第6話 病名
僕の具合いは悪くなる一方だった。食欲もあまりないし、幻聴も聞こえる。
堪りかねたので病院に行く決意をした。
事前に病院代を母からもらっていたので、それが財布の中にあることを確認してから居間にいる母に声を掛けた。
「母さん、病院に行ってくるから」
「あ、うん。気をつけてね」
と、心配をかけてしまったなと思った。 居間を出て、玄関から外に行き母の車を借りて地元の病院へ向かった。
病院嫌だなー、と思いつつ向かった。着いた先の病院は白い壁の二階建てだ。駐車場には業者や患者の車なのかびっしりと並んでいた。全部で三十台はあるかもしれない。初めて来た所なので、よく分からない。それはそうだ。今まで精神病にかかったことがないから。なので、少し不安。
僕は端の方に車を停めて病院の玄関に向かって歩いた。空はどんよりとした薄曇り。だから、気分も憂鬱。
院内に入り、周りを見渡してからまずは受付に向かった。
そこの若い職員に話しかけた。
「こ、こんにちは。初めてかかるんですけど……」
どもってしまったけれど、笑顔で応対してくれ、
「初診ですね」
と、言い、カウンターの下からクリップボードと紙を出して渡された。
「ここに記入お願いできますか?」
「は、はい。わかりました」
カウンターの上で書こうとすると、
「あ、すみません、席に座ってお願いできますか。他の患者さんもきますので」
「すみません」
僕はゆっくりと空いている席を探してカウンターから一番遠い席に座った。
はー、面倒くさいなぁ、と溜息をついた。仕方ないから記入するか。その紙には氏名、住所、生年月日、年齢、主な症状、病歴などを書かなくてはならない。嫌々書いたからか字が汚い。まあ、いいか。投げやりになっているのは自覚している。
疑問に思うことがある。それは、精神薬は市販で売っていないのか? ということ。ドラッグストアに行っても睡眠薬は見たことはあるけれど、安定剤というのか、そういうのは見たことはない。取り寄せ出来ないのかな。気になり出したら止まらない性分なので、事務の職員に訊いてみることにした。
「あのう、すみません」
「はい?」
「精神科の薬って市販で売ってますか?」
その職員は表情が豹変した。
「あの……山宮さん、まず問診票に記入してくれましたか?」
「はい。書きました」
「では、問診票もらえますか?」
「はい」
と、言いながら渡した。職員は、まっすぐこちらを見て、
「山宮さん。先程の質問ですが、先生にかかりますよね?」
「はい、そのつもりです」
「……」
職員は何となく呆れているように見えるのは気のせいだろうか。
「市販で精神薬は売ってませんよ。あるのは睡眠薬ぐらいです」
僕は職員のはっきりとした口調にハッとした。そうなのか。まずいこと訊いたか。
「すみません……。訊いてはいけなかったですよね。こういう病院はかかったことなかったので……」
「いえ、そういう患者さんはいらっしゃらなかったもので。こちらこそすみません」
苦笑いを浮かべていた。こういう病院もあるんだ、と思った。
「あと、どれくらい待ちますか? 結構具合い悪くて辛いです……」
「そうですねぇ、初診なのでもうしばらくかかりますね」
「……わかりました……」
元気がないのに、そう聞いてさらに落ち込んでもと座っていた席にもどった。
--約二時間後。
ようやく、「山宮さーん」と、呼ばれた。怠い体でゆっくりと立ち上がり、診察室の前まで歩いたところで看護師に、「ここの長椅子で待っていてくださいね」と言った。正直、待ち疲れで余計症状が悪化している気がする。まだ、待つんだ。もう、帰りたい。でも、せっかくここまで待ったから医者に診てもらおう。それから十五分ほど待ってから、診察室のドアが横にガラリと開き、「山宮さん、どうぞ」と促され入った。
三十分くらい問診を受け病名は、『統合失調症』という名前らしい。初めて聞く病名だ。それとも僕が知らないだけなのか。とりあえず三日分薬を処方された。
薬を薬局でもらったあと、僕は少し安心していた。なぜなら、病名がはっきりわかったから。これから病気がよくなったらどんな仕事をしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます