第14話 光友優希の誘い

***


あれから私達は光友さんの話をもう少し詳しく聞き、光友さんの方から「今度実験したいことがあるので、それに二人も是非来て欲しい。」と言うことでそれぞれ連絡先を交換し、ひとまず今日は終了となりました。

それからはまた横浜中央線に乗り、横浜中央駅からバスに乗って、神奈川第一高校に戻ったところで、ちょうど放課後になったばかりの時刻でした。

そのあとは「今日は疲れたから部活は無しにしたい」という彼の希望もあり、すぐ家に帰りました。


しかし、光友さんはすごい研究をしていました。あのレベルに到達するのに私達では高校3年間を使ったとしても到底無理なことでしょう。ですから、今回の訪問は非常に有意義なものでした。

また、彼に話を聞いてみたいものです。


~~~


あれから、約1週間が経ちました。特に何も起こらず、部活もあり、その部活では光友さんの言っていたことについて議論をしていました。

そして今ちょうど、二人の携帯に光友さんからのメールが来ました。


**


TO: reizei_aoi@worldmail.com


神奈川第一高校 冷泉葵, 高槻裕也


【実験についてのお知らせ】

こんにちは、冷泉さん、高槻君。僕が行う実験の予定が立ったので、連絡させてもらいます。


実験名: 並行世界転送実験

実験内容: 実験名の通り並行世界に転送を行う。(以前動物を用いての転送は行なっており、成功している。)


日時:3日後の放課後


連絡:連絡といいますか、二人に聞きたいことがあります。この実験は人間を並行世界に転送させるのが目的なんですが、

   もしよければ二人に体験していただきたいと思っています。もちろん、安全性は最低限保証できますが、100%と言うわけではありません。

   それでもいいのであれば、並行世界に行ってみたいのであれば、是非参加のほどよろしくお願いします。


FROM: mitutomo_0812@japanmail.com


**


「へー、光友さんって誕生日8月12日なんだ、へー...」


「いや、そこ重要じゃないでしょ、高槻君。」


「うん、知ってる。でもあまりに衝撃的だったから...」


このメールの内容は、簡単に言ってしまえば並行世界に行きたくないか?と言うお誘いです。


「「......」」


しばらく沈黙の時間が流れました。私も、おそらく彼もこれに対してどう答えるのか、考えていたのでしょう、というか考えるのが当たり前なのでしょう。


私達は確かに並行世界に行ける方法を探していました。加えて私はそれなりに本気で探しているつもりで、もし見つかったなら今すぐにでも行きたい気持ちでいる...、と思っていました。

しかし、実際は今のように迷ってしまっている自分がいます。その自分に私自身が少しだけ失望している事実もあります。


「......冷泉は、どう思う?行きたいと思う?」


「......」


「俺は、行きたいかな。もちろん安全とは言い切れないし、転送の途中で死んでしまう可能性もあるかもしれない。

 でも、これまでのつまらない生活を。今までの人生を本にするとしたら、オチの一つもない、起承転結の起と結だけが学校の入学と卒業とともに続いていただけで、全くスパイスが効いていないものを。

 俺はこの宇宙同好会に入ってから、ちょっとだけ、少しずつだけど変えることができた。言ってしまえば、冷泉のおかげだ。断言できる。だから、その、何と言うか、俺は冷泉とこの実験に参加することで

 また俺を変えられるかもしれない。まったく、自分勝手な理由だ。自分でもわかってる、それでも言いたい。俺は、冷泉と一緒に行きたい。」


「......それは、その、ありがとう...」


「でも、私、そんなことした覚えないよ?、むしろ迷惑かけたくらいだと思ってる。」


***


「そんなことない。冷泉にはわからないかもしれないが、俺はとても些細だけど、とても重要で、大切なことを冷泉が教えてくれた、いや、体験させてくれたと思ってる。

 それだけで十分なんだよ。まあ、とりあえず、そういうことだ。」


俺も流石に言い過ぎてしまったか。この場で気持ちを言うのは明らかに場違いだった。これではまるで、...、いや、俺の考えすぎかもしれない、むしろこれまでの感謝を伝えるからこれが十分で適切だろう。

側から見ればおかしいだろうな。たかがメール一つの、しかも彼氏彼女でもない、いわば少し気の合う先輩の誘いでこんなに熱がこもるのは。

冷泉も思っているはずだ、というよりは困惑しているだろう。


俺の言いたいことは言えた。並行世界に行きたいという気持ちも、冷泉に対する感謝のような気持ちも。

だから、あとは冷泉がどうするかだ。それを聞くために俺は一旦落ち着かなければ行けないな。


「それで、冷泉はこの実験についてどう思う?、俺の意見はとりあえずどうでもいい。

 冷泉自身がどう思うか、それが俺は聞きたい。」


「うーん...、少し悩んでしまったこともあるけど、うーん......」


「まあ、危険っちゃ危険だからな。」


「うん。」


しばらく、静かな時間が過ぎていった。

ちなみに、今日の天気は雨のち晴れ。午後からは晴れる予報なのに、一向に晴れる様子がない。

今この教室も同じような状況だろう。


普通に考えたら、そんなに悩むことなんてないはずだ。

