豆大福と祖母
私は高校生の頃、地元のコンビニでアルバイトをしていた。母の実家に移り住み、高校に通い、休日はお小遣い稼ぎ。今時ありがちな高校生の日常である。
私のアルバイトの勤務時間は、大体5〜8時間程。特に夕方から夜の人員が足りておらず、お昼から夜までをコンビニで過ごしていた。
私の実家の家族構成は、祖父母、母、私、年子の妹。それとネコ。大黒柱である祖父が少々過保護であったので、私は原付の免許は取らせてもらえなかった。アルバイトで遅くなった日は、必ず祖母が車で迎えにきてくれていた。
祖母は真面目な人であったので、必ず私のアルバイトが終わる時間よりも10分早く家を出ていた。
祖母は元々、兼業主婦であったが、母と私達姉妹が実家に移り住んでからというもの、定年を早く切り上げて専業主婦をしていた。祖母は元々働き者でお喋りで、仕事を辞めたくはなかったと言っていた。
それでも、私と妹の為にと好きだった洋裁の仕事を辞める決断わしてくれていたのだ。そんな祖母だから、キッチリと時間に縛られることが好きなようで、私の迎えは苦痛ではなかったと言っていた。
どちらかと言えば家事はあまり好きではないので、私を迎えに行くことで外出する口実になる。それがとても楽しかったと祖母は言う。私は迷惑をかけている気しかしていなかったので、今でも俄かに信じがたいけれど。
私はアルバイトが終わる度毎回、5個入りの豆大福を買って帰っていた。店長は「若いのに渋いもの食べるわね」なんて笑っていたけれど、豆大福は私が食べる為に買っているわけではなかったのだ。
祖母の大好物だから、買っていた。豆大福が売り切れの日は、祖母の好きそうなコッペパンなどを買って帰っていた。私は、豆大福を渡した時の祖母の笑顔が好きであった。
祖母は遠慮しいな性格であったので、自分の食べたい物を言わないし、買わない。祖父が倹約家であったので、あまり贅沢はしていなかった。それを知っていたから、毎度毎度喜んでくれる祖母を見るのが殊更に嬉しかったのだと思う。
私が博多へ進学し、家を出てから祖母は認知症を発症した。原因は理解している。私が家を出たからだ。祖父も母も妹も、あまり口数の多い人間ではない。実家の中で唯一私だけが、祖母のテンションについていける存在なのだ。
私が家を出てからの祖母は、元気のない日が多いと聞いていた。私の存在がそんなに大きなものだとは思っていなかったので、家を出たことを後悔した。今でも後悔に苛まれる時がある。私が地元に進学していたら、祖母は。ありもしないことを考えては、勝手に落ち込んでいる。
祖母は思い出せない記憶がとても多くなってきている。それでも、家族の中で私が一番好きだという気持ちは忘れていないようで、思い出せる範囲の昔話をしようと私の元へやってくる。思い出せないことがいくら多くたって、私が一番祖母の話を聞いていた事実だけは本能でわかるのかと思うと、少し救われたような気がした。
きっといつか私のこともわからなくなってしまうだろう。それでも、私は今の祖母が私の帰りを楽しみにしてくれているのなら、それで良い。私との記憶が思い出せなくったって、昔と違ったって、祖母は祖母である。
もう時期実家で法事があるので、最近ハイハイのスピードが速い娘を連れて帰省する。お土産は豆大福。決して高級ではないけれど、祖母の好きであったあの豆大福を持って。
時が止まればいい 川端月子 @kwbt_tkk
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