第8話 あたしはバイセクシャル
看護師をするようになってから、三年目。ここの精神科は開放病棟と閉鎖病棟の二種類がある。あたしは外来担当。主に患者の採血をしたり、診察室に誘導するのが仕事。
あたしは三浦加奈っていうの。バイセクシャル。今、あたしは二十四歳でふたつ年上の彼女がいる。ちなみに彼氏も募集している。彼氏は職場の人間にはいえないけれど患者でも構わないと思っている。
最近通院するようになった山宮剛輝という患者がいるんだけど、すごく優しそう。彼女はいるのかな。今度密かに電話番号を調べて連絡してみようかな。職場にバレないように細心の注意を払って。明日は金曜日。多分、患者の数は多くはないだろうから実行に移そう。さすがに今日は忙しいから無理がある。
あたしがバイセクシャルに気付いたのは高校一年生の時。
当時、付き合っていた大好きな彼氏がいたけれど、それと同時期に自分と同じ女子が気になりだした。どうしてだろう? と、疑問に思っていた。ネットで調べたら『バイセクシャル』と書いてあり、そこで初めて自分の性について知った。
ちなみに、あたしと付き合っている彼女はレズ。
報われない関係とお互い自覚してはいるものの、好きという気持ちに歯止めがかからない。
レズの彼女はあたしが彼氏を探していることは知らない。もし、バレたらただじゃすまないと思う。あたしとレズの彼女の横浜千奈津(よこはまちなつ)は、付き合い始めて約一カ月。今が一番楽しい時期だと思うのだけれど、彼氏も欲しいと思っている。ちなみに、千奈津と知り合ったのは、彼女が看護学校の研修にあたしの勤務する病院に来たのがきっかけ。
翌日の金曜日。あたしはいつもより早めに出勤して、山宮剛輝のカルテを見て電話番号の部分をメモした。そして、周りを見て誰もいないのを確認すると素早く元あった場所にカルテを戻した。それから女子更衣室に行きバッグにメモした紙をしまい、白衣に着替えた。
午後六時に勤務を終え、そこから振り返りを行って自宅に着いたのは六時半過ぎ。日勤はいつもこれくらいの時間帯に帰宅する。
山宮剛輝に電話をかけようとバッグからメモを取り出した。どんな男性なのだろう。優しいといいな。
五、六回呼び出し音を鳴らして、繋がった。
「もしもし、山宮ですけど」
『こんばんは。あたし、あなたが通っている病院の看護師をしている三浦加奈っていいます。突然、お電話してすみません』
「はあ。名前を言われてもわかりませんが」
あっ、と思った。見た目を言わないと。
『すみません。外見を言いますね。眼鏡をかけて細身の水色の白衣を着ています。今日、山宮さんを呼んだの覚えてませんか?』
「ああ、思い出しました。さきほどはどうも。どうしたんですか?」
どうしたんですか? と訊かれるのがちょっと気まずい。いきなり、遊びませんか? とは言えないし。でも、この際だから言ってみようかな。
『山宮さんはいつ時間空きますか?』
「え? どんな用ですか?」
『……実は、正直に言うと山宮さんと遊びたくて……』
相手は無言になった。まずい……!
「いいですよ。いつですか?」
お! これは脈あり!
『できれば土日がいいのですが、どうですか?』
また、無言。なぜ?
「土曜日でいいですよ」
『じゃあ、明日の土曜日はどうですか?』
「わかりました」
山宮さんは消極的なのかな? あまり、自分から言ってこない気がするけど。
『何時にしますか? 待ち合わせの時間は』
「午後からはどうです? 1時からとか」
お、自分から発言した。言えるんだ。
『いいですね。じゃあ、待ち合わせ場所は?』
「スーパーにしますか? 一番大きな」
『そうしますか』
では、明日、と言って電話を切った。山宮さんは本当に来てくれるだろうか。来てくれることを信じて待とう。
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