【3】真犯人

「おう!水乃。やっと来たか」


「樹里さん、なぜ来た!!!」


 目の前では、思いがけない人物が笑いかけていた。その人物は………


「おか…ざき…先生…」


 名前を呼ぶと、クラス担任の岡崎は、普段昼間には見せないほど不気味な笑顔を作り、こちらに話しかけてくる。


「風早と話していたところだ♪水乃、お前までこんな夜中に、こんな場所で何しているんだ?」


「樹里さん!まだ間に合う!早くここから逃げろ」


 蒼…夢喰さんが叫んでいる。逃げろと言ってくれている。でも…ここで引き下がるわけにはいかない。


ーーーーー238ーーーーー


 突如、岡崎が動きを止め、高らかに笑いだす。それから気が触れたように目を見開くと、大袈裟な身振り手振りで話し出す。


「もう今更騙しても仕方ないよな。そうだよ、私がお前をずっと狙ってたんだよ。そう、1年も前からね」


「樹里…お願いだ…俺は大丈夫だから、逃げてくれ…」


 この上なく悲痛な表情をしている蒼と、唸るように威嚇している黒猫を交互に見る。どちらも、その場から一切動けないようだ。


「とは言っても、水乃だって死ぬ前に理由は知りたいよな?説明すると長くなるけど、最後だと思ってしっかり聞いてくれな」


『ジュリ…ごめん…オレは動けそうにない』


「ルゥ…」


「ん?誰と喋ってんのかな?ちゃんとこっちの話聞いてる?聞かないと教えてあげないよ」


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「ちゃんと聞いてます。早く説明してください。そして、蒼には手を出さないで」


「はっ!お前、相変わらず生意気だな。まあ、いいや。私はね、お前をずっと昔から監視してたんだよ、あるお方に依頼されてね」


「ある…お方?」


「そう。お前も良く知ってるはずなんだけど、きっと忘れてるんだね。それで、ずっと小さい時から見張ってた。でも、お前が全然本性出さないからさあ…1年前にな…」


 勿体つけるように岡崎は天を仰ぐと、意外な名前を口にする。


「お前の飼い猫…プラム…だっけか?私が始末してやったんだよ」


「!!!プラム!?」


「というか、事故なんだがね。お前が寝てる寝室に火をつけようとしたら、あの猫に邪魔されてね。仕方なかったんだよ…動物には罪はないから殺す気なんてなかったのに」


ーーーーー240ーーーーー


「…な…に…?」


「お!いいね!やっと怒ってきたみたいで♪お前の猫な、霊になってまでお前を守ってたんだぜ?すげえ霊力で、3日前までお前に近づけやしなかった」


「…許せない…何でそんなひどいことを!返してよ、あの子を!」


 血管がぶちぶちと切れるような音を聞き、少女は無意識のうちに岡崎に飛びかかる。しかし、呆気なく避けられ、挙句に羽交い締めにされてしまう。


「甘いねえ。そんなんじゃ私には太刀打ちできないよ。もっと本気出さないと」


 岡崎はそう言うと、動けなくなってる蒼に向かって、どこから手に入れたか分からないような拳銃を発砲する。



 蒼はすんでのところで弾道を避けるが、岡崎には一切近づかず、反撃を躊躇っているようだ。


『夢喰様!やめてください!お願いですから』


 蒼は深呼吸をすると、以前凪に放った時のように、掌から紅蓮の炎を激らせ始める。それを遠くから黒猫が必死で止めようと叫んでいる。


「風早…夢喰だっけ?お前は黙って見てた方がいいぞ。だってなあ…」


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『夢喰様は “制約” により、憑依されていないただの “人間” を殺害すれば消滅してしまうんですよ!?』










ーーーーー242ーーーーー


ドクン…








 樹里の全身が心臓になったように脈打つ。



 それから、血液…体液…体の中にある水分全てが沸騰したように沸き立つ。



 怒りに揺り起こされ、内側から何か来る………








 次第に大きくなる拍動を受け、次の瞬間、少女はまったくの別の生き物になっていた。


ーーーーー243ーーーーー

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