第11話 横浜中央線 Ⅱ

***


ここまで冷泉とほとんど話さずにきた。バスの中は他の客の話し声でうるさくて、そんな中で話すのは俺はあまり好きではないし、彼女もそんな好きではないだろうと思ったから話しかけることはできなかった。その雰囲気で2番線ホームまで来ているので、横浜中央駅構内を歩いている時も話しかけれずにいた。


今回の主な目的は「情報収集」一択である。それ以外には何もない。しかし、俺としては裏目標として彼女との仲を少し深めたいと思っている。

そうすれば部活内でも積極的に協力できたり、

またそれがしやすいとも思ったからだ。

だから、とりあえず電車で移動している間くらいは一緒に話したいとも思っていたりする。


その後もしばらくこの出かけの目標を心の中で確認していたところで、

電車が間も無く到着するというアナウンスがなり、その後すぐに時間ぴったり電車が来た。

その電車はほとんどガラ空きの状態で、俺と彼女は隅の方に座った。


「...」

「...」

この状態では、裏目標があろうとなかろうと気まずいことに気がついた。何か話しかけなければ。

そう思っていた矢先、とてもスムーズに会話できるとは思えない、少々踏み込んでしまう話題を彼女にかけてしまった。


「なあ冷泉、急だけどすごく変なことを聞いていいか?。」


「うん、いいけど。何?」


「冷泉はもし仮にパラレルワールドに行けて、帰りの安全も保証することができたら、何のために行くんだ?」


「うーん...、なかなか難しい質問ね。」


彼女は少し考えた後でこう言った。


「もし今から言うことが気に触るようなら、すぐ言ってね。

 私はこの前、昔から自分の才能で悩んできてると言ったでしょ。

 それでずっと自分が縛られずに入れる世界を探していたの。

 でもそんな世界は現実にない。学校から帰ったら毎日習い事が待ってる。

 休日なんてただの地獄ね。だからある意味学校がその世界に少し似てたのかもしれない。」


「それで、私はある日パラレルワールドに関する本を読んだ。

 その時私は、これだ!と心の中で騒いでいたよ。

 まだ当時こんなに難しいことだとは知らなかったし、

 当時知らなかったからこそ今でもパラレルワールドに関する

 研究を続けられているんだと思う。」


「とりあえず、ここまでが前提。それで、行ったらどうするか。

 加えて行く目的....、。正直行ってしまえば今はただの好奇心ね。

 昔こそ今の生活からとにかく抜け出したい一心でパラレルワールドに

 行きたいと思っていたけど、もう結構慣れてしまったからね。」


「だから私がパラレルワールドに行きたい理由は海外旅行に行きたい理由とおんなじだと思う。

 この世界とは違う価値観、文化を見てみたい。そこで何か自分への収穫があったらラッキーって感じかな。」


「それで、高槻君はパラレルワールドに行ったらどうしたいの?」


「俺はどうしたいも何も冷泉に拒否権を拒否されたから、行くしかないんだけどな。」


「まあまあ。でも、何かやりたいこと決めとかないとつまらないと思うよ?」


「そうだよなー。俺もそう思ってる。だから何か行ったらやりたいこと...

 あるとしたら、俺は両親を見てみたいかな。」


「両親?」


「ああ。行ってなかったと思うけど、俺の両親は小さい頃に交通事故で亡くなったんだ。かなり小さい頃だったから

 俺もよく覚えてない。だからこそあまり心には傷を負わずに住んだんだけどね。

 でも、並行世界上で親が生きているのだとしたら、それはすごく興味があるかな。」


「そう...何だ...。」


「あ、ごめん。少し重い話をしちゃったかな、なんか話変えようよ。」

俺は今の空気感を察し、慌てるように言った。


東京中央駅までは、後15分もある。どんな話題で繋ごうか。

いや、もういっそ諦めてイヤホンをして音楽でも聞くか?

それとも寝たふり?


そうこうしている間に彼女の方から話しかけてきてくれた。


「そういえば、もしかしたら今回の情報収集で計画を前倒しにできるかもしれないでしょ。

 取らぬ狸の皮算用かもしれないけど、今のうちに計画しとこうよ。一緒に連れて行く人とか。」


「そ、そうだね。でも連れて行きたい人かー、正直言うと冷泉連れて行ける人いないんじゃないか?」


俺は彼女を少しからかうように言った。


「あはは、確かにそうだね。じゃあ、高槻君の知り合いとか友達とかで誘い人とかっている?」


「そうだな...」


正直俺が誘える人だって多いわけじゃない。というか基本一人だけだろう。

古谷啓作、どうするか。彼は誘えば必ず興味を示してくるだろう。

ただ、ここで古谷に話しかけるとどこからか話が漏れるかもしれない。

ほとんどの人が「嘘」とか「都市伝説」とかで済ますと思うが、そうでない人もいるかもしれない。

そう考えると、少し危険な気もする。


それをを考えて、彼女には少しはぐらかすように、やんわりといないと答えるのが妥当だろう。

そう思って彼女に言おうとした時、

「まもなく東京中央駅でございます。お出口は右側です。

 続いて、お乗換えのご案内です。高崎線は12:45,高崎行き、宇都宮線は12:50分、

 東京中央線は12:44,東北リニア、東海リニアはそれぞれ1:00となっております。

 お忘れ物にご注意ください。間も無く、大宮、大宮。」


乗換え情報もご丁寧に教えてくれるアナウンスに俺の声が遮られてしまった。

もちろん、この後冷泉にはちゃんと言ったから、ひとまず安心である。


その後、特に会話もなく東京中央駅の構内を歩く。

平静を装いながら歩いていたが、内心は開いた口が塞がらないほど驚いていた。

東京中央駅、とんでもなくでかい駅だ。

それもそのはず、駅の体積、敷地面積は共に国内一位、世界で5本の指に入るほどで日本の先端技術を駆使した

広告、ほかメディアアートに似たようなものがあちこちにあった。


でもこんなことに驚いてしまったら、東京第一高校には口が塞がらないどころでは済まないだろう。

軽く顎は外れる、絶対に。それほどあそこはすごいところなのだ。


彼女には一応「礼儀はしっかりとな。挙動不審になるなよ。」と念を押しておいた。


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