【2】少女救出
ガチャガチャ
パタパタパタ……
樹里は音と振動に揺り起こされ、暗闇の中跳ね起きた。ベッドの脇を見ると、時計は 21:30 を指している。
不意に激しい喉の渇きを覚え、樹里は急いで冷蔵庫に駆け寄る。中から適当な2Lのペットボトルを取り出すと、そのまま口をつけて一気に飲み干す。
ふぅ…
喉がすっかり潤い安心した樹里は、部屋のどこかにいるであろう黒い相棒を探す。すると相棒はすぐに見つかった。ルゥはいつの間にか猫型に戻っており、郵便受けに顔を突っ込んだ状態でもがいていた。樹里は口元を押さえつつ、左右によく動く黒いお尻に向かって話し掛ける。
「ルゥ、何やってんの?」
『廊下が騒がしいと思って潜ったら、抜けねぇーーー!』
思わず吹き出しそうになるのを必死にこらえながら、樹里は言った。
「ルゥ……通り抜ければ?」
『あ、そでした』
とぼけた黒猫は、そのままドアの向こうへ吸い込まれていく。その直後…
ガチャガチャ
今度はさっきよりもはっきりと鍵を閉める音が聞こえた。樹里は取手に飛びつくと、勢いよくドアを開ける。
バァァァン!
「いってぇ!」
『あ~あ』
おでこを押さえてうずくまっている少年と、その横でけらけらと笑っている黒猫がいた。
ーーーーー169ーーーーー
「あわっ!蒼ごめーん!大丈夫?」
「樹里チャン…もうちょっと優しく開けようよ」
樹里は蒼の元に駆け寄り、おでこをさする。しばらく痛がっていた蒼だが、何かを思い出したかのように突然立ち上がると、すごい形相でまくし立てる。
「やばい!そんな場合じゃなかった。翠淋がどこにもいないんだよ。あいつ、ずっと様子がおかしかったんだ。実家には帰りたくないって言うし、俺ともお袋とも話したくないって部屋に閉じ籠もったっきり音沙汰なくてさ。なのに、俺が風呂に入ってるうちにどこかへ出かけたらしい。それだけならまだいいんだけど…服も部屋着だし、靴履いてないんだよ!」
「えぇっ!?それはやばい!すぐに探しに行かないと」
「あぁ…でも携帯も置いてってるし、行きそうな所が分かん―」
「大丈夫!思い当たる場所がある。たぶん見つけられるよ!…ね?」
樹里は困惑気味の少年の肩にちょこんと乗った黒猫に向かって、目配せをした。
『ああ。任せとけ!オレについて来い!』
樹里は蒼の手を掴むとぐいっと引っ張るが、引き戻されてしまう。ルゥも呆気にとられて茫然と見ている。少年は顔を赤らめて咳払いをすると、樹里を指差して言う。
「その格好はマズくない?俺は…まぁ嬉しいけど」
…ん?樹里は首を傾げながら自分の格好を確認する。いつも通りの部屋着……短パンにキャミソールだけであった…。
「もっと早く言ってよ!」
ーーーーー170ーーーーー
樹里は右手が怪我で上がらないので、簡単なパーカーだけ羽織って家を出た。
「お待たせ!急ごう」
「おぅ。行き先は分かる?」
「うん。任せて!」
《夢の中みたいに簡単に着替えられない?》
『残念ながらムリでございますよ、お嬢さま』
黒猫は執事のように軽く敬礼をすると、いたずらっぽく笑う。本当はそんな場合ではないのだが、樹里は束の間の平穏を楽しんでいた。
《行き先の候補は2箇所ある。おそらくはこっちだろう》
樹里はルゥの言うことをそのまま蒼に伝えた。蒼は気が気ではないらしく、顔はやや青ざめている。
ーーーーー171ーーーーー
2人と1匹はとあるテーマパークの前に来ていた。
もう22時も回り、門はしっかり閉ざされているし、周辺はすっかり静まり返っている。
そのテーマパークは、自宅から15分ほど電車に乗ったところにあり、樹里達はよく遊びにきたものだ。しかし、ここ数年は何となくご無沙汰していた。
「ここ?」
「閉まってるぜ?この中?」
『みたいだな。どこかから入れないか探すぜ』
すると、どこからともなく人の気配がしてくる。人と呼ぶべきか、物と呼ぶべきか…何か得体の知れないものが近くにいるのは確からしかった。
黒猫が口を開いて何か言いかけたとき、蒼が不意に頭を抱えて呻きだした。
「なん…だこれ…頭が…いっ…」
そう言い残すと、その場に倒れ込んでしまう。ほぼ蒼が倒れると同時に、不可思議な気配は辺りから消えてしまっていた。
「しょ…ショウ!大丈夫!?」
『しっ。静かに。そのままそっとしておいてやれ。この先は常人には危険だからな』
ルゥが蒼の額に手をかざすと、蒼は苦痛に歪めていた表情を緩めて、心地良い眠りへといざなわれていく。
少女と黒猫は軽やかな寝息をたてている少年を置いて、先程の気配がした方へと向かうことにした。
ーーーーー172ーーーーー
正門から200mほど左に行ったところで、気配はぷっつりと途切れていた。前には延々と続く長い塀が東西に延びている。
塀をよく見ると、ヒト1人がやっと通れるくらいの小さな穴が開いている。穴の中は真っ暗で、外から見る限り、中の様子を伺い知ることはできない。
『ここで間違いねぇな。ぷんぷん臭うぜ…無魔の鼻につくニオイ。ジュリも何か感じるだろ?』
確かに何かの焦げたようなニオイが中から流れ出している。すえた嫌なニオイは、1度嗅いだら忘れられない。
「うん…前にもどこかで嗅いだ気がする。どっちにしても急がないと、翠淋ちゃんが心配よね!」
『あぁ。ここから先は危険だ。ジュリには加護があるが、スイリンは長居すると命に関わるからな』
まずルゥが穴の中を確認して安全を確認してから、樹里もゆっくりと右足を踏み入れる。ムッとする熱気が右足から少しずつ登り、頭まで延びてくる。しかしこんなところで躊躇してる場合ではない…先がまるで見えない闇の中に一気に飛び込む。
不思議と中に入ると全身に絡みつくような熱気は消えていた。わずかに嫌なニオイは漂ってくるが、先程の比ではない。
『…ちっ…やられたな。ここはヤツらのいる空間じゃねぇ。入るには一定のルールを守らないといけないらしい…』
「どんなルールか分かる?」
『ヤツらのことだ。どうせ下らねーことだろ。呪文を唱えるとか、逆向きに飛び込むとか』
そう言うと、黒猫は穴の入り口へと戻り、事もなげに異空間へ入っていく。
ーーーーー173ーーーーー
樹里も負けじとルゥの跡を追おうとするが、スカスカに素通りをして元の場所に戻ってしまう。さすがに5回も行ったり来たりを繰り返してるうちに、苛立ちはつのってしまった。
「ルゥ!そっち行けないよ。ヒント教えてよ」
しかしルゥの返事は返ってこない。異空間に行ってしまったせいか、声が全く届かないようだ。
樹里は不安な気持ちよりも、怒りがこみ上げてくる。今までの自分が受けた理不尽な扱いを思い出し、思いっきり声を張り上げ悪態をつく。
一瞬、闇の入り口が膨張したように感じた。それから闇は樹里を飲み込むように大口を開け、
当初、辺りは真っ暗で何も見えなかったが、闇に目が慣れてくると全景がひらけてくる。ルゥはいつの間にか足元に擦り寄ってきていた。
「ルゥ…よく一発で入れたね…」
『悪態はオレの得意分野だから♪』
樹里は半分呆れながらも、悪態も時には役に立つのだなと感心し、口元が緩んでくる。
穴の中は意外にも涼しく、すえたニオイもどこかへ消えている。しかし、心のどこかで“ここで合っている”という予感がした。ルゥも同じように感じているようで、毛を逆立てて警戒している。
ニオイも気配も途絶え、行く当てもなくなった1人と1匹。
しかし、探すべきものは向こうからやってきた…。
