第18話 冷泉葵の状況 Ⅱ


私はスマートフォンの貸し出しが許されたこの30分間は、出来るだけこの世界に関する情報を集めることにし、まず最初に歴史に関すること、それからこの世界の科学技術や私の世界とは違う常識などを調べました。

30分という決して長くない時間しか調べることができませんでしたが、必要最低限の情報はわかりました。


これはあくまで私の推測ですが、私のいた世界とこの世界の科学分野における大きな分岐点の一つが「インターネット」の発明の時期、および普及の時期でしょう。

どうやらこの世界では、20世紀末の時点で既にインターネットの概念や技術が開発され、普及もされていたようです。それに対して私の世界では、21世紀前半に開発されましたから、その点インターネットが関連するパソコン、スマートフォン、他家電などの技術の向上のスピードには大きな差があるはずです。


今思い出したのですが、光友さん曰く、私の世界で一番分岐が多いのは戦争の時で、一番大きく分岐するのは国ごとの勝ち負け、また小さい分岐でも地域の戦いの勝ち負けで、かなり多くの世界に分岐するんだとか。

でも、珍しいのか珍しくないのか、第2次世界大戦の頃の歴史は私の世界と変わりはありませんでした。もちろん、細かいところを見れば少し変わっている可能性もありますが。


とりあえず、この30分間で得られた情報はそのくらいでしょう。

さて、次にやることは高槻君を探すことですが...傷のせいで看護師の方に

「今日はゆっくり寝ていてください。明日にはかなり良くなるはずですよ。」

と言われてしまったので、ここから出る訳にも行きません。


もう日が暮れ始めています。遠くにある時計に目を凝らして見ると、だいたい長針が5と6の間、短針は6くらいに向いていましたので5時半くらいでしょうか。

流石に今日、彼が来ることは無さそうです。

加えて、彼が来るというのは彼が傷を負っていない状態を仮定してのことなのでもし彼も傷を負っていたら当分会えないことになるでしょう。

私は彼が少し心配になってしまいました。


〜〜〜


少し時間が経った後、ずっと疑問に思っていた、私の病床の目の前にあるとっても薄い、それも1cmもないんじゃないかというくらいの黒い板。

私の世界にある薄型テレビをさらに、狂気的に薄くした感じの物体が、他の人の様子を見て本当に私の世界と同じ使い方、役割を果たす、つまりテレビなのだと気付きました。


少しその周辺を探してみると私でも見慣れた形のリモコンがあったので、電源ボタンと思わしき所を押し、テレビをつけることができました。


「画質...良いですね......」


あまりの画質に驚き思わず独り言を漏らしてしまうのも束の間、テレビにはあまりにも衝撃的な映像がニュースの解説と共に流れていました。


「今回、半世紀よりも前から予想され続けてきた大地震が起こり、死者は1万人、行方不明者は5万人に達しています。

 政府は緊急対策本部を設置していますが、事態の把握は追いついていない状況のようです。」


この解説と共に、テレビにはまるでドミノのように薙ぎ倒された木々、崩壊したビルのよる破片の数々、あるところでは津波も発生しているようで、ミニチュアを扱っているように簡単に流されていく家、電柱、車......そして、人。

私の世界には地震があっても、ここまで被害が広がることはこの所全くなかったので、あまりの壊滅さに類を見ない恐怖を覚えました。


そして、別のキャスターが話し出します。


「えぇ、ここもかなり揺れましたよね。そして、ずっと予想され続けてきた地震、対策を万全にできるはずだった地震に対して

 国民が満足できる程度の事をしてこなかった、今の政権には重い責任がありますね。落ち着いたら、総辞職するべきじゃないかと思いますね。」


出ました。どの世界にもいるんですね、無理やり話をつなげて政権批判をしようとするコメンテーターもどきは。

ただ、私には政治のこと、まして他の世界の政治なんてわかるわけないけど、このレベルの災害だったら一理あるのかもしれません。


今でも続々と怪我を負っている者、体調不良を訴える者が雲霞の如くこの診療所に足を運んでいます。


それにしても、私が今できる事、そしてすべき事はほぼ全てやった気がします。

はっきり言って、暇です。今私が他にできること、それはこれ以上被害が広がらない事を祈ること、そして高槻君が無事であるのを祈ること。


それだけ心に決めたら、いつもより何時間も早いですが、電気を消し眠りにつくことにしました。


〜〜〜


/*03:00*/


私は目を覚ますと、旅館で起きた時のように、いつもと違う天井に数秒間違和感を覚え、そしてすぐに今の状況を思い出しました。

ひとまず時間を確認しようと、他の患者を起こさぬように、忍び足で時計の方に向かいます。

そして暗くても見える位置に来ると、今が午前の3時であることがわかりました。


私はできるだけはやく行動を始めた方が良いと思い、私の病床に一枚紙を残し、ここを出ました。


うーん、診療所を出たは良いものの、どこに行けば高槻君が見つかるでしょうか。とりあえず、今私の向いている方向には、ある程度被害が少なそうで、比較的周囲の街よりも新しそうな都市があったのでそこを目指しましょうか。

目分量だとおよそ......1,2kmくらいでしょう。歩いてもすぐ着けるはずなので、あまり体力は消耗しないよう、そして傷を負っている部分にあまり負荷をかけないよう、ゆっくりと歩き出しました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る