お題【届く】In the can.

「デネブ!」

 呼ばれて僕は振り向く。

「全く、地球から軌道EVエレベーターポートまで3日。疲れちゃうよ」

「ここからさらに乗り継ぎだろ。月勤務は大変だな」

「向こうはジオトピアだからね。重力以外は地球と変わんないよ。あたしにすりゃ、この密閉型ステーションでずっと働いてるあんたのほうがすごいよ」

 そう言いながら、彼女はビニールで閉じた缶を取り出した。

「はい、約束の届け物。じゃね」

 カナンはそう言うと月行きドックへ消えていった。


 自室に戻り、缶の封を解く。中身は空。青臭い匂いがした。合成でない草の香り。贅沢なお届け物。

 地球にもう家族もいない僕だが、時にはその空気が恋しくなるのだ。

 僕は窓から青い星を見下ろした。

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300字の世界【SF】 荒城美鉾 @m_aragi

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