危機管理室

 グロリオサは遅れて危機管理室にやってきた。

「入るわよ」警報と無線が響く部屋の中を彼女は我が物顔で闊歩する。

「ジャンとは連絡が取れるの?」モニターに張り付いている男に言う。

「今しがた連絡が取れなくなりま

「陛下の居場所はF地点でGPSを確認しましたが、体温が急激に低下しています」奥でパソコンの画面を弄っている眼鏡の男が言う。

「体表面積が急激に膨張しています」

「あのバカ」グロリオサが舌を鳴らした。

「あいつは私しか止められないわ、おそらく。戦闘機は向かっているのね?」

「あと二分でF,地点に着く予定です」

「ヘリを出しなさい。私もあのバカのとこに行くわ」

「その必要はない」モニターから低く、やけに響く声がした。画面の中にあの見慣れた本があった。

「キッシンジャー様?!」

「左様。ジャン王子はおそらく自分をコントロールできている。すでにその方法を彼は会得済みなはずじゃ。問題は、主の国の内部からテロを起こしている者がいるということじゃな」

「テロですって?」

「そうじゃ。その者は

そこで画面が消えた。

「おっと」とモニターを覗いていた男が静かに言った。ふと下を見ると、首元にナイフがあった。

「グロリオサ様。少々あなたは政治に首を突っ込み過ぎです」危機管理室の何人かが立ち上がった。悲鳴が聞こえた。男はグロリオサにナイフを向けたまま言った。

「大人しくしていればいいものを」男はオレンジの髪にオレンジの瞳をしていた。

「あなた、フレイルの国の人ね……」

「いかにも。あなたには少しだけ眠っててもらいますよ」男はナイフを持った別の手で注射器を持ち、素早く振り下ろした。が、その前に一匹の巨大なシャチが現れた。シャチはパソコンと机を粉々にした。モニターは割れた。

「まったくこれだからあなた方夫婦は」オレンジの髪の男がため息をつきながら笑った。危機管理室の人間の何人かは逃げ、何人かは腰を抜かし、何人かは微動だにしなかった。

「これからですよ皆さん」


 「フレイルの王子につなげ」無線は調子が悪かった。さっきこの姿に変わったとき、自分の体重でちょっとだけつぶしてしまたのだ。魚で簡易テレパシーテレビを作ってもいいが、いかんせんこの姿だと魔法が使いにくい。まあすぐ動けるし、パワーがあるからいいんだけど魔法はやっぱり衰えるよね。毎回人言語翻訳魔法使っているからタイムラグがあるし。

「PIGYAAAAAAAAAAAAAANNYLTKAAAAAAAAAAA」僕は試しに今のサメの姿で魔法を唱えてみた。一瞬の遅れののち、ザザ、とノイズが入った。

「モンブランです、オーバー」

「ジャンです。今本国は計画的テロに襲われています。犯行はおそらくフレイルの子孫です。応援要請願う、オーバー」

「災害があったとのことですが、そちらの件は大丈夫ですか? オーバー」

「その一見災害にしか思えない地震こそがテロなのです、オーバー」

「多勢による魔法ですか?オーバー」

「それもあります。姿を変えての物理も含んでいます。D地区への派遣願う。オーバー」

「すぐに応援を向かわせます。緊急出動2000人を派遣します。オーバー」

 僕はすぐさまC地区に向かおうとするが、いや、待て。

 僕が仮にテロを起こすとしたら僕は今どこにいる?


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