美しいかはわからないけれど
高校一年生の夏の終わり
中学生の時それなりに親しくしていた友人が自殺した。
嘘のような本当の話である。
進学した先の高校でいじめに遭っていたらしい、と聞いた。夏休みが終わってしまう事が嫌で、自宅マンションから飛び降りたとも。
私は人の死が怖い。
私との関わりを持った人がいきなり消える事が怖い。故に私はこう言って回る。私を見送る前に死んだら許さないと。これくらいの自己中は許してほしい。言うだけならタダである。
私の夫は、過去に自殺未遂をしたことがあるらしい。らしい、というのは、夫から聞いた話であって、私はその現場を見ているわけではないので、あくまで、らしい、とする。
夫は児童養護施設の出身だ。
夫が当時いた施設は、子どもへの対応があまりよろしくなかったようで、施設の中で自殺者が出れば何かが変わると思ったらしい。そこで夫は自殺未遂を起こしたのだ。
これを聞いて、私が思うことは「たった一人が死んだとて悲しみがあるだけで、世界はなにも変わらない」ということ。
残された人間は今まで通りの生活をせねばなるまい。そこに変化はない。あるのは、一部の人間の悲しみだけ。その悲しみも、時が経てば風化する。
あの夏の終わりの彼女は、なにを思っていたのだろう。夏休みが永遠に終わらない方法を探していて、行き着いた先が転落であったのだろうけれど、その他に考えたことはなかったのだろうか。
中学生の頃、私もいじめに遭っていた。
わかりやすく仲間はずれにされ、悪口を言われた。死ね、とも言われた。一万円を騙し取られたこともあった。
しかし私は意外にも反骨精神の塊であったので、仲間はずれも悪口も気にしないようにしていた。母も、反応すれば喜ぶから無視をしなさいと言っていたし、その通りにしていたのだ。
それでも、心が辛くなるときはある。そういう時は、頭が痛いだのお腹が痛いだの言って学校をサボった。サボりまくった。そうこうしているうちに、いじめの主犯らは私に飽きてターゲットを変えていた。
死にたいと思ったことが全くないわけではない。それを口にしたこともある。しかしよく考えてみれば、こんなことで死ぬには惜しいと、私は思った。やりたいことも、行きたい場所も食べたいものもたくさんあったし、何より、家族や親しい人を悲しませて迷惑をかける勇気は、私にはなかった。
たった一〇数年そこそこの人生で、死にたいほどの辛さなどあるわけがない。そんなちっぽけな人生で何をわかったような気で死にたいなど口にしているのか。そう思った途端、自分自身が幼い子供と変わらない気がして、恥ずかしくなった。実際、精神年齢が幼かったからこそ、辛さからの逃げ=死だなんてくだらない結論に至ったのだけれど。
もし、誰かに一矢報いてやりたくて死を考えている人がどこかにいるのなら、考え直してほしいと私は思う。
人は誰しも忘却の達人だ。
ちっぽけな他人の自殺など、直接その現場を目撃でもしない限り、大して人の心には残らない。時が経てば忘れる。
一矢報いてやりたいのなら、幸せになりなさい。
踏ん反り返って堂々と歩けるほど、幸せになりなさい。
生きているうちは、辛いことも上書きされていくし、楽しいことも然りである。私はあの夏の彼女に、こう思う。
たった一〇数年そこそこの人生で、何を知った?酸いも甘いも、まだまだ知って行く途中に過ぎないのである。冷静に、客観視をすれば良かったのだと。
このようなことを言うと、「私のことわかってないくせに」だの「無責任なこと言わないでよ」だの言われそうであるが、私は他人であるので、他人を完全に理解することは不可能だと思うし、そもそも私に責任を求めるのはちゃんちゃらおかしな話であると思う。
私という人間は、変わっているらしい。
高校を卒業する頃、担任であった教員に言われた言葉だ。何をもって普通というのか私はわからないけれど、教員から見た私は変わり者に見えていたらしいのだ。
もし教員の言う「変わっている」というのが、ここにつらつら並べた御託のことを指すのであれば、変わっているのかもしれない。
辛い死にたいと口にして、幸せになる努力をしないのは、非常にぬるくて楽だ。幸せになる努力というのは疲れる。何かしら自らで動き結果を出さなければならない。幸せとは、他人に与えられるのを待つものではなく、自らで作り上げるものだと、殊更に思う。
私は怠けて怠惰に浸かっている人間が嫌いだ。大嫌いだ。そんな暇があるなら何か生産性のあることをすればいいとさえ思う。
人生は、何かしらの結果が出るものである。
その結果が意に反するものなのか、納得のできるものなのかは、結果が出てみないとわからないが、なんかしらの結果は必ず出るのだ。
早すぎる見切りをつける前に、なんかしらの結果を待ってみても、私は良いと思う。そう思いながら、日々を生きている。
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