第10話 横浜中央線 Ⅰ
***
私たちはこれから東京第一高校へ行きます。
研究レベルは世界トップクラス、国内ではダントツ1位の正真正銘の超進学校です。
実は私も中学生の時に東京第一高校からお誘いが来たことがありました。
その時は研究内容を公開しないといけないというルールがあったので断ってしまいましたが。
それはそうと、今日は私の記憶にある中では初めて、友達と2人で出かけるという記念日なのです。
まさか初めての友達が高槻君、男子になるとは夢にも思っていませんでした。
そして今わたしは、彼とバスで横浜中央駅まで向かっています。
バスこそ水素で動いているので走行音はほとんどありませんが、周りの乗客の声がそれなりに聞こえます。
どうやら私と彼は他人の話し声があまり得意ではないそうです。
彼は今、イヤホンをつけて対処しています。
私もイヤホンを持って来ればよかった...と、少し後悔します。
ですが、もうすぐ横浜中央駅に着きますから、別に心配はいらないでしょう。
少し経つと「間も無く横浜中央駅、降りる際は周りの乗客にお気をつけください。」
と言う限りなく人間の声に近づけた機械音声が聞こえてきました。
「高槻君、そろそろ着くよ。」
「...」
かなり大音量で音楽を流しているのでしょうか、全く聞こえているように見えません。
そこで、私はそっと彼の肩を数回叩きました。
すると彼は、少し驚いた様子でイヤホンを外し、どうしたの?といいたそうな顔で私の方を見てきました。
なので私は「高槻君。もう着くよ。」と一言言いました。
彼は「わかった。」と返します。
まだ2週間くらいしか初めて話しかけてから経っていないですが、私の彼には既に心地よい距離感が出来始めていました。
近すぎず、遠すぎず。迷惑をかけることもなく、必要以上に頼ることのない距離感です。
正直私はもうちょっと近づいてもいいと思っているのですが...。
そんなことを考えながらバスを降り、横浜中央駅の構内に入り、『横浜中央線』の文字が書いてある場所を探します。
正確には、『横浜中央線』の文字が映し出されているディスプレイを探す、でしょうか。
そしてそれはすぐ見つかりました。どうやら、2番線のようです。
私と彼は一瞬顔を見合わせ、2番線ホームに階段で降りていきます。どうやら技術発展によって運動不足になってしまった日本人が増えたようで、
駅は基本的にエスカレーターと階段の設置が推奨されているようです。とはいえ、ほとんどの人がエスカレーターを利用しているので、あまり意味はないでしょう。
とりあえず、私は1号車の方に向かって歩きます。彼は数m後ろからついてきているようです。
私が一番前から2番目の乗車口に着いたところで並ぶと、彼もその数秒後に着き隣に並びます。
今日は平日ですが時間が時間ですし、横浜中央線自体がリニアモーターカーが通るようになってから利用者が激減したので、ほとんど並んでいる人はいません。
見渡しても、同じ電車に乗りそうなのは私たちと10人程度でしょうか。
この人がごちゃごちゃしていない感じ、適度な過疎感がある所にいると
不思議と安心してしまいます。きっと彼も同じでしょう。
バスに乗ってから今まで全くと言っていいほど私たちは話していません。
流石に電車でも話さないとなると気まずくなりそうです。
なので移動中に彼と何か会話できたらいいなという淡い期待を寄せながら、ホームで静かに電車を待ちます。
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