第16話 物語の始まり


/*見知らぬ土地*/


俺はあまりの目眩に意識を失った。そして、どのくらい経ったのだろうか。ゆっくりと眼を開ける。

すると、俺の眼には俺のいた世界とさして変わらない世界が広がっている。

転送実験は失敗してしまったのでは、と思うくらいに似ていた。

しかし、細かいところまでよく見てみると少しだけ違うところがあった。


まず一つ、都市の風景だ。窓の様子を見ると、若干物が散らかっている様子が見られる。

この世界の住人はここまで片付けが苦手なのか?っと思うほどものが散乱している。

ただ、もっとマクロ的に都市を見てみると俺の世界より一回りの進んでいるようにも見える。

綺麗に整列された高層ビル、そして隙間には形の整った樹木が植わってある。


そして二つ、俺のいた世界では教育改新により私立の中学校および高等学校はすべて廃止されているため、全てが国公立で成り立っている。

しかし、目線の先にある看板に目を凝らしてみると...


**


学校法人横浜先端教育学園横浜技術高等学校


現在の世界の先端をゆく科学を学び、未来を生き抜く力を身につける。


学校見学いつでも可能!!


Tel ***-****-****


**と書かれてあった。明らかに私立の高校だ。

他にも、若干、というか少し大きめの違いがある。

俺のいた世界にはドローンなるものが存在するが、法律が整っていないため、まだそこら中を飛び回ることは決してないのだが、果たしてこの世界はどうだろう。


縦横無尽に、四方八方から飛び交っているではないか。......それにしても飛びすぎではないか、少し疑ってしまう。

少々気になっていることがあり、それはそのドローンが運んでいるダンボールに「緊急物資」と書かれていたことだった。


いや、そんなことより、そんなことよりではないが、それより。


......うん?、...あれ、俺はとても重要な何かを忘れている気がする。重要な何か、というより人だ。


しばらく考える、まだ違い世界に来たばかりで冷静にはなりきれていない頭で、考える。


「そうだ!?、冷泉はどこだ!?」


思い出した勢いで一人で大きな独り言をしてしまった。

また、その勢いで体を無理やり起こし、辺りを見渡してみた。


何かがおかしい。世界が違って、文字が違うとか、そういうことじゃない。

もっと、何か、都市の様子がおかしいのである。


そう思った矢先、俺をどん底とまでいかないにしてもそこそこの深い恐怖に陥れるには十分なある放送がこの街中を駆け巡った。


「現在、南海トラフ大地震が発生しました、屋内にいる人は直ちに避難場所か、近くに建物のない場所に避難してください。余震の恐れがあります。

 繰り返します、現在、南海トラフが発生しました。屋内にいる......」


しばらくその言葉が何度も繰り返された。でもそのおかげで、嫌でも今の状況がわかってしまった。

さっき飛んで行ったドローンはそういう意味だったのか。

避難した人たちにあらかじめ生活に必要な物資が不足しないようにこの時点から運んでいたのか。

でも、よく考えたら今地震が起こっていること、これは理にかなっていることだったんだ、とも気づいた。


俺たちは並行世界で発生した地震の力によって、その世界へ飛ぶという方法を使ってこの世界へ来た。

そう考えれば、今この世界でつい先ほど地震が発生したのも至極当然だろう。

それに、まだこの世界での情報は得られていないが、俺が、俺と冷泉が飛べるほどのエネルギー量を発した地震だ。相当強く、

被害もそれなりにあるはずだろう。


とりあえず、必要最低限までの状況整理さえ済んでいないものの、それどころではないのかもしれない。いや、それどころでない、確信だ。

まずは冷泉を探さなければいけない。


「冷泉、聞こえるかーーー!、聞こえたら返事をしてくれーー!」


俺はめいいっぱいの声で叫んだ。


そしてそれをしばらく続けた。だが、返事はなかった。


俺がこの世界に飛ぶときは近く、それも半径1m以内にいたんだから、多少飛ぶときに何らかのエネルギーによって離れたとしても、それなりに近い位置にいないとおかしいはずだ。


そう信じて、もうしばらく声を張り続けてみた。


しかしながら、初っ端から随分と最悪なスタートだ。先が思いやられる。


***


「.....ん、ん...?」


私は長い目眩にかかった後、しばらく気を失っていたのでしょうか。ゆっくりを期待を込めながら目と開けていきます。

どんな世界が広がっているのでしょうか、たくさんの鳥が飛んでいる自然豊かな世界?、それともアメリカのSF映画でやるような近未来都市が広がっているのでしょうか?


「.......」


目を開けたそこには、私の世界とは全く違う世界が広がっていた......などではなく、瓦礫というか、鉄柱というのか、コンクリートのようなものが目の前にありました。

それは、後の建築で使うような、綺麗に整えられたものではなく、落ちてきたとでもいうべきが妥当なもので、私が見える範囲では、破片がところどころに広がっていました。


ダメです、全く状況が読めません。それに、腹部の鈍い痛みを感じてきています。

もしここで私がその傷を視認してしまったら、おそらくさらなる痛みを伴うはずです。ここは私は傷なんて負っていないと思い込み、出来るだけ感じる痛みを和らげ、誰かが来るのを待つのが得策でしょう。


しかし、楽しみだけで満ちていると思ったこの旅は、どうやら簡単にはいかなそうです。


それもそれで面白いでしょう。この並行世界の旅の最初の1ページを綴る出来事としては十分なものです。私の希望としては、その出来事はマイナスではなくプラスの出来事にしたかったのですが...。



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