Last case
そして①
あのあと、瀬良さんから連絡が入り、祖母が私を相続人として認めないこと、瀬良さんとの二度目の婚約破棄が決定されたと聞いた。
だが、彼は今までの功績から、特別顧問として陽ノ国屋製薬に入社することになったという。
少しあのわがままな祖母の元で働くことになった瀬良さんに申し訳なくなったが、彼はむしろやる気が出ました、と言ってなぜか嬉しそうだった。
そして、大学卒業から二か月。
今現在、私は人生で最も理解に苦しんでいる状況に陥っています。ええ、あの時以上に。
「えっと?」
ええ。
多分私の頭の上にはたくさんの疑問符が浮かび上がっているんだよね。なんて言うんだろう。脳内処理が追い付いていない状態っていう感じ?
つい五分ほど前まではお片づけをしていた気がするのですが、あれれ。
とりあえず、大学を卒業したところから振り返ってみましょう。
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三月の半ばの晴れた日。私は無事に大学を卒業し、鹿野家でのアルバイトも終わりを迎えた。だが、本来ならば円満に終わるはずだったこのアルバイトなのだが、最後の最後に円満退社というわけにはいかなくなってしまった。
その理由はおそらくこの状況を作り出しているので、詳しいことは後ほど話す。
そして、四月。社会人となった私は、しばらくの間、社内マナーやら営業のためのノウハウなどを新入社員の仲間たちと学んだ。
一か月の研修後、正式に営業部として配属されることが決まったのは、ホテルで開催される会社の周年記念パーティーの前座、社員総会での席上だったんだよ。
一応、私は営業部が第一希望だったので、この社員総会が始まる寸前まで、これで総務課とかだったらどうしようか、とかいろいろ悩んだんだが、何とかそこは無事に夢を叶えられたよ。
本当のことは分からないが、周りは将来、開発部に行きたいから、今は営業で実績、積んどきたい、とかなんだかんだ言っていたから、倍率が高かっただろうに。
良かった良かった。
私は無事に営業マンとしての一歩を踏み出せることになった。
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そんな満足感を味わっていたはず、なのに。
なんか壁と目の前の人にサンドイッチされていますねぇ。
――――。
――――――。
もしかして、これって巷で話題の『壁ドン』ってやつですかね、ハイ。
ドラマや映画で見ている分にはキャーキャー騒げるのでしょうし、美男美女だったらかなり絵になったんでしょうが、美女ではない私ではね。
「相変わらず君は警戒心が足りないな」
耳元で囁かれる音は破壊力がすごい。クラっときています。しかも、久しぶりに聞いた声。私はもう二度と聞けないものだと思っていましたから、三割増しぐらいでイイ声ですよ。
私は神様に感謝した。もう一度、あの人の声が聞けるなんて。
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