第5話 夢

 ベランダで物音がする。がさがさとポリ袋を丸めるような音だ。

 怖い。

 根拠もなくそう思う。

 でも気になる。

 見なければいいとわかっているのに自分の行動がコントロールできない。

 サッシは重く、なかなか開かない。

 その間もずっと音は鳴っている。

 怖い。

 それなのに、なんで私は苦労してベランダに出ようとしているのか。

 ガラス越しに人影が見える。ベランダの隅に座り込んでいるようだ。

 怖い。

 そう思いながら、私の手は止まらない。

 人影が私に気付く。

 こちらを振り向いたようだけれど、シルエットで顔もわからない。ふらりと立ち上がったら、ものすごく背が高い。

 サッシがわずかに開く。

 その隙間から影が私に手を伸ばす。

 怖い。

 そのとき、ドンッと大きな音が響いた。上階で大きなものが落下したような音。部屋が揺れたような気すらした。

 私は驚いて手を引っ込めたけれど、影も怯んだようだった。

 思う通りに体が動かせることに気付いた私は、とっさにサッシを閉めた。あんなに重かったサッシがぴしゃりと閉まる。

 もう一度ドンッと音が響く。

 勢いよく目を開けると暗かった。


 明るくなってからベランダに出る。当たり前だけれど何もなかった。

 身を乗り出して下を見ると、駐輪場の屋根にポリ袋が引っかかっているのが見えた。

 追いかけられたり、何かが侵入してくる夢はよく見るけれど、自分以外の力が助けになったのは初めてだったなと思う。

 現実のサッシは、いたって軽やかに動く。

 何の音だったんだろう。

 私は天井を見上げて首を傾げた。

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