第5話 冷泉葵の研究テーマ
***
「ようこそ、宇宙同好会へ!!」
なんとか言えました。ここまでは順調です。
しかし私のコミニュケーション能力はどうにもならないものなのでしょうか。
今までクラスメイトともそこまで長い会話をしてこなかった私は
話のうまい繋げ方がわかりません。
様子を見る限り、彼、高槻君もそうでしょう。
あの場はおそらく古谷君がどうにか進行してくれたおかげで成り立ちましたが、今日は気をつけなければいけません。
私の予想では、彼は私に必ず一つこの質問をするでしょう。
「どうして俺を選んだの?」と。
おそらく彼と私は根本は真逆の人ですが、そこから生えてる幹、枝、葉は非常に似ています。
そう考えると、彼の根の性格からして、「天才」というものをあまりよく見ていないでしょうから、少し否定的な立場で入ってくるはずです。
そうなったとしても、私は私の思ったことを言えばいいだけ、
そうすれば彼は必ず理解してくれるはずです。
彼と私の「根」の違いを他で埋めれるはずです。
そして、埋められれば私は...。
あれ?、私は何をしたいんだろう?
でもとりあえずはいいです。
とにかく、私が今集中すべきことは、彼と話すこと。これに限ります。
...がんばらないと!...
「えーっと、冷泉、何から話せばいいかわからないんだけどさ、
とりあえずひとつ質問いいかな?」
「ええ、もちろん(来た!)」
「ここからは俺の予想なんだけど...」
彼は、いま彼の考えている私の状況に関する推理を教えてくれました。
彼はどうやら
「私が研究で行き詰まっているから、助けが欲しい。」
と考えているようです。
当たらずとも、遠からず、といったところでしょうか。
「......、それで、多分僕の成績が冷泉よりいいから、僕を選んだのか?」
「それもあるけど、もっと別の理由からかな...」
「それは、どんな理由?」
おそらく彼は私に対して少し敵対意識を持っているはずです。
なので、ここは別の理由がメインと伝えないと、
おそらく理解してくれないでしょう。
なので 私は彼に、こう話しました。
「私が高槻君を選んだのは、.......似てると思ったからなの。」
「......」
「気に障ったら申し訳ないんだけど、私は生まれた時からそれなりに才能に恵まれてきた。
それで、その才能をいろんな分野で発揮してきた。もちろん最低限の努力はしたけど、
努力と呼べるような努力をしたかと言われると悩むところだね。
でも、私は、私が裏の人だったら、あなたは表の人、私が表の人だったら、あなたが裏の人。
そう思ったの。」
「どういうこと?」
「うーん、表現が難しいんだけれどね、あの、表裏一体って言葉があるじゃない?
それに似てるような似てないような...」
やっぱり伝えるのは難しいです。ただでさえ気持ちを伝えるのは難しいのに、
お互いの多少奥に踏み込んだ話となると、さらに大変です。
どうにか、伝わるでしょうか?
「......まあ、なんとなくわかったよ、言葉ではこっちも言い表しづらいけど、感覚で。」
「そう言ってくれると嬉しいな。」
***
やっぱり彼女はそう伝えてきた。俺も同じように思っていたから。
「俺たちは似てる」って。
運命がどうのこうのってレベルじゃないけど、なんとなくわかる。
多分違う苦しみだけど、同じくらい、何かに悩んでいたりとか、思うことがあったんだろう。
彼女は俺があまりいい反応をしないのでは?と踏んだのか、かなり言葉を選んでいる様子だった。
でも正直、俺は彼女という「天才」に対する敵対意識は
完全と言っていいほどなくなっているし、
むしろ好感さえ覚えてくるほどだ。
意外と、知り合ってしまえば、「天才」だろうと
一人の人間として話せるのかもしれないな。
もしかしたら、僕が前々から思っていた、僕の根底にあるこの思いは、案外あっさりと、砂のように、また綺麗に取れ、
プラスに変えられるのかもしれない。そう思った。
とりあえず、第1関門突破だ。彼女が僕を選んだ理由は理解した。
そろそろメインに入らないといけない。
「......OK。冷泉が僕を入れたい理由はよく理解した。
冷泉のいうとおり、俺たちって意外と似ているのかもしれないな」
「ふふ、そうかもね。」
彼女の安堵したような笑顔が見られた。ひとまず安心だ。
「それで、具体的にこの同好会、というより冷泉は何を研究しているんだい?」
「そうだ、それが重要なんだった。
えっとねー、私が研究しているのは
『ハビタブルゾーン(生命が存在できるとされる天文学上の領域)の真実』
っていうテーマなんだ。」
意外と普通だった。でも彼女がわざわざこの同好会を作る理由がわからない。
もしそれだけなんだったら、彼女は独自で進められるだろう。
また、研究資金がないのであれば天文学部に入るだろう。
でも、研究資金が足りないとは思えない。
この教室には、機械が一つもないのだから、現在使っている部費といえば、
A4コピー用紙くらいではないだろうか。
おそらく、彼女には別の目的があるはずだ。
「それだったら、天文学部に入ればよかったんじゃないか?
あそこだったら、部費からそれなりの研究費用が出るだろうし...」
「そうだね、私がさっき言ったテーマがメインテーマだったら、
天文学部で十分だね。」
「メインテーマ?」
「うん、ここからかなり突拍子も無いこというから注意してね。
私が研究しているそのテーマはあくまで表向き、だからこの同好会の実績を作るだけのものなの。 でもよく考えてみて。
自分で言うのもなんだけど、私は世界でも有数の知能を持ってる。
コミニュケーション能力はないけど...」
「それは余計だ」
思わずクスッと笑ってしまった。どうやら彼女も冗談を言えるらしい。
でもよく考えたらそうだ、彼女の頭脳を持ってすれば、すぐに答えが出そうだ。
あれ?、じゃあなんでテストで毎回2位なんだ?、
正直そんなにすごい知能があるなら、全教科満点も夢じゃないだろう。
この学校のテストは5教科+選択教科1科目の550点満点で評価される。
選択教科の中には、非常に取りやすいものもあるから、それを選べば
満点はほぼ確実のものだ。
それなのに、彼女は。
ここにちょっとした疑問が俺の頭に残った。
でもそれが解決するのは少し後のことだった。
「まあそれでね、正直このテーマの答えはすぐに出たの。
でも普通の人だったら、だいたい丸1年くらいかけて研究するものだから、
とりあえずこの1年間まだ答えが出ていないふりをするつもり。」
「でもどうして?」
「それは私の研究テーマが別にあるからなの」
突然だが今日の天気予報は晴れのち曇りらしい。
まあ、曇ってても窓のないこの教室からは見えないのだが。
その分、俺は、2人がまるでこの世界からいい意味で孤立しているような、
何かから解放されたような、気持ちのいい感覚を覚えていた。
「その別のテーマがね、「並行世界。パラレルワールド、なの」」
「.......は?」
「その別のテーマがね、「並行世界。パラレルワールド、なの」」
「いや、2度同じことを言わなくても大丈夫です」
俺の思考はしばらく停止した。
パラレルワールド...?
聞いたことはあるワードだ。でもどちらかと言うと、SFというか、
非現実的な物語でしか聞いたことがない。
「なんてことだ。冷泉は厨二病、いや、それをこじらせた高一病だったのか」
「思いっきり声に出てるよ。」
「いや、知ってる。
とりあえず、オススメの病院教えようか?」
「いいから、とりあえず今は真剣に聞いて欲しいの。」
「....うん、わかった」
「じゃあわかりやすいにね、私の過去から少しだけ話してあげる。」
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