第12話
この路線は、隣の街までひたすら海岸線を走る。
降りる駅のホームは少し高台にあり、降りたと同時にそこからは、今まで走ってきた海岸線の名残が見えた。
そうして店に到着したのは十一時半ばだった。
「すごい、開店前なのに並んでるよ」
「言われた通り早く来て良かったな」
目的の店は駅前に有るということだったのだが、十人の程の列が目印になりすぐ見つけることが出来た。
到着から十分ほど待って開店となり、店員に呼ばれ案内された店内はそこそこの広さがあった。
「やっぱ、初めて来るお店って緊張するよね」
向かいに座る、何故か小声で話す渚がおかしくて笑った。
「何で小声何だよ、けどまあ気持ちは分かる。ほら、メニュー」
そう言って卓に置いてあるメニューを開き、二人で顔を覗き込んだ。
近づいたことによりふっとまた、渚から甘い香りが漂う。
しかしまあ、何故女性とはいい匂いがするのか、うらやましいものである。
「やっぱハンバーグでしょ!そしてセットはライスで!」
「だな、まじでうまそうだし。じゃあ俺もライスで」
メニューには色々な商品が、写真付きで載っていたが、やはりお勧めと言うだけあってここのハンバーグは写真からでもレベルの高さが分かる。
この店のハンバーグはセットで、コーンスープ、サラダ、そしてパンかライスかが選べるようになっていた。
二人のメニューも決まり、航が店員を呼び注文を済ませた。
やはりそこそこの人が居たので、少し調理に時間がかかる旨を伝え、店員はキッチンの方に向かってった。
「けどさあ、昨日お母さんも言ってたけど、航のお父さん何で詳しいのかね?」
「本当だよな、一度も父さんからそんな話聞いたこともないんだよな」
「なんか、話せない理由でもあるのかな?」
「んー、どうなんだろう。あの人自分の事全然話さないからなあ」
父さんが自分の事を話さないのは、神様の事だけではないので、特段不思議には感じなかった。
単純に聞かれていないから答えない、その程度の事だと思えた。
「そうなんだ、航のお父さん結構明るいからさ、隠し事するイメージ沸かないなあ」
「結構誤魔化すんだよあの人、話してくれてもいいのになって少し思うけどな」
「あれじゃない?親のプライドかも。やっぱり息子には苦労を見せられないだとか」
「ああ、あるかも。結構母さんが居ないこと、謝ってきたりするし」
航がそう言うと、渚は少しハッとしたような表情を浮かべた。
もしかしたら、あの時のことを思い出したのかもしれない。
「ごめん、不用意だったね」
「いや、こっちこそ。まじで気にしてないから。けどまあ俺は母さんの顔も見たことがないから、寂しいとかもないしな」
「え?そうなの。けど写真もないんだね」
「何でか知らないけどな。けど父さんからは十八になったら話すとは言われてる」
「そうなんだ、けどもうすぐだね。十八歳って」
「そうだよなあ、あと一年ちょっとで卒業だぜ。進路とか決まってる?」
「一応ね、進学しようとは思ってるよ。航は?」
「俺も進学。父さんが大学入って若いうちは遊んどけってうるせーんだ」
「勉強しろじゃないんだね、そういうの航のお父さんっぽいね」
そういう渚はクスクスと笑い、コップの腹を人差し指でなぞる。
「けど、海の神様ってどんな感じの人なんだろうね」
「わざわざ人を助けたりとかするらしいからな。よっぽどのお人好しなんだろうな」
「きっとね。けどすっごい美人さんな気がする!」
「どんな根拠だよ。まあむさくるしいオッサンよりそっちの方がいいな」
その後、適当に店内のインテリアの話なんかの話をしていると、注文したハンバーグが運ばれてきた。
鉄板に乗せられて運ばれてきたハンバーグは、店員が目の前でデミグラスソースをかけてくれ、それが鉄板に落ちて何とも香ばしい匂いが広がった。
服が汚れても嫌なので、一緒に運ばれてきた紙のナプキンをかけ食事を始める。
鉄板の上で、じゅうじゅうと焼ける音が響くハンバーグを切り分けて口に運ぶ。
そして二人で目を合わせておいしいと、舌鼓を打つ。
評判は正しかったようで、流行る理由も納得であった。
二人で黙々と食べ進め、気づけばぺろりと、セットのメニューをたいらげた。
「いやあ、うまかった。ご馳走様でした!」
「ご馳走様でした。ソースが美味しかった!」
「だなあ。あれは家じゃ中々出せない味だ」
「お肉もジューシーで美味しかったし。切ったら肉汁出てくるハンバーグ初めて見たよ!」
「何かファミレスのハンバーグとか食べれなくなりそうだよな」
「同感!何度でも来たくなるなあ」
そう言って二人で食後の一息をつきながら、ハンバーグの美味しさを語った。
ふと外に目をやると、正午ということもあり自分達が並んだ時よりも長い行列が出来ていたので、会計を済ませ二人で店を出た。
お互いに臨時ボーナスが合ったので、今回は割り勘ということにして。
「また来ようぜ。これは癖になる」
「絶対来ようね!このためにお金貯めなきゃ」
やはり学生の身分ではしょっちゅう来るわけにはいかない金額ではあった。
それでもこうやってご飯を話しながら食べて、渚の笑顔が見れるならそんなものどうってことないなと思う。
二人とも満腹で幸せの余韻に浸りつつ、渚からのリクエストである雑貨屋に足を向ける。
こうやって休日に勤しむのであった。
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