優秀な官僚
「はあ、二年ですか」と線の細い男が言った。
「はい。二年でできると思います。問題は耐久性ですね。論文を拝見しましたが、理論上は3カ月で可能です」
「それはあくまで理論上の話です」と男は細い声を出して言った。細い体がますます細く見えた。
「なにせ今までまともに建物謎作ったことはありません」
「しかしミニチュア試作では既に完成しているのだろう?」と僕は詰め寄る。論文には全て目を通してある。落ち度はなかった。
「しかし実験には失敗がつきものです、ジャン王子。あなたも研究者なのですからわかりますでしょう?」
「だから二年の時間を設けています」と僕はきっぱり言った。態度には出さなかったが、少しだけこの線の細い学者の男に僕はいらいらしていた。仕方ない、いつの時代も長く生きていると保守的になりがちなのだ。
「だから一年七カ月をその失敗期間として設けています。お言葉ですが教授、研究者はいつも締め切りを気にせねばいけないでしょう? 審査もありますし、科研費だって申請しなくてはならない。プロジェクトは自分で考えて進まなければどんどんと遅れますよ。あなただって、期日が何よりも大切なことは百も承知でしょう」
「仰る通りです」彼は苦々しい表情で細い声を出した。
「多額の資金を投入させる」と僕は言った。
「予算のあてがあるのですか?」
「ダムの水は他国に供給できる。さらにはわが国で初めて発電所を作ったとなれば、電力共有はおろか、その既存システムと技術を丸ごと売ることもできる。今はなくとも利益は確実に見込める」
「なるほど、とすれば今は借金となりますか?」
「いくばくかはね。でも教授、それは貴方の気にするところではありません。それにまあ、いくつか当てはあるんですよこちらとしてもね」
「ふむ。楽しみにしておりますよ、このプロジェクトも上手くいくことを祈っております」勿論彼は皮肉で言っているのだ。
「ありがとう」しかしここはあえて額面通り受け取っておこう。
会議が終わり次第、廊下で「歩きながら官僚が近づいてきた。
「例の湖の調査終わりました」
「早いな、さすがだな」官僚はまだ30代くらいの若く彫りの深い整った顔をしている男だった。
「いえ、しかしこれは、150年前に」
「ああ、君らなら容易に想像はついただろう。僕としてはこれをハナから隠す気はない」
「国民に説明するのですか?」
「ああ、報告に目を通し、データ考察ができ次第だね。今週か来週にはできるだろう?」
「明後日には可能かと」
「無理をする必要はない」と僕は言った。
「じっくり考えよう。統計のプロには既に頼んであるね?」
「もちろんです」
「新しく来たデータサイエンティストはかなり使えるって噂だけれど」
「仕事中終始イヤホンをつけていますが、それを除けば抜群に仕事ができます」
「問題ない」と僕は言った。
「とにかく早く正確な考察データが欲しい」
「わかりました」
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