お題【届く】In the can.
「デネブ!」
呼ばれて僕は振り向く。
「全く、地球から軌道
「ここからさらに乗り継ぎだろ。月勤務は大変だな」
「向こうはジオトピアだからね。重力以外は地球と変わんないよ。あたしにすりゃ、この密閉型ステーションでずっと働いてるあんたのほうがすごいよ」
そう言いながら、彼女はビニールで閉じた缶を取り出した。
「はい、約束の届け物。じゃね」
カナンはそう言うと月行きドックへ消えていった。
自室に戻り、缶の封を解く。中身は空。青臭い匂いがした。合成でない草の香り。贅沢なお届け物。
地球にもう家族もいない僕だが、時にはその空気が恋しくなるのだ。
僕は窓から青い星を見下ろした。
300字の世界【SF】 荒城美鉾 @m_aragi
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