第3話 ファミレスにて--

***

/*ファミレス*/


我ながらとんでもないことが起きた。俺の目の前に冷泉葵がいるのだ。

しかも、ただいるだけはなく、ファミレスで向かいの席に座っている。

どうしてこうなった。


しかし、彼女も相当緊張しているようなので

、こっちもあまり緊張している訳にはいかない。

お互いが緊張してしまっては、気まずい沈黙の時間が続いてしまう。


緊張してしまうなら、学校で話せば良いではないか、

ついそんなことを思ってしまう。

思ったところでどうにもならないから、ここはとりあえず、要件を聞くとするか。


「あの、冷泉さん。僕に何か用があってきたんですよね?

 できれば、教えて欲しいです。」

「えっと、私は改めまして、冷泉葵といいます。

 まず、よろしくお願いします。」


話が噛み合ってない。というか、緊張しすぎだろ。

今、自分の中での冷泉のイメージが大きく変わりそうだ。

前の彼女はもっと、こう、「冷徹な天才少女」というイメージがあった。

というか、天才に対する僕のイメージはほぼそんな感じなんだがな。


「じゃあとりあえず、自己紹介をしましょうか。

 僕は、古谷啓作です。どうぞよろしくお願いします。」


古谷が流れを作っていってくれた。

俺はあまりコミニュケーションが得意ではなかったので、非常にありがたい。

さすが親友、持つべきものは親友だ。


「俺は、高槻裕也です。改めてよろしくお願いします。」

「あっ、よろしくお願いしますっ」

冷泉が慌ただしく話した。


「...ねえ、高槻。なんか敬語じゃ硬いから、

3人お互いにタメ口で話さないか。」

「そうだな、冷泉さんさえよければ俺もそっちの方がいいかもしれない。」

「冷泉さん、どうですか?、タメ口でも大丈夫ですか?」

「...大丈夫です。えっと、じゃあ、......よろしく」

「うん、よろしく、冷泉」

「よろしくな、冷泉」


とりあえず会話はスムーズ?に進んでいる。

おそらく冷泉もコミニュケーションがあまり得意ではないんだろう。

なんとなくだが、俺と似ている気がする。

ここまでではまだなんとも言えないが、

彼女の初対面の人に対する素振りを見れば、人見知りであることがわかる。

それが彼女の元々の性格によるものなのか、それともなんらかの出来事があって、もしくはこんにちまで続いていて、そうなっているのか。

彼女も、何かかかえているのかもしれないな。

正直、俺が抱えているものなんて大したものじゃないし、自己満足のやっているものだ。

でも、彼女が何かを抱えているのなら、それは「天才」故の苦悩だろう。

まあそれはいい、いずれ聞くことができるかもしれない、...仲が良くなれば。

どちらにせよ、まずは彼女の用事を聞いてみないことには意味がない。


「で、冷泉。俺に何か用があるのか」

「そうなんで...そうなの。相談というか、勧誘というか。」


相談は珍しいことじゃないが、勧誘ってなんだ。もしかして怪しい宗教とか。

この時の冷泉の挙動不審な態度を見ていれば、なんとなくありえると思った。

もしかして、彼女の良心が邪魔して今のような感じになっているのかな?


まさか、それはないだろうと自分が心の中で行った冗談を自分で否定した。

でも、彼女の態度が冷たくないおかげで、僕は今比較的安心して話しかけることができる。その点は感謝だろう。


「その相談みたいな、勧誘みたいなのは、どんな内容なの?」


***


緊張が止まりません。なぜでしょう。

そもそも男子に相談みたいな話をしたこともないし、これまでしようとも思っていないからでしょうか。

タメ口なんて、友達に使ったこともありません。

慣れるまでどれくらいかかるでしょうか。

どうせだったら、心の声、思考する時もタメ口でやってみますか。

と、思ってみましたが、今からやってもさらに混乱しそうなので、またそれは後の話にしましょう。

とりあえず、今は高槻く...高槻に...、高槻君に内容を伝えないと。


「うん、お願いが1つあるの。後、できれば古谷君も」

「僕のおまけ感すごいね」

「あ、いや、そんなつもりは...」

「大丈夫、冗談冗談」

「それで、お願いとはなんなんだ?」

「単刀直入にいうと、宇宙同好会に入って欲しいの。仮入部だけでもいいから。」


「「宇宙...同好会...?」」


二人は口を合わせて言いました。

流石にここまで知名度がないとは、少し心が痛みます。

よく考えてみたら、

これまでクラスメイトとは部活の話をしたことが一度もありませんでした。

それを考えると、他クラスの二人が知ってるはずもありませんね。

一応、1学期の文化祭ではちょっとした出し物をしたんですけどね......誰も来ませんでしたが。

おそらく、一般の客は天文学部とここを同じものと考えてしまったのでしょう。

来年は、...頑張りたいなぁ。とにかく、二人に説明しないと、別のことを考えている暇はありません。


「うん、私が設立した同好会なの。細かい事情を話すと長くなるから、ひとまず、重要な点だけ話すね。

 私は今、部員...会員?、どっちだろ...、とりあえず、今宇宙同好会は私一人しかいないの。

 だから、できれば二人に入って欲しくて。」

「あ、でも、怪しい部活じゃないから安心してね!。」


***


いや、そんなこと言われたら逆に怪しむだろう。

宇宙同好会...、聞いたことがない。


正直自分も天文学部の何かだと思ってた。それに細かい事情ってなんだ?

よく考えてら、部員一人だと設立できないはずじゃ...。


「(高槻。お前は、どう思う?)」

「(どうって、古谷。流石にこれだけだと判断のしようがないな。

  とりあえず、詳しい事情は後で聞くとして、とりあえず仮入部

だけ行ってみないか?)」


「高槻が積極的!?」

急に古谷が声を張り上げた。

「ど、ど、どうしたんですか!?」

冷泉は驚きのあまり、素に戻って敬語になっていた。

「突然どうした?」

「いや、だって...」

「これまで、部活に興味なんてないと言い張ってたのに、なんで?」

「まあ、それは...、

 ほら、もう2学期で、高校生活にも余裕ができてきたし、ちょっとは考えてもいいかなって...」

「ついに、「教科書人間」が進化して、えっと...「学校人間」に進化した...!」

「古谷君、どゆこと?」

「どう意味だ古谷?」

「まあ、特に気にしないで。

でも、高槻に仮入部の意思があったとは驚きだよ。」

「高槻君、仮入部してくれるの!?」

今度は冷泉が声をあげた。彼女の目はこれでもかというほど輝いていた。

今まで、見かけている間はそんなそぶりもなく、

どちらかというと仏頂面が多く(それでも顔立ちの良さから様になっていたのだが)

、笑顔を見ることはほとんどなかった。

冷泉にはこんな一面もあったのか、本当に冷泉のイメージが180度変わりそうだ。


「まあ、仮入部だけだったら、してみようかな。

 期末はまた結構先だし、勉強にも支障はないだろうからね。な、古谷?」

「あぁ...、多分僕は出れないかな。高槻は知ってると思うけど、僕は天文学部の方に入ってるし、

 文化部といえど結構忙しいならね。申し訳ないけど、今回はお断りさせてもらうよ。」

「そう...、でも考えてくれてありがとう。」

「いや、大丈夫だよ。こちらこそありがとう。」

「なんのありがとうだか、わからないが...。 

 とりあえず冷泉、よろしくな、仮入部。」

「はい、お任せください!」

冷泉は胸に拳を当てながら自信たっぷりに言った。


/*ファミレス-外*/


「じゃあ今日はありがとう、冷泉」

「ありがとうな、冷泉」

「はい、じゃあまた、私は方向逆なので」

「ああ」

「わかった」


その後、古谷と帰ったのだが、


「ねえ、高槻。」

「なんだ?」

「正直、あそこまで見た目のいい女性と話すのは流石に緊張したよ。

 あまり容姿での差別は良くないと思うけど、流石にやばかった。」

「大丈夫だ、俺も同じだ。」


正直なところ、俺も結構危なかった...、なんて思いながら家に着く。

「ただいま...」

なんて言っても、壁に反射した自分の声が少し返ってくるだけで、他に誰の声も聞こえなかった。

「当たり前か...」

そう、僕には両親がいない。小さい時に、交通事故で亡くなったからだ。

今は、祖父母に育てられている、というよりかは、平日学校のあるひは、今のアパートにいて、

たまに祖父母の家に顔を出すと行った感じだが。

一人にしては少々広いアパートの一室で、静かに鞄を下ろし、一人夕飯の準備をした。

準備をしたと言っても、今日はコンビニのカップラーメンなのでとても楽だ。

そこで、帰り際に冷泉からもらったメモを思い出し、ポケットに手を入れ、紙を出した。






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