雷がもたらした特別 ( 1 )



 駿河するが天音あまねという少女はなにをしていても端麗たんれいに人の目にえる。

 生きることに柔軟で知ることに従順な彼女は、その内側に、目に見える全てのことに興味を持つ性質を持っていた。世界は鮮やかだと言わんばかりに生きる彼女の姿は、人の目に華麗かれいな印象を与える。

 知らない感情に触れるたびに心をときめかせるものの、時々よくわからない感覚にさいなまれる。その知らない感覚はいつまでも正体がわからないままで、彼女を無性に不安にさせた。勝気な彼女は、そんな自分を他人にさらすことを恐れる。

 天音は、他人がどんな世界を見つめて生きているのか、興味にて止まない。

 彼女に出会う者はそんな彼女に惹かれて、彼女への興味が尽きない。そういう魅力を天音は持っている。

 単純だったり複雑だったりする彼女の言動には爛漫らんまんさが満ちている。

 自分と他人はどんなに似ていても違う。だから人は興味深い。

 どうしてそんな風に自分が感じるのかを彼女は知らなければ、考えたこともない。それは考えたところで、知ることは出来ないだろう。しかし、思い出してほしいと願って彼女を待っている者は何処どこかにいた。

 天音は高校一年の春から一人暮らしを始めるまで、母と二人きりで暮らして来た。母と二人きりであること、家のどこにもそれ以外の家族の痕跡こんせきがないことを疑問に思ったことがないくらい、母の花純かすみはとにかく良く出来た親だった。

 天音は父親の顔も名前も知らなければ、生きているのか死んでいるのかさえ知らない。

 小学生の頃に一応聞いてみたことがあるが、花純は高笑いで「小さいことを気にしていたら大成たいせい出来ないわ!」と「そんなことは些細ささいなことで気にする必要のないこと」だと言った。存外ぞんがいにあたしのお腹から生まれて来れたという事実だけじゃ満足できないのかと言われているようで、天音はそれ以降、自分の父親というのが結局どうでも良くなった。

「お父さんが欲しいの? 考えておいてあげる」

 いつだかそう言った花純は、天音が高校生になる年に、彼女の全く知らない男性と結婚し、海外へと行ってしまった。

 天音は母らしいなと感じ、その時はまだ会うことが叶わなかった新しい家族との出会いに心を躍らせた。

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