ーーーーー174ーーーーー
何もなかった空間に、突如ボウっと浮かびあがるものがあった。
最初は闇に溶け込み蜃気楼のように虚ろな存在であったが、徐々に色を増し月夜に明るく照らされるように間接的に形を成していく。
そして全貌が明らかになったとき、古びた洋館がそびえ立っていた。
その洋館はいかにもお化けや妖怪の類が出そうな…ということはなく、洒落たスロープや窓がついており、小綺麗なお屋敷という風情である。
「翠淋ちゃんは、この中にいるのかな?」
『おそらくは…』
「どっちにしても中に入らないと。急ごう」
黒猫は無言のまま頷くと、巨大な門の前に先導する。
黒猫が門前に立つと、薄明かりに照らされた黒く巨大な門は音もなくゆっくりと開いていく。
あたかも樹里たちを招き入れるように、門が開いた先には1本真っすぐに続く通路が煌々と照らされている。その通路の周囲には薔薇のアーチが掛かっており、芳しい薔薇の香に包まれる。ちょうど少女の背丈ほどもあるアーチは、前へ進むと後方が頭を垂れるように沈んでいき、道を閉ざしていく。
後ろには引き返せない、一方通行の道を来たのだと分かる。
ーーーーー175ーーーーー
ドアの前までたどり着いたとき、少女は後ろを振り返る。来た道はすっかり覆い隠され、辺りは一面お花畑になっていた。
そしてくるりとドアに向き直ると、ドアノブを掴み右に捻る。ドアノブは簡単に回り…いや、簡単に回り過ぎ…どこまでも右に回り続ける。そこでドアノブを引いたり押したりしてみるが、ビクともしない。
すると、奮闘している樹里の足の間をくぐって、ルゥは呆気なくドアの向こうへ消えてしまう。一見普通に見えるドアは、通り抜けられるようにできているようだ。少女も黒猫の軌跡をたどり、右足から一気に飛び込んだ。
全身が水に包まれる不思議な感覚の後、息苦しさから解放された樹里の視界には巨大な階段が映る。外からだとせいぜい3階建てにしか見えなかったので、どこまでも天頂の方へと延びていく段を見上げて、樹里は軽い目眩を覚えた。
「もしかして…この先の見えない階段上るのかな?」
『おそらく上…だろうな。オレの勘が下には何もないと知らせてるぜ』
樹里は体力には自信があったが、さすがにどこまで続くか分からない階段には辟易する。しかし霊体のルゥにはそんなことお構いなしで、ひょいひょいと階段を飛び上がっていく。
「もうしょうがないなぁ…どこまでも行ってやるわよ!」
そう言うと、少女は勢いをつけて階段を2段とばしで上り始めた。
ーーーーー176ーーーーー
どれくらい時間が経っただろう…どのくらいの階段を上り続けただろう…。ある場所まで上ったあたりで一種の違和感を感じて、1人と1匹は足を止める。
薄暗い中に微かに光る場所があった。そこから東西に延びる通路がある。先はやはり暗くて何も見えない。階段はまだまだ上方へと続いているが、横路にそれる道がどうしても気になる。
黒い相棒も同じことを考えているらしく、軽く樹里に目配せをすると右方向に旋回をし、迷いなく進んでいく。
横路に入ると、仄かに光る道標が地面に浮かび上がる。黒猫が軽快に歩くステップとともに、道標も前方へと伸びていく。あたかも光と影の追いかけっこのように、光の進む方へと小さい影は進んでいく。樹里も置いていかれないように、早足で光と影を追っていく。
一体この屋敷はどこまで続くのだろう…そう思ったときに、光の道標がふと速度を緩める。行き過ぎそうになり急ブレーキをかける黒猫をあざ笑うかのように光は点滅すると、扉の周りを明るく照らし消滅する。
ーーーーー176ーーーーー
