【8】夢からの帰還

 目を開けると、いつの間にか自分の部屋のベッドにいる。


時間を確認すると…4:24…時間は経っていないようだ。


まだ外は薄暗く、7月にしては肌寒い。


 何故だか無性に喉が渇いたので、冷蔵庫にお茶を取りに行く。


ぷはぁ


 腰に手を当ててオヤジのように一気に飲み干す。すると肩越しに聞き覚えのある声がした。


『オレにも水か何かくれ』


 少女が振り向くと、黒猫はちょんと食卓の上に行儀よく座っている。


《やっぱり…やっぱり夢じゃなかったんだ》


『そうだな。そして、今ここは本当に夢じゃない、現世だぜ』


 猫皿は…確か食器棚にしまっていたはずだ。樹里は久しぶりに猫皿を手に取り、少しゆすぐと水を中に注ぎ、ルゥの前に差し出した。


 黒猫はくんくんと皿の匂いを嗅ぐと、ちょろちょろと水を飲み始めた。


ーーーーー52ーーーーー


『ジュリ、猫飼ってたのか?』


「1年前までね。別に死んじゃったわけじゃないのよ?ただ、突然いなくなってしまったの…」


 そう告げる樹里の声には、明らかに悲しい響きがある。


 沈んだ空気を一掃すべく、ルゥは明るい声で樹里に話し掛けた。


『今日って何の日だっけ?』


「やばーーーい!期末テストの日だ!!!勉強してないよ!どうしよう」


 樹里は一通り叫ぶと、急いで寝室に戻りかばんを漁りだした。そんな様子をじっと見ていた黒猫は、ボソッと言う。


『…いまさら』


「今さらとか言わない!ギリギリまで粘れば何とかなる!」


『でもさぁ。今日の科目ってジュリの得意な英語と現国だけじゃね?だから今さら勉強しなくってもいいんじゃないかってこと」


 樹里は冷や汗をかきながら手帳を開き、テストの時間割を確認する。


 ルゥの言う通り今日のテストは2教科だけであった。


ーーーーー53ーーーーーー


「助かった!ありがとねルゥ」


『どういたしまして』


 ほっと一息つくと、さっきまでの勢いはどこへやら、夢の中での出来事を思い出して気持ちは沈んでいく。


「ねぇ。悪夢ってさ、昨日見たような夢を3日間見るのかな?しかも見たら確実に助かる、ってわけじゃないのよね?」


 黒猫も溜め息混じりで答える。


『まぁな。詳しいことはオレには分かんねーけど、やらないよりはマシだから細かいことは気にすんな』


『だいたい人は結果を求めて物事にあたりすぎる。全てがうまくいくなんてことは有り得ない。失敗することもあるからこそ、成功したときの喜びも大きいんだ。そもそも、やってみないことには結果すら得られないんだからな』


 確かにその通りである。樹里は自分の今までの行いを恥じた。テストも結果ばかりを気にして一夜漬けで乗り越えることもしばしばだったし、部活だって最近行き詰まってしまって休みがちになっていた。そろそろ顔を出さないと、みんなも心配してるだろうな…などと考えていると、黒猫が思考に割って入ってきた。


『考え中のとこ悪いが、もう学校へ行く準備した方がよくないか?』


 樹里が時間を確認すると、こっち側に戻ってきてから3時間も経過していた。


「やばーーい!!」


ーーーーー54ーーーーー

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