F地点

 F地点に着くまでの道中に振動などで軽く他の地区の様子を探ってみたが、やはり軍はまだ来ていないみたいだった。いや、二、三人はいるのか? おそらく軍の中でも雇われの魔導士たちは単独行動をしているのかもしれない。緊急事態だ。致し方ないだろう。それは僕が命令したことでもある。とにかく、ほとんどの地点に何人かはもう到着しているみたいだった。

 僕は湖のすぐ場にあるF地点に着いた。しかしサメはいなかった。おかしい。辺りを見回す。魚に乗り、もう一度空から眺めてみたが、それでも誰もいなかった。おかしい、なぜだ? その時僕ははっとしてしまった。湖の表面が揺れている。ゆっくりゆっくり一定方向に揺れていた。湖に飛び込むか?否、そんな、でもリスクは犯したくない。ならば。

 僕は湖の水面の動きのある部分をめがけて、魚の剣を空から投げた。


Pimuygalaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaと声にならない声が上がった。やっと顔を出してくれた。またサメが湖で暴れていた。よし。麻酔はないから、かわいそうだが骨折してもらおう。僕はサメの尾ひれに狙いを定める。命中した。またこの世のものとは思えない金切り声が響く。

 水しぶきが、僕の頭と頬とちょっとだけお腹と足にかかった。それは必然だった。

その瞬間、どこからか声が聞こえてきた。

「ねえ、あなたは私の父を殺したのでしょう?」姿は見えない。声だけが聴こえる。反響する。

「大義名分の名のもとに私の父を殺したのでしょう? ねえ、わかっているのよ」

   「貴方はいつだってこの国のため、仕事のためだけに生きて生きた」

      「大義名分の名のもとに、個人の幸せを制限する」

           「それが一番国民の駄目だと妄信している」

               「本当はわかっているでしょう、自分には何ができないか」

                   「妻の家族を殺した」

                       「ねえジャン、私のお父さんはどこ?」

                           「お父さんは誰が殺したの?」

                             「その記憶すらないんでしょ?」

                                「私も何もか忘れられれば良かったのに」


 やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、そうだけど違うそうだけど違うそうだけど違うそうだけど違うそうだけど違うそうだけど違うそうだけど違う自分の自分の自分の自分のあるいはいや国民が望んでいるそれはエゴで自分の押し付け幸せ価値観エゴプライド全部どうでもいいよくないわかっていないこうするしかなかった誰かかわりがいてくれればなんとかなったか?誰かほかの人がやれればうまくいったか?そんなはずもないだろ僕だって精いっぱい生きてきただけなんだただひたすらに目の前の仕事を馬車馬のごとく片付けてきただけでただそれだけで僕は僕は

 僕は


 僕は……


 僕はもう一度サメの背骨を折った。


 僕はきづくとサメになっていた。ああまたか。でもこの前になったときよりはなんとなく思考がクリアだな、音は聞こえないんだね、水中の中だからかな? いつもこの姿になると言語を忘れてしまうけれど、今日はやけにクリアだ。

前にこの姿になった時は愛する妻を殺したくて仕方がなかった。が、今は……。

僕はちらりと目の前のサメが動いていないことを確認した。きちんと骨が折れている。綺麗に折ったからおそらくくっつくときも綺麗だろう。今だけの辛抱だ。

「君のこと、殺さないから悪く思うなよ」

殺すほど、興味が無い。


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