第65話 対決


 激化する戦闘。優と出水は黒川と対峙し、全く隙を見せない。

 そもそも、あまり出水と優はお互いの手の内を知っているようで知らなかった。

 マルセール襲撃の後の一か月間。結成されたブレイブの組織内では、互いの溝を少しでも減らそうと。

 努力をしていたつもりだった。だが、想像以上にクラスメイト同士の溝は深かった。


「……つ!」


「ぐぉ!」


 優の太刀筋は簡単に見破られ、出水は黒川の蹴りによって吹き飛ばされる。

 腹部をえぐられるように。出水は、付近の岩に衝突する。それぐらいにパワーも桁違いだった。

 砂煙が立ち込める中。黒川は、黒剣を地面に突き刺し、二人を挑発する。


「そんなものか? まぁ、俺にしてみれば、お前らなんて大したことねえか!」


「……ふぅ、結構やるな」


『落ち着け、敵はお前の攻撃パターンを見極めて、確実に処理している! 見た目と発言は豪快だが、意外にも分析派みたいだ』


「あぁ、それにこっちの連携の粗さもあるし、まずいな」


 それに、優には気がかりな事があった。

 先程から、沼田と園田の姿が見当たらない。

 デンノットを通じての応答もない。

 優は、軽く深呼吸をして危険な状態だと判断する。

 ただ、遠距離攻撃は止まった。ここがチャンスなのは間違いない。


 優は、短剣を持ち直す。


(このまま長期戦になってもこっちが不利、一気に決めたい)


 先手必勝。優は、エンド能力を発動させながら、黒川との間合いを詰める。


「強化【シファイ】」


 青白い光が優の短剣を包み込む。

 エンド量もまだ余力はある。まだまだ勝ち筋は幾らでも残っている。

 だが、黒川は高らかに笑いながら優を見下している。


「笑えるな、無駄な事をしている奴を見るのは」


「……? どうしてそう思う?」


「お前の運命はもう決まってるっことさ、そもそも盾突く相手が悪かったな」


 黒川は、現状を優達に突きつける。

 自分達が相手にしているのは、この世界でもかなりの力を持つラグナロ。

 そして、そこには化け物揃いの敵がたくさんいる。


 ――――この黒川哲治も例外ではない。


「俺達がいた世界の能力がこのままここに反映されるとしたら……お前じゃ俺には勝てないよな?」


「……」


「しかし、今は違うみたいだけどな、それもたまたま手に入れた力だと思うが、お前のしぶとさにはうざさを通り越して感心するぜ」


『耳を傾けるな、今は敵の動きを見極めろ』


 明らかに黒川は煽っている。それは優にもシュバルツにも理解が出来る。

 相手は、確かに現実世界じゃ敵わない相手。

 バスケ部のエース。顔立ちも整っていて異性にもモテる。

 クラスの中でも上位の位置に属している。


 悔しいが、優は認めざる得ない。ただ、今は場所も状況も違う。


 この、【殺し合い】に至ってはルールは無用。


 優は、目付きを鋭くして黒川に視線を移す。



「うざいか、それはこっちの台詞だよ」


「あぁ? お前……何言ってんだ?」


「散々邪魔をしているのに、俺一人も止められてないじゃないか、俺を生贄にして力を得たのに……その武器の源も元を辿れば俺のエンドだろ?」


「はは、なるほどな、けどな……使い物にならない奴を有効活用して何が悪い? みんなやっていることだろ? 何も今回だけのケースじゃない」


 黒川は黒剣を優に突きつける。


「お前は俺達が強くなる為に喰われただけだ、惨めに生き残ってんじゃねえぞ」


 優は表情を険しくする。力がなかった。だからこそ、得たもの以上に失ったものが多い。

 様々な事を思い出しても戻ってこない。


 大事な幼馴染である楓ももしかしたら……。


「じゃあ、今度はてめぇが喰われる番だ」


 黒川と優から少し離れた位置で。立ち上がりながら、出水は二本の剣を引き抜き、エンド能力を発動させる。

 付近の岩が斬られ、風の刃が黒川を襲う。

 先程までは、片方り剣だけだった。しかし、黒川の発言で痺れを切らしたのか。

 エンドの節約を無視して、出水は二刀流の状態で構える。


 ――――しかし、出水の全力の攻撃も黒川に上手く避けられる。


 いや、それでも左肩に軽傷を負わせることが出来た。


「ちぃ、出水……」


「流石にこれは完全に交わせないか」


「お前が何でそっち側にいるんだ? 辛いだけだろ?」


「これは俺が決めたことだからな……口は出すなよ、この変態バスケ部のエース」


「……てめぇ、本気で殺されたいのか?」


 殺気を出水に向ける。優はいきなり何を言い出すのかと困惑していた。

 だが、出水は微笑みながら、優を横目で見ながら話し始める。


「こいつは、バスケ部の後輩とか同級生とか見境なく手を出す、屑野郎だ! 恐らくだけど、一緒に来ている南雲と神田もその一員だろ?」


「おいおい? 人聞きの悪い事を言うなよ? そもそも、こんな事ここで言うべきことじゃないだろ? 仮に間違っていたらその二人に失礼だろ……だから、お前はモテないんだよ」