ここが終着点なのは誰の目にも明らかであった…。しかし、樹里の足には重い枷が架けられたように前に進まない。内側から滲み出てくる空気に、息苦しささえ感じる。
激しい吐き気をこらえながら目を閉じると、微かに何者かの声が耳の奥に聞こえてくる。次第に大きくなる声が悲痛な叫びだと分かる頃、樹里の口も自然と言葉を発していた。
「…我を迎え入れよ…」
黒猫が目を見開いて驚いた表情をしている。口をぱくぱくして、やっとのことで発した思念波は一言だった。
『いつの間に…?』
この黒猫が言った言葉の意味を理解するのには、今の樹里には早すぎた。
ーーーーー177ーーーーー
重厚な観音扉は音もなくゆっくりと内側に開き、中の光景が露わになった。
少女が恐ろしい獰猛な獣に捕らわれの身となっている。顔面からは一切の血の気は失せ長い髪は振り乱れ、聡明で清潔感のある容姿は見るも無惨であったが、少女の姿が蒼の妹の翠淋と分かるのにそう時間はかからなかった。翠淋は抵抗を諦めぐったりとしており、その首には今にも引き裂かんとする鋭い爪が食い込んでいる。
樹里の怒りは一瞬で沸点に達し、猛獣は全部で15匹…そう判断したときには事は終わっていた。
次の瞬間には、しっかりと少女を抱き締めている。完全に意識を失い虫の息だが、命はなんとか取り止めているようだ。
『…ジュリ…お前…いったい…?』
青い顔(黒いので実際は分からないのだが)をした黒猫が、畏怖と恐怖と困惑の表情でこちらを見ている。
樹里自身、記憶がないわけではなかった。ただあまりにも一瞬であったことと、自分の意志とは無関係に体が動いたため確信が持てなかった。
「これ…私がやったのね?」
全身からみなぎってくる不思議な力と、ルゥの表情とで状況が理解できる。
「とりあえず翠淋ちゃんは救出できた。この屋敷から脱出しないとね」
そう言うと、自分よりもガタイのいい少女を軽々と抱き上げ、扉に手をかざすと自動ドアのように開く扉へと向かう。黒猫も遅れをとらないようにと、後から走ってついてくる。
樹里は来た方とは反対側に歩を進める。しばらくまっすぐに歩いていくと、突き当たりは行き止まりであった。樹里は迷いなく何もない壁に手を当てると、壁は赤くマグマのように溶解し、外の月明かりが射し込む。
ーーーーー178ーーーーー
開いた壁から下を覗くと、予想外の光景に一瞬凍りつく。先程まで幾段もの階段を登ってきたにも関わらず、せいぜい3階の高さにいることが分かる。30分は登った気がするが、まぁそれは今更考えても仕方がない。
樹里は少女を背中に背負い直し、軽やかに飛び降りる。黒猫も樹里に続いて飛ぶと、音もなく着地をする。
ふと腰のあたりに細かな振動を感じ、樹里は動きを止める。左手だけで少女を背負い、右手で恐る恐るポケットを探ると、何のことはない携帯が着信していた。
「…もしもし?」
「ああ樹里!良かった~起きててくれて…。父が…父が…どこにもいないの。私…どうしたらいいか…」
電話の相手は凪である。凪はそう言うと、泣いているようでそのまま黙ってしまう。
樹里は親友のただならぬ様子に少し動揺したが、黒猫の落ち着いた表情から凪の父の無事を悟った。ゆっくりと丁寧に、取り乱した親友に語りかける。
「ねぇ、凪?大丈夫だから落ち着いて。今どこにいるの?」
「えっ…うっ…病院…だと思う…」
「分かった。今すぐそっちに行くから、動かないでね。おじさんは大丈夫、大丈夫よ」
「あっ…!そういえば…」
凪は何かを思い出したかのように泣くのをやめると、不思議なことを言い出す。
「変なの。病院に先生も看護師さんもいないの。ナースコール押しても何も反応なし。私以外誰もいないみたい…」
ーーーーー179ーーーーー
