再度初期微動

 なんとか軍は派遣した。僕はそのまま魚で移動し、一番近いポイント地点を目指した。そこは誰もいない森だった。

ただひたすらにその地点にいる人間を探す。いた。森の中に一匹のサメがいる。まったく、こんな時に限って麻酔用のフグがないんだから。

「ごめんよ」僕はサメの目に魚でできた剣を空中から刺した。それはまっすぐにサメの右目に的中した。僕の抜き足は誰にも気づかれない。

「ぴぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

サメは暴れた。なんだか不思議な声にならない声も聞こえた。あるいはこれは僕にだけ聞こえる声なのかもしれない。

「ごめんよ、終わったら義眼師を紹介してやるからな」

僕はそのまま、父の城アからくすねてきた包帯で彼の身体をぐるぐるに巻き、最後にもう一度彼の左目の前に剣の先を近づけた。

「動いてみろ、もう一つの目も使えなくするぞ」

 サメはそのまま大人しくなった。僕は無線を付けた。

「国防長、軍の派遣は?」

「今向かっております、オーバー」

「全地域でまだか? 僕だけまた別の現場に向かうぞ」

「各地区まだです。B地点にはあと50キロほどでつきます、オーバー」

「魚と魔法の解放を全軍で許可する。ハザードラインSランク解禁だ」

「了解、オーバー」

 「陛下、ご無茶をしますね」後ろから男の声がした。例の優秀な若い官僚だった。

「……早いな」僕がここに来てからまだ一分くらいだ。ぼくを追ってきたというのだろうか。

「初期微動が起こってからここをすぐ目指しましたが、陛下には敵いませんね」若干彼の息は上がっていたが、すぐに呼吸を回復させた。

「さすがだ」分析力もさながら、敏捷な行動力まで持ち合わせているとは。

「君がこの国を背負う若者であることを誇りに思う」

「光栄ですが、私の仕事はもうありませんね?」包帯でぐるぐる巻きにした巨大なサメを横目に彼は言った。

「まあここではね。他の地区はまだ見ていないんだろう?僕はFを目指すから君はCに進めばいい」

「Fだと距離的にロスが生まれませんか?」

「なんだけどね。僕の見立てでは湖が近くにあるから僕が言った方がいいと思う」

「それならば私が」

「君は確実にできることをまずしてくれ」

「陛下の命は………」と彼は言いかけたが、すぐに口をつぐみ、

「承知いたしました」とだけ小さく答え、地面に両手を付けた。たちまち、地面から木が生えた。彼はそれに乗ってはるか遠くへ行ってしまった。なかなか面白い魔法を使う。

 僕はF地点を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る