 出水はデンノットを通じて、沼田と園田にもこの情報が届くようにしている。

 目的は錯乱。もし、南雲と神田にも情報が伝われば、かなりの動揺するだろう。

 狡猾な出水のやり方に優は意外そうな表情をしていた。

 だが、黒川の発言に出水は剣を構えながらこう返した。


「お前と比べたらモテないだろうな……俺さ、馬鹿なんだよ」


「……は?」


「馬鹿でお前達と一緒にいた方が絶対に楽出来ると思うんだよなぁ、傍から見れば馬鹿な選択をしてる思う」


 自分ではそう言っているが、出水は根っからの馬鹿ではない。

 頭の回転も速いし、何度も戦闘ではそのセンスで乗り越えてきた。

 しかし、判断や考え方が幼いと思われがちだった。


 ――出水にとっていつまでも仲間と切磋琢磨しながら遊びたい。


 そんな上も下もない関係を築きたい。だから、優を生贄にした事をとても悔やんでいた。


 しかし、ぬるま湯から脱したこの選択は出水をもっと強くしたと思う。


 力強い瞳で出水はいつになく真剣な表情で黒川を睨み付ける。


「けど、後悔はしてない……まずは、お前に蹴られた分を取り返してやるぜ!」


 地面を蹴りながら。出水は最高の初速で黒川に近付いていく。

 一本の剣を振り下ろしながら、片方の剣で追撃していく。

 黒川の黒剣は大剣でサイズが大きい。

 状況によっては盾にも扱える。


「甘いな」


「……やっぱりこれは防がれるか、なら」


 出水は空中に飛び上がり、黒川と再び間合いを取る。

 剣先を突き付けながら、自身のエンド能力を発動させる。


「衝撃派【ソニック】!」


 剣を交差させながら。出水は、斬撃という名の風の刃を黒川に向ける。

 一本から二本同時にエンドを出力させた結果。


「ちぃ!」


「まだまだ終わらねぇよ!」


 あまりの衝撃に足場の地面にも亀裂が入る。

 着地した後。出水は、すかさず攻撃を間髪なく加える。

 致命傷は防いだが、黒川の左腕からは多量の血が流れている。

 痛みで判断が遅れたのか。黒川は先程までの勢いがなくなる。


 左側から攻めていき、隙を少しでも見逃さないようにする。


 集中力を高めて出水は渾身の一撃をお見舞いする。


「うおりゃ!」


 体制が崩されている今。あの黒剣によるガードは出来ない。

 勝算はある。そう、確信して出水は剣を振りかざした。


「少しはやるじゃねえか、けどな」


「……! ぐぁぁぁぁ!」


 剣を黒川に当たる直前。

 急に出水は体全体に激痛が走った。

 持っている剣を地面に落とし、体ごと地面に倒れてしまう。


 異変に気が付き、優は駆け寄ろうとする。

 だが、シュバルツが即座に止める。


『待て! 奴の能力は……』


 しばらくすると、出水は痛むのをやめて正常に戻る。

 何が起こったのか分からず悶絶していたが、出水はすぐに大体の力を把握する。


(体が締め付けられるような感覚だった……何なんだこれ)


 あまりの痛みの緩急に出水は唖然とする。

 しかし、黒川は不敵な笑みを浮かべながら再び余裕を見せる。


「勝ったと思ったか? なぁ?」


「なるほど、大体分かったぜ……てめぇの能力」


「正直のところ、お前は強いし失うのは勿体無い、どうせなら無理やり説得してでもこっちに引き入れたいが……敵対するなら仕方ねえよな」


 出水は頭の中で整理していた。

 至近距離になった瞬間。自分の体に激痛が襲う。

 さらに何やら服には細かい黒い粉が付着していた。

 どうやら、これが黒川の能力の秘密。


 そして、次の瞬間。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!」


「……出水!」


「てめぇ達は俺がここで殺してやるよ、俺の……自慢のエンド能力で」


 腕が飛び散った。出水はその場に崩れ落ち、自ら流した血の水溜りに倒れ込んだ。

 幸いと言っていいのか。片腕の左腕だけで済んだが、完全に左腕は消滅してしまった。

 優は思わず叫んでしまって、やってしまったと後悔する。

 だが、なんとか平静を保ち冷静に相手を分析する。


「次はお前だ、笹森君?」


「……見た目と反して随分と嫌らしい能力だな」


「あぁ! お前も気付いたのか……けど、遅かったな! お前もすぐに終わりだ、また惨めにあの時みたいに腕を失うか? きゃははははは!」


「さ、ささもり、き、きをつけろ」


「こいつ……絶対に殺してやる」


 久しぶりに優はこんなにも怒りの爆発を感じただろう。

 出水の仇。そして、内に秘めていた復讐を再び始動した。

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