物おもーい」


 最初に感じた威厳はどこへやら。なんか可愛い人だなあ。

 そんなこと言っても今さら荷物を下ろすわけにもいかないだろうに。


「でも、こいつは能力のこと知ってるよ。夜中に表を出歩いて爆高生の能力者に絡まれて死にそうな目に合ったから」

「え、そ、そうなの? そう……こほん。えっと、星野空人くん? 夜中に外を歩くのは危険ですから、絶対にやめなさい。理由は説明できませんが、これは生徒会長命令です」


 必死に威厳を取り繕う美紗子会長。

 空人は吹き出しそうになった。

 清次も顔をうつむけて笑っている。

 美人なのに、ものすごく可愛いひとだ。


「あなたは? ええと、内藤清次くんでしたっけ」

「オレ? 一応非能力者だけど、四年前からこの街にいるから」

「四年前?」

「そ。中一の時の美女学との試合も見てたよ」

「あれ? でも、一年生ですよね?」

「オレ、留年してるから」

「あ……それじゃあなた、あの時の」


 美紗子会長は何か思い当たる節があるのか、気まずそうに言葉を詰まらせた。


「おっと、気を使わないでくれよな。オレはぜんぜん気にしてないし、むしろ留年してよかったと思ってるくらいだぜ。親友もできたしな」

「おい、やめろよ」


 そんな言い方をされては反応に困る。

 もちろん悪い気はしないが、さすがに気恥ずかしい。


「あれ、誰もお前のことだなんていってないぜ?」

「このやろっ」


 空人が肩をぶつけると、清次はバランスを崩して荷物を落としてしまった。

 それを美紗子会長はなんと左足のつま先だけで器用にキャッチし、二人のやり取りを見て笑っていた。

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