第4話 破裂
帰宅した彼女は買い物袋を床に置いたまま、しばらく携帯電話を操作していた。元気がない様子で、いつもなら彼女が帰ってくるとぱっと明るくなる室内がどんよりとしている。
携帯を放り出すようにテーブルに置き、大きなため息。
『何かあった? 大丈夫?』
当然僕の声は届かない。
彼女は買い物袋の中身を冷蔵庫にしまい、惣菜のパックはそのまま電子レンジに入れた。
うなるように稼働するレンジをぼーっと見つめている。
僕が周りをうろうろしているせいもあるのだろう。黒いもやが彼女の頭に埃のようについていた。このままだと頭痛に見舞われるかもしれない。
『どうしたらいいかな』
払ってあげたくて手を伸ばすけれど、余計にもやが集まってしまい逆効果だった。
『しっしっ! あっち行けって!』
彼女に近付かないように注意して意識を集中する。僕の影響で集まってくるくせに、僕の思い通りにはならない。
『くそっ!』
悪態をついた瞬間。
ぼんっ!
大きな音がした。
『うわっ!』
「きゃっ!」
僕と彼女の声が重なる。
「え、何? わ、やば」
彼女は慌ててレンジのドアを開けた。
「うわぁー。爆発してるし」
イカの天ぷらが破裂している。パックも変形して、庫内に衣が飛び散っていた。
「あー、びっくりした。何これ、イカって爆発するの?」
途方に暮れたような顔が、段々と笑顔に変わる。くすくす笑う彼女の周りにはもう黒いもやはなかった。
この爆発が僕の力なのか単なる偶然なのかわからないけれど。
少しだけ元気を取り戻した彼女は破裂したイカ天をおいしそうに食べていた。
そのあと「衣が取れない」と電子レンジの掃除に苦労していた彼女に、僕は少しだけ申し訳なく思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます