第2話 出会い

 彼女との出会いは六年前だ。

 その前の住人は霊感が強かったのか、相性が悪かったのか、毎晩うなされていた。結果、一ヶ月も経たずすぐに出て行った。

 ラップ音がするとか金縛りにあうとか、僕をダシに恋人に同棲を迫ったうえに結婚前提の約束まで取り付けたんだから、彼にとっては悪くなかっただろう。僕に感謝してほしいくらいだ。だけど心霊現象は濡れ衣だ。僕はただ部屋にいただけ。まあ、少し運動したり、彼の寝顔を覗き込んだりはしたけど。

 彼女が内覧に来たのは、前の住人が引っ越してから二週間後だ。

 彼女が部屋に入った瞬間、ぱあっと辺りが明るくなったような気がした。空気が変わる。じわりと温かい。彼女が踏み入れたところから、綺麗になっていく。

 僕が意図しなくても、良くないものが集まってしまう。それは雑霊とも呼べないごくわずかなものだ。元気な人であれば自然に払いのけられるものだけど、彼女はあっという間に消していった。

 存在が強いのだろう。それなのに、不思議と僕に対する圧力はない。死んでから十五年くらいだけど、今までこんな人はいなかった。

 ぜひともこの人に引っ越してきてもらいたいと、僕はめいっぱい歓迎した。不動産屋が窓を開けたらさりげなくそよ風を起こし、柱やドアについている傷は見えにくいように影で覆った。

 彼女はいくつか不動産屋に質問し、一通り見てから出て行った。ここに住むかどうかは話さなかったから僕にはわからない。彼女を観察した限りでは感触は悪くなさそうだったけれど。

 それから、気が気じゃない数日が過ぎた。この部屋に繋がれている僕にはどうなったのか確かめる術がない。

 次に部屋を訪れたのは鍵を付け替えにきた業者だ。ということは、もしかして。僕は期待に胸を躍らせて、さらに数日を過ごした。

 新しい鍵で彼女がドアを開けたとき、僕は思わず大きな音を立ててしまった。どきどきして彼女の反応を見たけれど、特に気づかなかったようだ。

 そのときはそう思った。

 でも、彼女が本当に気づかなかったのか、今はあまり自信がない。

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