第11話

昨晩の白石家での食事は、その後つつがなく終了した。


結局黒糖饅頭は、たらふく食べたということで、自分は遠慮して、家族で食べてくださいと置いてきた。


帰り道は明日の予定なんかも考えて、スキップしたり立ち止まったり、夜中の寒風に吹かれ冷静になって


誰かに見られないかと、挙動不審な男だったに違いない。


家に着いてからは、風呂に入り、遊びに行ったら面白そうな店をピックアップして眠りにつく。




 そしてあっという間の今日である。




「なんか緊張してきた」




そう居間で一人ごちった時間は、朝の八時。


父さんは飲み会で泊っていくとの連絡があり、家の中は独り言が良く響く。




「朝風呂でも浴びるか」




そういって、浴室に向かう。


洗面所の鏡で自分の顔を確認すると、案の定寝癖がついていた。


髪はそんなに長くはしていないが、やはり枕の当たっていた後が残る。


服を脱ぐ前に、浴室のシャワーを出し、お湯が出る状態にしておく。




「おー、寒い寒い」




パパッと服を脱ぐと、シャワーからのお湯で少し暖かくなった浴室に飛び込むように入る。




シャワーを浴びながら、今日の行動の算段を立てる。


渚の家には歩いて10分もかからないので、時間には相当余裕があるな、だとか。


自分が持っている中で、一番キマる服は何だったかな、だとか。


そして昨晩、祠の神の事も調べられないかとネットサーフィンしていると、隣町の図書館はどうやら日曜日も開いているらしい。


渚に話をして、時間があれば寄りたい所だ。


色々考え事をしているうちにシャワーも浴び終わり、髪を乾かして居間に戻る。


時間を潰すためにテレビを見たり、渚に連絡を送ったりしたり。


九時頃に父さんが戻ってきて、一瞬居間に顔を出したが、二日酔いがひどい様ですぐに寝室に籠った。


そわそわしながら時間を潰していると、渚から準備ができたとの連絡が合ったので家を出ることにする。




「行ってきまーす」




一階の寝室から、うめき声の様な返事が聞こえる。


一応、渚と遊んでくることは先程居間に顔を出した際に伝えてある。


そう言ってはやる気持ちを抑えるように、外に出たとたん厳しい海風が吹く。


航のいでたちは、アウターは紺色のコートに中身は灰色のセーター、下は緑色の綿パンである。


荷物はいつもポケットに入る分しか持たず、腕時計は超高耐久のアウトドア仕様の黒いカジュアルな物を着けている。


強い風にセットした髪が崩れていないか少し心配ではあったが、そんなことをしているうちに白石家についてしまう。


一呼吸置き、意を決してインターホンを押すと、中から渚の返事が聞こえすぐに扉が開く。


どうやら、玄関で待っていたようだ。




「おはよう!今日も寒いねー」




そう言って玄関から元気に出てきた渚は薄く化粧をしており、髪はポニーテールに纏め、ベージュのコートに、白色のハイネック、白黒の花の様な模様が入ったロングスカートに、同じく白黒のスニーカー。


全体的に落ち着いたコーディネイトだが、背負っている黒いリュックが少し幼さを醸し出し、渚の雰囲気にはぴったりであった。




「おはよう、ホント凍えるわな」




そこには、今まで見たことのない渚が佇んでおり、緊張で直視できない。




「なんていうか、取り合ず駅向かうか」




「ふふ、そうだね。寒いから駅、向かおっか」




そう言った渚に続いて、横に並んで歩きだす。


さっきは似合ってるねなんかの言葉をかけるべきか迷ったが、気恥ずかしいので誤魔化してしまった。


ドラマの様に上手くいかないなと、自分の経験値不足を痛感する。




「その、普段着だと全然イメージ変わるね。なんていうか、航が大人っぽく見えるよ」




「あ、ありがとう。渚も似合ってる。か、かわいいと思う」




「そ、そうかな?そう言ってもらえるなら、頑張ったかい、あるかな?」




「いや、本当に似合ってる。緊張してたまんないし」




「も鵜!そんなこと言うとこっちも緊張してくるじゃん!」




お互い誉め合ったところで、気恥ずかしくて、目なんてとても合わせられないので、誤魔化すように駅への足取りは早くなる。


それから無言で歩いていると、5分ほどで駅の改札に着き、切符を買いホームで二人並んで電車を待つ。




「そう言えばさ、駅前に図書館あるじゃん。今日もやってるから帰る前に寄ってみないか?」




「あ、そうなの?うんうん、神様の事書いてある本、あるかもしれないしね!」




昨日の食事中、由美子の一言が心に引っかかる。


何故父さんと神様が係わりがあるかもしれないのか、少しでも今日、その手掛かりがあればなと思っていた。


そんなことに思い耽りながら、視線を上げる。




「お、電車来たな」




止まるために減速した四両編成の車両が、ホームに入ってくるのが見える。


それほど速い速度では無いが、その車両が巻き起こす風で、更に体が凍えた。




「あー、寒かった。やっと来たね」




「だな、ほら、先どうぞ」




丁度車両の扉が開いたので、レディーファースト宜しく、渚を先に行かせる。


直ぐに続いて航も乗り込む、車内は休日ということもあり、がらんとしている。




「席開いてるから座ろう?」




そう言って、出入り口に近い席に渚が座る。


隣に座ろうか少し躊躇っていると、ぽんぽんと隣の席を叩き、どうぞと促される。


ありがとうと言いながら隣の席に座ると、渚から香るコロンの甘い匂いに集中してしまう。




「やっと暖かいところ入れた!」




「風も強かったからな。身体冷えてないか?」




「大丈夫だよ。えーなに?今日優しいじゃん?」




そう言って、肘でつついてくる渚の行動にドギマギしつつ、その仕草がなんだか遊び慣れてる様に見え、心にモヤッとしたものがよぎり、いらない言葉を口にしてしまった。




「いつも優しいっての。その、なんだ。結構遊びに行ってるのか?」




「全然、久しぶりだからテンション上がってるの!それも男の子と来るのだって、初めてなんだから」




そう言ってムッとした渚を見て、五秒前の自分を殴りたくなる衝動に駆られるが、慌ててフォローを入れる。




「ごめん!俺もこうやって、女の子と遊びに来るの初めてだっからさ。不安になっちゃって」




「ふーん、そうなんだ。そうなんだ」




何か少し考え込むような顔をしてから、また元の渚の笑顔に戻り、ホッとする。




「ハンバーグ、うまいといいな」




「そうだねー」




そこから隣の街の駅に着くまで、今日これから行く、カフェの話や、昨日見つけた面白そうな店の話なんかもしつつ、電車の中を楽しんだ。


今日の予定を楽しそうに話す渚を見て、隣から伝わってくる心地よい熱で、胸が暖かくなるのをを感じた。




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