第17話 冷泉葵の状況 Ⅰ
私はとにかく、今置かれている状況、周りの環境をできるだけ確認しようと、ゆっくりと立ち上がりました。
足の状態があまり良くないようで、よろけながらになりましたが、どうにか立ち上がります。
自分の腹部を見ないよう注意して周りを見渡してみると、どうやら私が居たのは建物の中ではなく、倒壊した建物のすぐ隣だったようです。
そして、周りは、というより周りも倒壊している建物が多く、その側には幾人も傷を受けているだろう人がいました。そして、その倒壊した建物を呆然と見つめる人もいました。
彼らはこの建物の住民だったのでしょうか。ひとまず、状況を把握したいので一番落ち着いていそうな雰囲気を醸し出している
一人の老人に話しかけてみることにします。
「あの〜、すいません。ちょっといいですか。」
「うん?、ああいいけど、それよりお嬢さん、お腹のき」
「あ、すいません、こちらから聞いといて失礼だとは思いますができれば傷のことは言わないでほしいです、気にするとさらに痛くなりそうなので」
「ああ、すまない。それで、何か聞きたいことでもあるのかい?」
「はい、ちょっと頭を打ってしまったのか、今までの記憶が錯乱しているんですけど、ちょうどさっき何があったんでしょうか?」
「そうか、とりあえず無理だけはしないでくれよ。それで、何が起こったかっていうと、だな。
だいたい30分くらい前かな、非常に強い地震が起こった。ちなみに、それは国全体が恐れていた南海トラフという地震で、最近発生率が上がったらしくてな。警戒してはいたもののこの有様なんだ。
それでここは特に被害がひどくて、建物も若干古いせいか軒並み倒壊している状況だ。」
「そうなんですか...、あと、この辺で病院とかありますか?」
「ああ、そうだな。確かここからちょっと歩いた所に誰でも見れる無料診療所があったはずだ。
そこなら保険証やら、証明書がいらないし、特にこの世界に生きているって証明だっていらない。」
「...良かったです、教えていただきありがとうございます。
ちなみに「特にこの世界に生きているって証明だっていらない」というのはどう意味で?」
「...ああいや、特に深い意味はない、ただの老人のジョークだよ。
お嬢さん、その様子だと道もわからないんじゃないのかい?
よければ案内してあげるよ。」
「いいんですか?、でも、あなたにはあなたの用事があるんじゃ...」
「ああ、大丈夫さ。ずっと流石に病院まで案内してやれるだけになってしまうが、それだけのことだったら少しの間ここを離れても大丈夫なはずだ。」
「では、お言葉に甘えて、ありがとうございます。」
私は、またしても腹部を見ぬよう注意し、深々と頭を下げました。
それから、親切な老人は私を無料診療所まで案内してくれました。
途中、私についてなぜか状況を知っているような、いや、知っていないとわからないようなことを言っていましたが、単なる経験則で片付けられる程なので、特にそれについて聞く必要はないでしょう。
また、途中で高槻君のことを思い出し、途中で逸れてしまった、と伝えてみると
「あー、それなら心配ないだろう。その人がもし怪我を負っていたなら、しばらくはお互い会うのは難しいが、もし探し回れるほどで怪我なんかがなかったら多分ここと近いだろうから、いつか見つけてくれる。
いつかと言っても、近いにね。」
と老人が言ってくれました。
それからしばらくして、その「無料診療所」というところに着きました。よく考えたら、私の世界にはない便利な所です。
なんとなく思っていたことですが、この世界は私の世界より少しだけ科学や経済が発展しているのでしょうか?
そのような感じがします。
それから、老人には丁寧に感謝の言葉を述べひとまず別れ、診療所に入りました。
そこでは生年月日と出身地が聞かれ、少し焦りましたがどうやら神奈川県でも通じたようです。
次に、診察室みたいなところへ連れて行かれ、そこで怪我の具合を診断した後治療を受け、私はその無料診療所が用意しているベッドに入り、しばらく休むことにしました。
状況が状況なだけあって患者も多く、診療所も緊急で医療関係のボランティアを募り、ベッドも緊急で増やしているようです。
〜〜〜
それから小一時間経ったところで、看護師と思わしき人がこっちに来ました。
そこで色々な確認をされました。おそらく私一人で来たので、身元の確認をしたいのでしょう。
かなり悩みましたがこの世界にも「冷泉葵」がいる可能性があるので「冷泉静」ととっさに偽名を名乗り、友人とはぐれた、と言っておくことにしました。
ひとまずここからはどう行動すべきか考えなければいけませんね。
私の世界でいうネットや、スマートフォンみたいなものがあるとかなり情報収集が捗るのですが、流石にないでしょうか、少し探してみると
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無料貸し出しスマホ
使用お一人様30分まで
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と書かれている張り紙を見つけました。
幸いにも残りひとつ、スマートフォンがあったので、
それを借りてしばらくこの世界についての情報を調べることにしました。
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