第77話 スリルを求めて


「あっははは……楽しいな、同じクラスメイトが生きるのに必死な姿って」


 口笛を吹いてご機嫌そうに見上げている女の子。

 彼女は高台から優を面白そうに観察している。

 倒しても、キメラの数は減らない。

 一方で優も無限に湧き出てくるキメラに対応出来なくなっていく。


「もう何体倒した?」

『30体は越えたな』

「普通の奴だったらもう死んでるな」

『だろうな、でもお前は生きている』

「そうだな、まだだけど」


 しかし、優のやせ我慢も限界を迎えていた。

 倒してもキリがない現状。

 一度深呼吸をして場を整える。様々な可能性について考察する。


(……動きが一定じゃなくて不規則、いつもは単独で襲ってくるキメラ、やっぱりおかしい)


 動きが止まる優を見て、女の子はケラケラと笑う。


「あれ? もう諦めちゃった? 面白くない―もっと楽しませてよ」


 その子にとって、この戦場となったニール村も一つの遊び場。

 もっと物事が荒れてくれた方が好都合である。

 しかし、優の動きを見て戦意を喪失した。と、勘違いしたのだろう。


「……そこか」

「え?」


 優は向かってくるキメラを無視して高台へと駆け上る。

 その存在に気が付いたのは、エンドの反応。

 シュバルツと連携して辺りのエンドを調べていた。

 もちろんそれは女の子は気が付かない。

 スパイダーを駆使して、器用に標的の元へと向かって行く。


 すぐに勝負を決めようと短剣を振るう。

 だが、直前で交わされ優はすぐに後退する。


「あらら、バレちゃった」

「隠密にやるならもう少し上手くやらないと」

「別に隠すつもりはなかったんだけどな」

「……お前は確か」


 優は彼女に見覚えがあった。

 というか、過去に一緒に過ごした仲間。


「思い出した? そうそう、『前島美姫(まえじまみき)』……覚えてるかな?」

「あぁ、前島か」

「あれれ? その反応は薄くない? もっと、ほら驚くとかないの?」


 前島美姫。このワールドエンドになっても相変わらずだ。

 明るい性格で気さくだから友達は多かった。

 だから、敵を作らず誰とでも仲良くしていた印象があった。

 髪を染めてピンク色となっている。優も人の事は言えないが。


 しかし、正反対な性格だったから交流の機会はあまりなかった。


「偉く余裕だな? それにしても、こんな所で何をしているんだ? 目的もなく危ない場所で遊んでる訳じゃないだろ」

「うーん? 暇つぶし? ほら、そっちこそ私と話してて大丈夫? あの化け物が迫っているよ」


 前島が指を差した方向。そこからキメラがさらに発生していた。

 まるで操られているみたいに。

 これもエンド能力だと優は察する。

 それにしても、前島は優と違って余裕がある。

 緊迫感がある場面なのに楽しんでいる。


 優はエンド能力を発動させる。


「まぁいいよ! すぐに片付ける!」


 瞬間加速【アクセル】を発動させる。

 一気に距離を詰める。この速さなら反応が出来るはずがない。


「……!?」

「丸見えだよ」


 首元を狙ったはずなのに。直前で掠りもせずに避けられる。

 体を捻って前島はとても上手く回避する。

 優も最高速度で前島に攻撃したのにも関わらずだ。

 ただ、前島は追撃はしてこない。それどころか、優の力を間近にして笑っている。


「どういうことだ? 攻撃が当たらない」

「やっぱり凄いよ! 晴木からは聞いていたけど、こんなになんて思わなかった!」

「晴木……やっぱりそうか」


 その名前を聞いて再び憎悪が湧いてくる。

 楓と同じく優にとって復讐を果たさなければならない相手。

 体勢を整えて短剣を前島に向ける。


 しかし、前島は視線を横に逸らしながら両手を後ろに引く。


「私さ、自分で言うのも何だけどヤバイ奴なんだよねぇ」

「……は?」

「だって、この死ぬか生きるかの状況……楽しくて仕方がないよ!」

「何を言ってるか分からないな」

「何もない平和な世界なんてつまらない! スリル、そう! それが大事なのよ」


(ふざけてるのか? お前らによって本当に生きたい人は苦しんで死んでいるのに……やっぱり殺すしかないか)


 今まで最悪の人間を見てきた優。

 前島も元クラスメイトだが殺すことに戸惑いはない。

 寧ろ、今後の厄介な敵となってしまう。

 それだったらここで始末しておくのが……いや、しておかなければ。


「笹森が生贄に捧げられた時も、今後もこういう風に選ばれていくスリル……それがあると思ったのに、最近はないの」

「だからってそれはおかしいだろ」

「そう、おかしい! でも、それが堪らないの……だから、みんな小説とかアニメとかを見るんじゃないのかな?」


(くそ! キメラが迫ってるな……どうする? この状況)


 優は横目でキメラの動きを確認しながら、前島の行動に注意する。

 エンド能力も未知数で何をしてくるか分からない。

 言動と考え方から危険だという理解が出来る。


「現実の世界なんて面白くなくて、刺激が足りなかったの……でも、この世界は違う! 化け物がいてそれを操れるんだから! こんなに面白くて最高なことなんてないよ!」

「うぅ、シュバルツ……キメラの反応は?」

『不味いな、四方八方から迫って来ているな』


 前島は興奮気味でそれと同調するようにキメラも活発になる。

 優一人ではどうにも出来ない状況。

 建物が壊れ、村の人も襲われている。

 仕方なく、優はあのエンド能力を使用しようとする。


(どうなるか、分からないけど)


 だが、その時。それはまるで光のように現れる。


「やはり付いて来て正解だったな……遅れて済まない」


 現れた騎士は一瞬にしてキメラを殲滅していった。

 それは戦場に参戦した騎士だった。

 しかし、前島は混沌とするこの状況にも動じなかった。

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