情報通の愛理
翌日の土曜日以降、バイトに行くときは今まで以上に、戦場に赴くような気分になった。
これで私が悪者扱いされても、仕方ないよなぁというか、された場合には解雇とかありうるわな。
そうなった時にはそうなった時だ。
今からでも新しいバイト探しでもしておくか。
だが、それは杞憂に終わった。
いつも通りに若先生、大先生そして奥様も接してくださった。
もしかしたらまだ、タイミングをつかめてないだけであって、
もちろん、私は内心ではビビりまくっているわけで、名前を呼ばれるだけで震えあがっている有様である。
もちろん、あの時の言葉を後悔はしていない。
実際に、ドタキャン魔たちは復活したのだから。
そんな私とは対照的に、立花さんは日に日に余裕をかましている。
なぜなら、私が忠告したことに気付いて、それを実行できていると思っているからだ。
『どうです? あなたができることなんて私だって余裕でできますよ』
あの日以来、一切私と喋らなくなった彼女だが、時々向ける視線はあたかもそう言っているようだった。
「何かあったの?」
学食でのお昼。例の件でビビりまくっていた私は、大学でも何か言われるんじゃないかと神経をすり減らしていた。
そのせいでどうやら箸が進んでいなかったようで、愛理が心配して聞いてくれた。私は何でもないよ、と答える。
「そう。もし何かあるんなら、いつでも言ってね。言いたくない事だったら、その辺ぼかしてくれていいから。
私のプライベートにまで口を出さない彼女の姿は、非常にありがたい。これだから、彼女と一緒にいるのをやめられないんだろうね。
「そういや、あんたんところの学部、なんだかきな臭いわね?」
愛理の言葉に首を傾げる。
確かに、ゼミ関連の希望調査が近々行われるせいか、専門科目の授業の雰囲気がおかしい事には気づいていたが、あの件とは無関係だろうと思い込んで、あまり気にしないでいた。
「どういうこと?」
私の疑問に、ため息をつきながら答えてくれた。
「どうやら、今年も『ゼミ落とし』をしようとしている連中がいるみたい」
愛理の言葉に嘘でしょ、と唖然としてしまった。
『ゼミ落とし』
自分が第一希望のゼミに配属されたいから、同じゼミに希望を出している仲間以外の同期や、自分を選ぶように教授や事務職員にゴマすりに行くのだ。
さすがに後者は大学全体で禁止されているので、拒否されるが、前者は教授や事務職員がいないところで横行しているのが実情だ。
愛理からの情報では、去年も少なからず泣かされた人がいるという。
「ちなみに、今年は行政法理論ゼミと法政ゼミ、理論立法ゼミが今回、そのやり玉に挙がっているらしいね」
法学部の私よりも詳しい農学部の愛理の言葉に、私は頭の中が真っ白になった。
行政法理論ゼミに一次申し込みをしていたからだ。
一次申し込みの結果は貼り出しされ、誰がどのゼミに申し込んだか、わかるようになっている。
「――――美香?」
私の動きが止まったことに気付いたようだった。そして、運の悪いことに、
「ねえ、由良さん、ちょっといいかしら」
背後から私の名前が呼ばれた。ぎこちなく後ろを振り向くと、同期の女の子が、四人、怖い顔で私を睨んでいた。
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