別に断りたいなら、断ればいい。もしかしたら、もしかしなくとも次の実験はあるだろうから。


正直俺もそう思っている。俺自身は行ってみたいとは思うが、別に冷泉が行きたくなければ、俺も行かない。

冷泉が行きたいと思ったら、俺も賛同する。それだけのことだ。何でそんなに悩むんだろうか。


こればっかりはわからない。まるで、明らかに安全な場所で、なぜか地雷を踏んでしまうという本当によくわからない出来事みたいだ。


「冷泉が行きたくなければ、別にいいんだぞ。

 冷泉が行きたければ、俺ももちろん行くし、行きたくないんだったら、俺も行かない。それだけのことだ。

 何にそんなに悩んでいるんだ?」


流石にわからな過ぎてこの状態がずっと続くのは嫌だったので、とりあえず聞いてみた。

すると、冷泉はこんなことを言ってきた。


「正直自分でもわからない。多分、戸惑ってるだけなんだと思う。自分が今まで何年もこの研究かけてきて、それが今後も何年も続くと思っていた。

 でも突然、こういうことになって、嬉しいんだけど、とっても嬉しいんだけど、なんだかよくわからない感情が...」


「......、まあ、多分それは、心の準備ができていないだけだと思うな。

 とりあえず、今日は保留にしとこう。家でゆっくり休んで、また明日考えればいい。

 時間があるわけでもないが、ないわけでもない。明日決められれば大丈夫だよ。」


「そうだね、ありがとう。それじゃあ、解散にしよっか。」


「うん。」


僕は冷泉がこの教室を出てしばらくしてからここを出た。

それにしてもさっきから、体調があまり良くない。冷泉が出てからというもの、かなり強い目眩がしていた。

教室出てからは治ったものの、少し気をつけないとだな。どうやら疲れが溜まっているようだ。


/*翌日-放課後-*/


「こんにちは、高槻くん。」

「おう、冷泉。

 ...それで、決まったか?」


「うん、決まった。私、行くことにするよ。

 危険かもしれないけど、それを言うときりがないからね。

 いい意味で、軽い気持ちで行ってみようと思う。」


「そうか...。わかった、それじゃあ光友さんに連絡しないとだな。

 連絡は俺がしとくよ。というか、さっさと伝えたほうがいいか。」


深くは聞かないでおいた。なんとなく直感が聞かないほうがいいと言っていた。

聞いたところで友情関係が壊れるとか、そんな大層なことはもちろんないが、冷泉には冷泉の事情がある。



〜〜〜

その後光友さんにメールしたところ、すぐ返信がきた。

**

冷泉さんと高槻君が参加してくれると聞き、とても嬉しいです。

ちなみに、実験は東京第一高校ではなく神奈川第一高校で行うので明後日はそちらで待機していてください。

それでは、お楽しみに。

**


「こっちでやるのか、まあ移動時間が省けて楽っちゃ楽か」


「ねぇ、高槻君。後二日で、他の世界に行って、もしかしたら片道切符でこの世界には戻ってこれないかもしれない。

 だから、今日と明日は、二人で遊ぼうよ。最後にこの世界を堪能しよう!」


「いいな。よし、乗った。

 遊ぶとはいえ、どこに行きたいんだ?」


「まずはカラオケね、私はカラオケに行ったことがないからどんなものか確かめてみたいの。それと、

 またあのファミレスに行き.......」


そのあとは彼女の願望をしばらく聞かされた。とてもじゃないが2日で、しかも放課後だけで行くには無理があるので自分の行きたいところを考慮して二人で決めた。


〜〜〜


それからの二日間は非常に早かった。当たり前だ、放課後はただ遊ぶだけなのだから。

俺もこんなに楽しいと感じた日々はとても久しぶりだった。

でももしかしたら並行世界はもっと楽しいのかもしれない。俺は光友さんの実験に胸を膨らませていた。


そして、ついに今日だ。今日、俺の人生が変わることになる。

「未来のことなんて未知数で、わかるのはラプラスの悪魔の概念が実現されたときくらいだ」

と思うかもしれないが、流石にこんなに大きい出来事が起こったら、変わるに決まっている。

それがいいことになろうと、はたまた逆の結果になろうとも、それはそれで楽しいはずだ。


1時間目から6時間目までいつも通りに授業を受けた。心なしか、少しだけ授業がいつもより楽しく感じた。

そして放課後、俺は親友である古谷に一言くらいかけておいたほうがいいと思い、話しかけた。


「なあ、古谷。なんか、すごい久しぶりだな。」


「何行ってるの!?、毎日会っていたじゃないか、高槻。

 まあいいや、それにしてもなんか今日テンションが少し高いように見えるけど何かあったの?」


「いや、これからすごい事があるんだ。詳しくはいえないが、だからとりあえず言っておく、古谷ありがとうな。

 親友でいてくれて。」


「...??、何があったの?。よくわからないけど、僕も君が親友でよかったよ?」


「そうか、ありがとう。嬉しい。」


短い会話になってしまったが、とりあえず僕の唯一の親友に挨拶はした。


あとは、部室に行って、並行世界に飛ぶだけだ。


期待と緊張が高まって、自分でも簡単にわかるほどに心拍数が上がっていた。




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