第7話 並行世界について Ⅰ
/*朝*/
「おーい、高槻。おはよう! 昨日はどうだった?」
少し遠い所から、古谷が話し掛けてきた。
「おはよう。まあ、....、驚きの連続だった。」
「驚き...?」
「まあ、話せば長くなるから。」
「そうか。でも楽しそうで何よりだよ。」
「楽しそう?なんでそう思ったんだ?」
「高槻にしては珍しく、頰が緩んでいたからだよ」
「......そうか」
俺は、この時自分が若干楽しんでいることを自分自身で理解していなかった。
だが、顔には出ていたらしい。
/*昼*/
「そういえば、仮入部するなら今日も行くんだよね?」
「ああ。冷泉も説明したいことはたくさんあるだろうから、
ここ1週間くらいはずっとあるかもしれないな。」
「そうなんだ、じゃあ頑張らないとだね。
しかし高槻が勉強以外のことで頑張るなんて
関心だよ。お母さん嬉しいわ。」
「...お前は俺の母じゃないだろ。」
とりあえず今日は昨日よりさらに詳しい説明を受けるらしい。
「(パラレルワールドの詳しい説明...か...)」
内容を理解するだけでも骨が折れそうだ。
/*放課後*/
「こんにちはー」
「っと、まだ誰もいないか...」
今日のSHRはいつもよりも早く終わったので、まだこの教室には誰も来ていなかった。
来ると言っても、俺と冷泉しか来ないのだが。
とりあえずパラレルワールドについてもっと知ろうと思い、
机に山積みになっていたコピー用紙の一番上を取ってみた。
『並行世界の分岐点、および世界ごとの共通時間点』
「......ヤバい、意味わからん単語が多いな」
ここで教室の扉が開く音がした。
「っあ、もう高槻君先に来てたの?」
「ああ。SHRが終わるの早かったからな。」
「そうなんだ。じゃあ早速説明を始めるよ。」
冷泉が声を踊るようにして言った。
ただ、ここから怒涛の説明タイムが流れることを俺はまだ知らない。
テーマがテーマなだけあって、学校の授業なんて比じゃない難しさだ。
「まず最初は、パラレルワールド、並行世界とこの世界の違いを説明するね。
とりあえず、この世界を基準に考えてみると、パラレルワールドというのは、
この世界の歴史上のある地点で、別の結果になったか、
また別の選択をしたかで
途中から分岐した世界のことなの。
だから、パラレルワールドというのは無限にあると言っても過言ではないよ。
それで、なぜこのパラレルワールドが知られるようになったかっていうとね、
簡単に言っちゃえば、たまに別の世界から来ているとしか考えられない人が
この世界に来て、確認されているの。
例えば......、この世界では第2次世界大戦で日本は敗戦して、その後旧ソ連とアメリカの冷戦になった。
でも、その別の世界から来たとされる人は、そもそも日本は負けていないという世界から来ていた。」
「......」
とりあえず黙って聞いているのだが、どうにか理解はできる。
確かに自分も、少しだが昔そんなことを考えていた。
誰もが憧れる異世界、現実に存在するならば、それは並行世界なのではないだろうか。
例えば、もし宇宙が生まれるときに世界が分岐していたなら、物理法則が違っていたかもしれない。
また、人類が生まれていなかったら...。
どちらにせよ、もし存在するならば、それは、どんな世界なのだろうか。
また、それを彼女が知っているのだろうか。
「...結構理解するのがきついから、とりあえずその例について
詳しく教えてくれないか?」
「いいよ、その資料も確かこの中にあるはずだから。...」
そう言うと彼女はあらかじめ用意してあったように、1枚のコピー用紙を僕に渡してきた。
「ちなみにそれは、絶対に口外しないでね。
結構ヤバいところから仕入れてきてるから。」
「なんだ?、結構ヤバいところって?」
「まあ、口外しないことだけを約束してくれればそれでいいから。」
かなりすごいことをさらっと聞いたところで、俺はその紙に目を通した。
**
㊙︎ 並行世界についての見解、現状の研究記録 No.6
並行世界から来たとされる、Yさんのインタビュー記録。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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**
そこには、そのYさんと言う人が住んでいた世界について、またこの世界との比較がされていた。
この文書の中で、学者の見解としては、彼の住んでいる世界は戦争前に分岐したと語っていた。
どうやら彼によると、大日本帝国は俺たちの歴史よりも早く、ナチスドイツと手を組み、
他国を寄せ付けることのない兵器を開発していたようだ。
それも、核兵器より威力の高いものを開発していたとかいないとか。
さすがに信じがたい内容だ。でも、信じてみる価値も同等にあるものだと考える。
物語といえば、物語で済む話だ。
もし仮にこれを公開したら、大半は「物語だ、作り話だ」と言うだろう。
実際、ここに嘘発見器を用いたとあるが、実はそれをくぐり抜ける方法もあるらしい。
それを考えると、嘘である可能性はないわけではない。
だからと言って、まだ嘘と決めつけるのは早い。
明らかに、物語としては詳し過ぎるところもある。
設定してしまえばそれでいい話でもあるが、
よく考えたら、わざわざそこまでして話す理由がわからない。
「どうですか?、 高槻君?」
冷泉が静かに言った。
「うーん、とりあえず、一旦信じてみることにしようと思う。
ここで信じなかったら、先に進めない気もするし。」
「そう、ありがとう。」
「じゃあ次に、これについて説明していくね。
この資料には、ある現象を利用していたと書かれているの。
それは................................................」
彼女の説明はこの後30分ほど続いた。
さすがにこれについてをずっと聞かされていると、眠くなっていた。
とはいえ、ここで寝てしまっては冷泉が怒るだろう。
そういえば、冷泉が怒った所は見たことがないな、
どんな感じで怒るのだろうか。
とりあえず、冷泉が言っていたことの確認をしてみよう。
簡単に説明すると、この世界の人間が作る
機械なり兵器なりで生み出すエネルギーでは、
並行世界へ行くのに必要な量に対して全く足りないらしい。
そして、その問題を解決する手段が、まだ見つかっていないらしい。
なので、彼女は2学期期末までを目処にその方法を見つけ、
冬休みに並行世界へ行くという計画を立てているらしい。
ちなみに俺は同行しなければならないようだ、拒否権はない。
「はい、それじゃあ今日はちょっと早いけど終わり。疲れた?」
「とても」
「だよね、お疲れ様。じゃあ、今日は解散にしましょう。
そういえば、途中までは帰り道一緒だよね?」
「途中といっても、校門を出てすぐまでだけどな。」
「じゃあそこまで一緒に帰ろう!」
「そうだな、どうせ一人で帰るようだし。
そっちの方がいいか。」
「うん!」
そうこうして、彼女と途中まで一緒に帰ることになった。
帰り道で話した内容は他愛もない世間話...などではなく、
パラレルワールドについての考察だった。
ただそれを話している時の彼女の目は、常に輝いていて
何かしらの希望を持っていることが強くわかった。
さすがにそれを蔑ろにするわけにはいかず、
自分が理解している限りでの意見を言った。
今日のような日が続くとなると、少しだけ憂鬱になる。
四六時中数学をやっているような感覚だ。
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