そこまで聞くと、ちょうどタイミングよく樹里の携帯からピーという音が聞こえ、通話が途切れてしまう。携帯の充電がいつの間にか切れてしまったらしい。樹里はがっかりすると、携帯をポケットにしまう。
『とりあえず行き先は決まったな。ビョウインまではちょっと遠いが走るぜ!』
「あっ!その前に翠淋ちゃんと蒼はどうしよう?」
『家まで送り届けるヒマがねぇな…つれてくか…』
などと話しながら歩いていくと、いつの間にか生暖かい風が吹き込む穴の前に着いていた。その穴は行きと同じように異様な気配を醸し出していたが、今の樹里には難なく通り抜けることができた。
………と思った。
左足首が通るか通らないかするうちに、突然両肩にえぐられるほどの鈍い痛みが走る。体中からみなぎっていたはずの不思議な力は途端に萎え、無情にもいつも通りの非力な少女へと引き戻される。人1人分の重量が細い肩にのし掛かってきて、樹里は思わずよろけ尻餅をつきそうになる。しかし何かの力に後ろから支えられ、何とか踏みとどまることができた。
「間一髪!よくここまで1人で運んでこれたなぁ。きつかったろ?」
馴染み深い声はそう言うと、樹里の肩から重しを解放してくれる。どうやら、異空間にいるときだけ特別な力は得られるらしい。樹里は自分の掌を見つめるとため息をついたが、どこかで肩の荷が下りたような安堵感を覚えた。
「蒼…いつの間に…いえ、そんなことより翠淋ちゃんのことは任せていいかな?私は行かないといけない所が―」
「だめだ!俺も一緒に行く。何だか嫌な予感もするし…何より樹里1人で危ない橋を渡らせる訳にはいかねぇよ」
ーーーーー180ーーーーー
「でも!蒼には危険だよ!私こそ蒼をそんな危ない目に遭わせる訳にはいかないー」
「お前は…!6歳の時に誓った約束を忘れたのか…?」
珍しく少年の真剣な眼差しを見た気がする。もちろんここ数日でも何回か少年の普段は見せない表情を垣間見たが、これほどに熱い視線で語られたのは初めてかもしれない。それほどまでの意気込みが、少年の目には宿っていた。何もかもを見透かすような瞳に見つめられて、樹里は少年の目に釘付けになった。
そして…少年の瞳が炎のように赤くゆらめいた気がした。
「俺は…今も、これからも…樹里、お前を守りつづける」
しばらく2人の間に沈黙が流れた…。おそらくものの数分だったに違いない。けたたましいサイレンに2人の意識が削がれるまでのほんの短い間の後、サイレンが凪のいる病院の方角へ向かっていくのを聞き、2人は顔を見合わせる。
「私はこれから凪のいる病院に向かうつもり。味わったことのないほどの危険を目の当たりにすると思う。蒼...それでも一緒に行ってくれる?」
少女の言葉を受け少年は少し照れたように笑うと、決意は揺るがないと言わんばかりに真面目な顔をして頷く。
「ああ、当然だ。止められたってついてくぜ。何より俺自身も確かめないといけないことがあるしな」
少年はどこかからか呼び止めたタクシーに、未だに目覚めない翠淋を乗せると、自身も乗り込む。そして樹里に手招きをすると、口角をふっと持ち上げる。樹里は心に温かい安らぎを覚えつつ後部座席に飛び乗ると、少年の肩に頭を持たせかける。蒼からはほんの少し汗くさい、それでいて心地よい香りがし、樹里は目を閉じる。右手に大きくごつごつした男らしい指が絡ませられる。膝にはほんのり温かい猫の温もりと息遣いを感じる。
ほとんど聞こえなくなったサイレンの音を遠くに感じ、2人と1匹は束の間の安息を楽しんでいた。
ーーーーー181ーーーーー
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