第2章 並行世界 Ⅰ

第15話 並行世界転送実験


/*4011教室*/


俺と冷泉はこの教室、部室で静かに光友さんが来るのを待っていた。会話はあまりない。

彼女自身、今から起こる出来事に張り詰めてもいるんだろう。

そんな彼女に、少しでも解けるようにしようと話しかけてみる。


「なぁ、冷泉。楽しみか?」

「うーん...。...楽しみだけど不安の方が若干大きいかな。」

「まあ、そうだな。俺もおんなじだ。」


宇宙飛行士が宇宙に飛ぶとき、ISSで短期滞在するのを待つ時はこんな感じなんだろうか。

それは、すごく興味深くて、小気味良くて。それでいて、リスクも併せ持っている。

まるで登山のようだ。いや、これは俺たちにとっての一種の登山だろう。


俺も冷泉も当たり障りなく育ったといえば嘘になるが、波乱万丈といっても嘘になる今までの人生に、思い掛けずも起こる出来事が

一つ大きなスパイスとなって、これからの人生に影響を及ぼすのだろう。


柄にもなくそんなことを考えてしまった。とはいえ、ここまで考えても全ては成功してここへ戻ってこられたらの話だ。そこまでは油断禁物だろう。


そんなことを考えているうちに、その時は始まろうとしていた。


数回扉をノックした音の後に、部室の扉がゆっくりと開かれる。

その扉から出る、部室と廊下の明るさの違いによる光は、俺にとって、真逆の二つの意味を感じさせた。


「こんにちは。冷泉さん、高槻君。」


「「こんにちは。」」


「早速だけど、君たちには飛んでもらおうと思う。

 もちろん、すぐにとは言わないけど。何か質問はあるかい?」


「今質問することではないかもしれませんが、私たちが戻る方法はあるのでしょうか?」


「それについては心配ない。深くは教えられないが、君達二人は必ず戻ってこられる。

 何があろうとだ、殺し屋に追いかけられても、隕石が降ってこようと、恐竜に追いかけられようと、絶対大丈夫だ。

 そこは心配しないでくれ。むしろ、楽しんでもらいたいとさえ思っている。」


俺はそこまで断言できる理由が知りたかったが、とりあえずは言わずにおいた。


「ちなみに、どうして俺たちはここで飛ぶことになったんですか?

 むしろ東京第一高校だったら、光友さんが楽じゃ?」


「それについてなんだが、実は東京第一高校だと今すぐには飛べないんだ。

 あそこら辺は、僕も良く理由はわからないんだけどこの前行った、空間の隙間に流れるエネルギーが明らかに少ないんだ。」

「それに対して、ここ神奈川第一高校は最近とても良い反応を示している。

 二人は近頃、部室にいると目眩がするようなことはなかったかい?」


「....、あ、あった...」


「そうだろう、ちなみにその原因は非常に小さな空間の歪みなんだ。

 君たちを飛ばす時はもっと大きな穴を作ることになるから、目眩には注意してね。」


「じゃあ、そろそろ始めるけど、良い?」


「「はい。」」


俺たちはこの気持ちの高まりを隠すようなトーンと声の張りで返事をした。


光友さんは俺たちの返事を聞いた後、彼の鞄から何かよくわからない小型の機械8つと、支柱のようなもの4つを取り出した。

そしてそれを、ちょうど人間二人を覆えるほどの大きさの空間を囲うように支柱を設置し、その両端に小型の機械を設置した。

詳細は知らないが、俺たちはおそらくあの中に入って飛ぶのだろう。


「それでは二人とも、この中、というかこの空間の中に入ってくれ。」


俺たちは恐る恐るではあったものの、その空間に近づきゆっくりと入る。まだ特に違和感は何もない。


「OK。じゃあ次はいよいよ、空間に穴を作るけど、ここまできたらもう後戻りはできない。

 何かそれぞれ伝えたいことがあったら今のうちに伝えた方がいいと思うよ。」


「そうだな...、とりあえず冷泉、よろしくな。」


「うん、こちらこそ。できるだけ楽しい旅にしようね。」


「...ああ。」


「それじゃあ、開始するよ。」


彼がそう言った瞬間から、俺の目の前は次第に暗くなっていき、それと同時に意識のある間はひどい目眩がした。目眩といっても空間が黒にしか見えないから、頭が強烈に揺れている感覚だ。


それがしばらく続き、目が覚めた時にはすでに、見知らぬ土地へ着いていた。


そしてここから、俺、高槻裕也と、冷泉葵のメインストーリーが始まる。




/*4011教室*/


「あの二人には、頑張ってもらいたいものだ。

 そして、彼らには様々な世界を見てもらう、それが

 この世界、ひいては他の世界の理解を深めるためになるのだから。」


「頼むぞ...高槻君、冷泉さん...」


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