雷がもたらした特別 ( 2 )



「天音ってさ、教師とか向いてるんじゃない?」

 ファーストフードでテスト勉強をしている時に、ふと親友が言った。

 「いいかもね」と満更でも無さそうに天音が言うと、「向いてるんじゃない?」と言った本人、天音の親友のひとりである栗山くりやま小夜さやがくすくす笑い出した。

「でもー、星は浪漫! 空も浪漫な天音ちゃんだからなあ」

 教師も向いてそうだけれど、研究者という道も天音には向いてそうだと小夜は思う。ふたり目の親友である、小林こばやし柚葉ゆずはも同じことを思っている。

 地学がしっかりと授業に組まれている学校は少ない。教師となったら、理科全般を教える必要がある。この話になると、ふたりはいつも、目をきらきらさせながら物理の授業をする天音を想像してしまい、可笑しくなる。

「うちに入ってよかった。地学の授業って、ちゃんとしてるところはあまりないって聞いたの。珍しいんでしょ?」

 天音はとなりに座っていた篠崎しのざきこうに尋ねた。天音たち三人と洸は学校が違う。

「そうだね、うちは一応やるらしいよって程度」

「天音! ここ教えて!」

 突然、黙々と問題を解いていた北野きたのしゅんが顔を上げて天音にねだると、彼女は交換条件を出した。

「じゃあ、舜、あたしはここ教えて」

 天音は理数系が得意だ。文系の科目の中で、彼女は社会科のうち歴史があまり得意ではなかった。どんなに努力をしても、テストで一番点数が稼げないのが歴史だった。

 数学を教えてほしいと頼んだ舜に、天音は引っ掛け問題のような歴史の問題を教えてもらおうとしていた。

「ふたりって、苦手なものが結構、真逆だよな」

 可笑しそうに呟いた朝河あさかわ真沙美まさみは名前が女の子ぽいが、れっきとした男子だ。

 女子三人は共学の学校で、男子三人は男子校に通っている。どちらも県内屈指の進学校であり、全員共、成績はそれなりに上位を占めている。

 同じ教科書も多いが、中には出版元が違い、そうすると同じ内容でも使われている表現が異なる為、教科書をシェアして勉強することがある。舜と天音がわからないと言っ箇所は、結局、教科書の交換で済んでしまった。

「天音ー、ここの文法、間違ってる」

 天音と舜が教科書と睨めっこしている間に、広げっぱなしだった天音のノートを真沙美が覗き込んでいた。

「え?!  ほんとだ! 絶対にここ、記述で出る。ありがとう、真沙美」

 このメンバーで勉強会をすると、何故かいつも天音は忙しい。

 6人の出会いは合コン。あと数人の面子がいたが、恋愛抜きにこのメンバーで仲良くなった、不思議な縁である。

 全員が借り出された口であり、それなりに容姿が整っている彼女らは普段から人の目を惹く。集まっていれば尚更である。どちらの学校も有名だから、制服が目立つ。その上、賑やかに勉強道具を広げていれば、目に留めて行く人も多い。

 そろそろ疲れた、勉強はお開きにしようとまちまちに言い始めた。

「さてお前ら、この中間の後、なにが待っているか覚えてるか?」

 楽しそうな笑みを浮かべた真沙美が言った。

「ぎゃー、模試だわー!」

 小夜は心底嫌そうだ。

 嫌そうに言う理由は、ひとつ。

 学内のテストでは問題が違うため、競争が出来ない代わりに、模試の際に勝負をし、一番順位が下の者には面白い罰ゲームが待っているのだ。実際はどんぐりの背比べなので、誰がびりっけつになるか毎回わからない。トータルした結果、全員が同じ順位だったことがあり、その時は罰ゲームは流された。

 小夜が誰よりも多く罰ゲームをくらっている。

「やる気が湧くわー。中間テストなんかよりも」

 負けず嫌いな天音も、真沙美と同様に楽しそうだ。彼女は罰ゲームをしたことが今のところない。

 じとーとみんなの視線が天音に集まる。

「天音ちゃんはね、時々計算してるのかと思うよ」

 洸がそんな冗談を言った。

 その後、学校の男子が子供じみた馬鹿なことを言っていたとか、男子勢が合コンに行ったらめちゃくちゃ可愛い女子が居たとか、取り留めもない話をして、帰路に着いた。



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